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本日は二話投稿予定です。
一話目の投稿です。
「うーん、最終日は今日よりも人が多くなるのか、それとも少しは落ち着くのか…どちらかしら?」
子供達と二日目のバザーが終わった後の片付けをしながら、そう呟いていたら、ひょこっとデリックが私の左隣を確保しながら、答えた。
「やっぱり多くなるんじゃないですか? 来てくださった貴族の方と少しお話させてもらったんですけど、サシェが御令嬢や御夫人に評判いいらしいですよ。
それに刺繍されてる布小物も。クッキーはいつも通りのような気はするんですけど、それでもプレーン以外の味も増えたから、目新しさがあるみたいです。しかもプレーンとドライムールベリーは今年も作れたけど、ドライアペルは今年だけかもと思う方が多かったです」
「まぁ! 貴族の、しかも女性の方に好んで頂いてるのね。いいお話を聞けたわ。デリック、ありがとう。
それなら…やっぱり明日は多くの方がいらっしゃると考えて、準備したほうがいいわね。元々そう考えてはいたけどね」
デリックと明日の準備をしながら、しばらく話をしていた。
やっぱり明日の来客数は増えると考えておくべき、と頭の中で軽く考えをまとめたら、デリックに軽く肩を叩かれた。周りに子供達はいなくて、二人きりになっていた。もっとも私はそんなことに気付いてもいなかったけど。
「マージェリー修道女様、私が孤児院で過ごせるのもあと少しなんです」
「ん? ええ、そうね」
「そろそろ答えを頂けませんか?」
「…答え、答え? あぁ、そうね。でも…私言ったわよね。無理って」
「あー…くそっ、まだ無理か…。これは本格的に長期戦…」
「何か言った?」
デリックに結婚の申し込みをされてたことを思い出し、それをすっかり忘れてたことも思い出していた。でも、無理だと即答していたことも思い出していた。
デリックが何か最後に小さく呟いていたみたいで、私には聞こえなくて聞き返したんだけど。
実は初めての告白の後、何かとデリックからは言い寄られていた。行動だけでなく言葉でも思い切り意思表示され続けていた。おかげで日常と化してしまっていて、聞き流すような格好になっていたことも思い出していた。条件反射的に無理って返してなかったかしら?
やっぱりデリックは弟みたいなもの、としか思えない。…まぁ少しはデリックに翻弄されたこともあったけど、コホン。
「まだまだマージェリー修道女様を落とせないのかなって。仕方ないですね。残りの時間だけじゃ無理みたいだし、ここへ戻って来てからも頑張りますんで、待っててくださいね」
「…落とされるつもりないわよ。でも、デリックがステラ修道院に戻ってくるのは待ってるわ」
「本当、厳しいなぁ。でもそれもいいんですよね。私にとってマージェリー修道女様は姫なんで」
「…私、姫っていうタイプじゃないのに」
デリックは相変わらず私を諦める気持ちがないらしく、ちょっと困ったな、と思ったことは内緒だ。私が眉尻を下げて恨みがましくならない程度には私よりも背の高いデリックを上目遣いで見上げてしまった自覚はあったけど。
「そういう顔したら、諦められなくなる原因なんですけど…分かってます? もしかして、駆け引きとか?」
「え? 意味判らないんだけど!?」
私はただただ意味が分からなくて困ったな、という顔をさせてたと思う。でも、目の前の人物は、私のそんな顔を見て、目じりを下げているし、よく見れば頬が染まっている。
なんで!?
「…困るんだけどな。貴女が意図してそういう顔してるわけじゃないって分かってはいるんですけど」
「だから、どういう意味?」
私の恋愛スキルなんて正直言えば、ないのと同じだと思う。だって、片想いだけならマージェリーがずーっとそうだったと思うけど、私の前世の記憶を辿れるだけ辿ってみると、どうやら恋愛遍歴が見当たらない。ということは! マージェリーは婚約者もいなかったわけだし、必然的に家族以外の男性で親しい相手なんていなかったわけだから、そこはもう…前世の私レベルじゃないかなって想像出来る。というか、記憶からほぼ確定。
だから、私自身が今デリックに向けている表情がデリックにとってどういう感情を引き出すかなんて分かるはずもない。『そういう顔』と言われても分からないだけ。
でも…そう、多分デリックにとって恋情を煽るような顔をしていたのかな? とはぼんやりとは想像出来たけど、あくまでも想像だけであって理解は出来ない。
だって自分にとってただ困ったな、という顔をしただけだから。でも、だからそれが『そういう顔』というのはやっぱり解せない。うん、分からないものは分からない! ということだからスルー。
なんて頭の隅で片付けていたら、唐突にデリックが私の手を握ってきた。
「マージェリー修道女様、私はどう考えても貴女以外の女性は欠片も興味が持てないので、私以外の男の手を取るのは諦めていただけますか?」
「…は?」
私は少し不機嫌な声が出た気がした。顔には出ていない、と思う。
「やっぱりお覚悟願えれば、と。私から逃げられないという」
「………はぁ?」
さすがに…声だけでなく、顔にも不機嫌さが出たと自覚もある。なんか…嫌じゃない? 一方的に相手に「逃げられないから覚悟しろ」って言われるなんて。逃げたくなるのは私の性格かしら?
「ははは。そういう酷く不機嫌な顔もいいですね! 貴女の一挙手一投足、全てが私にとって焦がれるもののようです。貴女が他の男がいいと言っても逃がしませんから、この先私の手を取るための心の準備をお願いしますね」
「………はあぁぁ。疲れるわ…」
「うん、すごくいい。マージェリー修道女様はとても可愛らしいですね。すぐにでも抱き締めたいくらいです」
「や、やめてー!!」
どこまで本気でどこまでが揶揄いなのかが分からない年下男子に、また振り回されてる私は、非常に危険な状況なのではないか、と今初めて気付いたところだった。
私の手を握っているデリックの手は、酷く熱くて、気付けば互いの指を絡めるように手を繋いでいるような恰好で、それに気付いてしまうともうキャパオーバーな自分がいるだけで、心の中では気絶寸前だった。
くっ、年下のくせに…。いつか反撃してやる…、などと思ったのは、翌朝のこと。それくらいには、この時デリックに振り回されていたのだ。
そして私はまた心の中で叫んでいた。
(デリックのばかー!!!)
お読みいただきありがとうございます(*^^)
二話目は夕方頃投稿出来ると思います。
お待ちいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




