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私が孤児院で奉仕を担当するようになり、後に刺繍も奉仕としてすることになり半年が過ぎた頃から、バザーの準備を始めた。
ちょうど去年のバザーを終えてから、年長の女子二人オーレリアとヴィヴィアンは働き口を見つけ、バザーを手伝った後に孤児院を巣立っていった。
去年のバザーでは二人が刺繍をたくさん頑張ってくれていたこともあったから、心配だったわけだけど、バザーの準備時期になり卒業した二人が手伝いに来てくれるようになった。休みの日に来てくれるだけだったけど、それでも充分な戦力だった。
子供達も二人に会えて嬉しいというだけでなく、巣立った二人と一緒に過ごす時間が出来て喜んでいた。
もちろん、修道女皆が二人の元気そうな様子に喜んでいたわけだけど…猫の手も借りたい状況になるのが分かっているから、心底喜んだことは嘘じゃない。
それに彼女達より以前に巣立っている人達でも都合がつけば手伝うと申し出てくれている人もいて、本当に助かっている。
基本的には去年と同じようにサシェ用に刺繍をするのが年長の女子組の担当。ポプリ作りもほぼ同じ。クッキーは年齢の低い子供達全員。剣術の披露は年長男子組。
ただ、作るクッキーはプレーンとドライムールベリーは同じだけど、蜂蜜は毎回入手出来るわけではないから、今年は別のものを準備してみた。
実は孤児院の先輩修道女の御実家でリンゴによく似たアペルという果物の果樹園を営んでいるお家がある。その修道女の御実家からその果物がよく実ったのはいいけど、多過ぎて売り切れない状況で困っているから、と孤児院の子供達にとたくさん頂いた。
そこで、先輩修道女と話をしていると、本当に困っているという御実家の状況が分かったから、御実家とお話をして、アペルを加工しているのか確認してみれば、全くそういうことはしていなかった。ドライフルーツにするだけでも日持ちするようになるから、試してみては? と提案してみたら、すぐに試したとかで、そのドライフルーツにしたアペルを届けてくれた。それをクッキーに混ぜてみると、甘みが増して子供達が取り合いをするくらいには好評だった。というわけで、修道女の御実家と話をさせてもらって、バザー用にドライフルーツにしたアペルを融通してもらうことになった。
もちろん対価は支払うという話をした。けれど、新しい商品が出来たことで、アペルが無駄にならずドライフルーツを仕入れてくれる販路が増えたということで、バザー用のドライアペルの代金は受け取れないと言われてしまい、ありがたく好意を受けることになった。
ちなみに、翌年もドライアペルが届けられることになるのは予想外だった為、孤児院の院長、先輩修道女共々慌ててお礼を伝えることになったのは、後の笑い話。
話を戻すけど、今年のバザー。
デリックが孤児院から出て外の教会へ行き、聖騎士としての訓練を受けることが正式に決まったため、最後のバザーということになる。
そのため、子供達もデリックが楽しめるように、いい思い出になるようにと頑張っていた。
「デリック兄ちゃん最後だもんな。兄ちゃんも楽しんでくれるといいな」
「大丈夫だよ、バザーの準備の時から楽しんでるよ」
「マージェリー修道女様、本当?」
「うん。デリックも皆と楽しみたいって言ってたもの。大丈夫!」
「良かったぁ」
もうずっとこんな調子で子供達がデリックのことを気に掛けていた。勿論、デリックも。孤児院の子供達は両親も兄弟もいない。本当なら家族とずっと暮らしていけたかもしれない。でも、一人残されたり捨てられたりしてきた子達ばかり。
だからこの孤児院にやって来て、兄弟のように過ごすようになって、気付けばみんなが一つの家族のようになっていた。その中心に間違いなくデリックがいた。一番年上ということもある。だけど、それだけじゃない。デリックの人を惹き付ける何かが子供達に安心感を与えているのは本当。さり気なく皆を気遣うところも、とくに小さな子供達には頼もしい存在だと思う。
そんなデリックが孤児院で過ごす最後の時間だから、と子供達は一生懸命がんばってデリックとの時間を楽しんでいた。
私もそんな子供達のために動いていた。
⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑
バザー初日は例年よりも少し人が多いと思う程度だったそうだ。去年と比べると、確かに少し人が多いかも、と思っただけだった。
問題は二日目からだった。確か去年もバザーの二日目には人が僅か多かった気はしていた。でも、今年は違う。どうしてなのか、初日の昨日よりも人出が多かった。まるで、初日に様子を見て…つまりバザーに出された売り物の内容を確かめるという感じだったけど…二日目に人がやって来ているような感覚だろうか。
そう言えば、初日に来ていた人達は貴族よりも使用人じゃないかと思える人達が多かった気がする。
今年は、まだ刺繍を始めて間もないケイトが加わったこともあり、作るものについては去年と変わりはなかった。でも、卒業したオーレリアもヴィヴィアンも頑張ってたくさん刺繍をしたものを提供してくれたおかげで、ハンカチ以外に小さな巾着袋や、私がパッチワーク生地で作った袋と同じような物をヴィヴィアンが勤めている衣装店で出る端切れで同じように作ったものをいくつか提供してくれたりと、賑やかになっていた。
クッキーについては、プレーンとドライムールベリー、ドライアペルの三種類の味で準備をしていたから、種類は増やすことなく、でも作る量は去年よりも増やしていた。
それでもやっぱり量が足りなくなるのは予想出来ていて、だけど去年は一度作るだけで済んだけど、今年は初日で準備した分がほぼ売れてしまっていて、二日目の分は初日の夜に改めて追加として作ることになった。
量を増やして準備していたのに、それも少し心許無い気持ちにさせられるくらいには、多くの人達が買い求めてくれるから、子供達も修道女達も嬉しい悲鳴をあげそうだった。あげはしないけどね。
昼食のために売り子の交代をする頃になると、バザーの会場も少し落ち着いてくる。理由は、もちろん客としてきてくれている人達も食事をする時間帯だから。
売り子として残ってくれたのは年長の子供達で、小さな子供達の食事を優先させた。後はクッキーを作る子供達と売り子に行く子供達とで交代しながら、売り物の確認をしていた。
幸いにも辺境伯家の人達は来ていない。…多分来るなら明日。
(明日かぁ…来なくていいよ、って言えないし。だって孤児院の最大のスポンサーだし。私も家族に会いたいし…。出来るなら男の子達と顔繫ぎはしてあげたい。聖騎士になれない時に辺境伯家の騎士団でって可能性も子供達に考えてほしいしね。就職先は少しでも多いほうがいいから)
そんなことを考えながら、今すべきことはクッキーを追加して今日明日に備えること、それからサシェの在庫確認と他の布小物の在庫確認。
「…なんとか大丈夫そう。良かった! そう言えばハーブティも売ればいいのにね。来年はハーブティも検討しよう」
そんなことをポツリ独り言として溢しながら、二日目も予想通りにクッキーがほぼ売れてしまったのだった。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
ラストでハーブティとか言ってるマージェリーさんですが、言ってるだけで実行はできないというオチが待ってます。
修道院で使うことを頭に入れず考えてるあたり、ダメなやつ。
捨てる部分の野菜を使った染色とかも出来ればと思いながら、作中に反映されなさそう。
刺繍以外の布小物とか色々作れると楽しそうなのに…。
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次回もよろしくお願いします<(_ _)>




