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 バザー二日目にして、変化があった。

実は初日に年長の女の子達が刺した刺繍がとても評判が良く、準備していた数が心許無い状況になってきていた。つまりは、サシェの在庫が乏しいという話。

クッキーは追加で作ることが出来るため、あまり心配することもないだろうと思っていたけど、時間のかかる物の方が先になくなるのが分かってきたため、私が念の為にと用意していた刺繍をしたハンカチを並べることとなった。かなりの枚数を準備していたため、こちらはなんとかなりそうだった。

正直冷や冷やしたのは本音。だから、初日の夜に追加分が必要になっても大丈夫なように、少しだけハンカチに刺繍をして「少しでも在庫を補充しよう!」と考えてそれはなんとかなったんだけど…、少々問題が発生していた。

ええ、私の目の前で。ええ! 本当、勘弁してくださいませ、お父様とお兄様達!!


「マージェリー、元気だったかい?」

「はい、お父様! いつもお気遣いくださり、ありがとうございます。私はこの通り、元気にしておりますわ」

「良かった、マージェリー! 俺達もずっと心配していたんだよ」

「分かっておりますわ、お兄様。いつだって私のことを考えてくださるのはお兄様方ですもの」

「「「マージェリー!」」」


 既に貴族籍から抜けてるから、私は平民なんだけどなー。という内心の思いを吐露することは一切なく、ただただ父として兄として気持ちを向けてくれる目の前の父+兄達が孤児院のバザー会場である、孤児院の庭にやってきてる現状に、正直言うと非常にひっじょーに頭が痛いなー、と思っているのだった。が、言えるはずがない。言えるわけもない。だって、父はこの孤児院の重要なスポンサーだから。そして兄達も未来のスポンサーだから。というわけで、私は営業よろしく頑張って父と兄達におもてなし中。そう、これは営業。間違いなく営業。営業スマイルでがんばる! …私、確か前世では子供に関わる仕事をしていたと思うのよね? もしかして、教育関連の何かを販売していたのかしら? うーん、分からない。

 ま、それはともかくよ!

兄三人が私をぎゅっと抱き締めて、あわよくば連れ出そうとするような感じなのは、非常に危険な様子に見えたかもしれない。

 兄達は父によく似た顔立ちで、肉体派。つまりはガッチリ鍛えた体の大男三人にぎゅーっとされてる私というのは、多分そのまま私がお持ち帰りされそうにも見えたのかもしれない…(遠い目)

クッキーを売っている場所でがんばってお客様のお相手をしていた小さな男の子達が涙目で、兄達の足元で一生懸命に私を助けようとがんばっているのが声だけ聞こえてきたから。


「マ、マージェリー修道女さまをはなして、ください!」

「マージェリー修道女様をいじめないでー!」

「修道女様困ってるよ! やめてください!」


 誰が誰だか今の私じゃ判断出来ないくらいには、妹離れが出来ない兄達にギューギューにされてて、私は死にそうになっている。というか『大丈夫なんだけど兄達にもみくちゃにされてますよー』『軽く圧死、しないけどしそうですよー』という状況での子供達の懸命な救出を試みる様子を声だけ聞いている。

 本当子供達が皆いい子だわ~、なんて思うんだけど半分くらい死んでる。ギューギューされ過ぎてて死んでる。兄達の愛が重い。物理的に重い。そんな状況になってて、子供達もちょっとパニックになりかかってて、そこへデリック…だと思う声が聞こえてきた。


「あの! マージェリー修道女様が困っておられるのではないでしょうか?」

「「「あ?」」」


 デリックは兄達の威圧(ほぼ確実に兄達は威圧するつもりがない)に怯むことなく、兄達に声をかけている。すごい! 君は出来る男だったのか! と褒めておく。絶対に言わないけど。


「もしかしてなのですが、マージェリー修道女様のご家族の方々でしょうか? もし、お話があるのでしたら孤児院内に談話室があります。そちらでお話をされるのはいかがでしょう?

そのほうが、落ち着いてゆっくりすることも出来ると思います」

「なるほど! それはいいことを聞いた。少年、ありがとう」

「いえ」

「というわけだから、父上! マージェリーと一緒に談話室へ向かいましょう」

「そうしようか。少年、わざわざありがとう」

「とんでもございません」

「デリック、ありがとうね」

「ご家族水入らず、ゆっくりなさってください」


 ということで、デリックの提案を受けて、父と兄達は私を談話室へと拉致したのだった。本当、拉致だよ…。長兄に横抱きにされてる…。思わず顔を両手で覆ってしまった。

ま、それはともかく! 

 デリックのおかげで、久しぶりに家族の時間を楽しめたのは本当だったし、もしデリックがいなければ、父達を適当にあしらって適当に帰していたと思う。だって、子供達の前で家族の話なんて出来ないもの。特に、親を亡くしている子供達の前でなんて。

だから、デリックのおかげなの。彼だって家族のことでは複雑な事情があるのに。

 父達が満足して、やっと帰った後のこと。私が子供達のいるバザー会場へ戻ると、初日同様にサシェの在庫が危うい感じになっていた。ただ、私の刺繍したハンカチもあるためか、まだ完全には無くなっていなくて安心出来た。

小さな子供達が頑張って作ったクッキーはまだ大丈夫そう。だけど、初日でもクッキーも評判が良かったからか、前日よりも売り上げはいい。だから、追加のクッキーを焼いたほうがいいかも、と思い始めている。ということで、先輩修道女に相談してくることにして、子供達に後を任せた。

 急いで先輩修道女にクッキーの追加を焼くかどうかを相談したところ、毎年追加分を焼いていると教えてくれて、今年もちゃんと準備を整えているとのことだった。

というわけで、売り子は年長の子供達に任せ、小さな子供達と一緒に厨房に向かったのだった。


「サシェもたくさん売れたみたいだけど、クッキーもたくさん売れたみたいね。良かったね、皆ががんばったからよね!」


 そう子供達に伝えれば、みんなすごくいい笑顔で「うん」と答えてくれた。

その笑顔に『みんなが頑張った証だからね』と伝える。子供達が自分の手で成し得たことだから、自信を持ってほしいと思った。これからも強く生きていくために。

小さな成功を重ねて自信をつけて、自分を肯定することを覚えて、未来を信じていってほしい。そう私は思う。どんな境遇にいる子供でも、そうあってほしい。だから、私は目の前の子供達を支え続ける。

 改めて孤児院の奉仕を与えられたことに私は深く感謝している。

これがきっとこの世界の神様の思し召しなのだろう。初めてカクラート神様を身近に感じた瞬間だった。

お読みいただきありがとうございます(*^^)

明日に投稿を予定してましたが、難しいのが分かったので前倒しで今日投稿することにしました。


談話室でマージェリーさんが父と兄'sにした最初の会話はこれ。

「お母様はどうされたのです?」

母親以外が勢揃いしてるから気になるのは当たり前で。

「体調を崩したから、無理矢理寝かしつけてきた」

と父からの返答と兄'sの何とも言えない微妙な空気で察したよう。

「そうでしたか、お母様の悪い癖が出たんですね。テンション上がり過ぎて、微熱が出て、現在は熱がガッツリ出てる頃って流れですね」

「…そうだ。マージェリーと会えると喜んでいて、それが悪い流れに乗ってしまってな…」

「相変わらずですね、お母様。まぁ、らしいと言えばらしいんでしょうけど」

「…前日の昼間は元気だったんだがな」

「…夕方には熱が出始めましたね」

「ああ」

マージェリーさんの母ってば、ちょっと小さな子供みたいなところがあるんですかね。

ほぼほぼ確実に自分だけが愛娘に会えなかったものだから、拗ねて面倒臭いことになるマージェリー母が出来上がっていて、他の家族が大変な目に遭うわけだけど、マージェリーさんが知るはずもなく。

予想は出来てても。


マージェリーさんちの実家もなんか色々面白いことが転がってそうですが、書くことはないでしょうけども。

そうそう、マージェリーさんが父に送ってもらってる刺繍関係のあれこれですが、辺境伯家ではなく親類で商会を営んでる家があって、そちらに父が頼んでるみたいです。


ブックマーク登録、評価、いいねをありがとうございます(*^^)

総合評価の数値が変わるのを目にする度に一瞬戸惑うのはもうお約束になって来てますが、ありがたく思っております。

次回もがんばりますので、よろしくお願いします<(_ _)>

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