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デリックがジャッキーとケイトの二人にバカな嫉妬をした後、改めて告白のようなものを投げ付けられて、もちろん精神的になのだけど、気持ち的には物理的に投げ付けられた感覚だったけど、戸惑うしかなくてあの後すぐに私はデリックから逃げ出した。
私は厨房をジャッキー達に任せたままだったこともあって、すぐに合流した。
二人には体調が悪くなったから休憩室へ行くとデリックが伝えたこともあって、心配させてしまったけど大丈夫だと伝えれば、二人共安心していた。
目的のドライムールベリーを無事見つけ、保管されている瓶の数を確かめた後は先輩修道女に確認を取り、バザーの責任者でもある院長様にも確認を取って、無事ドライフルーツ使用権をゲットしましたよ。やった!
バザーの準備は順調に進み、年長組の女子達が担当したサシェ用の小袋も仕上がっていたし、中に詰めるポプリの量も問題なし。そして小さな子供達ががんばって作ったクッキーもプレーンなものとドライムールベリー入りのもの、それから男の子達の剣術を教えてくれている聖騎士様の御実家から届いたという蜂蜜のおすそ分けがあったので(しかもたくさん!)それを使ったクッキーも加えた三種類の味を用意することが出来た。
男の子達の当日の剣術の発表も順調に仕上がっているようで、聖騎士様も子供達のことを褒めているようだった。
バザーの当日まで忙しくて大変だったけれど、私は夜なべして子供達が作った分では足りなかった場合を想定して、ということなのだけど、ハンカチに刺繍をしていった。本当、両親がたくさんハンカチを送ってくれていたの。多分…これは家族に刺繍したものを送ってよこしなさい的なものだとは思ったのよ。だけど、本当にたくさんあって、全てに刺繍したものを家に送るのもどうなのかしら? というくらいの枚数だったから…数えて呆れたものね、百枚ほどあったから。だから、家族にはそれぞれ二枚刺繍して手紙と一緒に送っているから文句はないと思う。
残りの枚数をたくさん刺繍して、それから…それとは別に毎日少しづつ進めていた孤児院の建物と孤児院の庭をクロスステッチで刺繍していたものを完成させたの。
クロスステッチ用の生地はまだこの世界ではなかったようだったから、お父様には我儘を言って生地を作ってもらって、それを利用しているけどね。
私の特技でもある「見たまま写真みたいに絵に描ける」という特技を、クロスステッチで生かさない手はないわよね! と、思ったの。
クロスステッチはドット絵みたいなものだから、色を省略できるところは省略して、でも陰影を考えて絵として成立するように考えていく。
全てをクロスステッチだけでは無理な部分もあるから、そこはバックステッチやアウトラインステッチで輪郭を整えながら刺していった。
とにかく、初めて自分の絵を刺繍にする作業だったから、難しいというよりも手探り感が強くて苦労したのは本当。でも、その分楽しかったの。子供達と、院長様や先輩修道女達が笑って過ごす場所、そして元気な声が響く場所、私の居場所だって思えるようになったのは最近かもしれないけど、この場所で時間を過ごすようになって以前とは違う充実感がある。
何より、私が救われている気がするの。生きているという感覚と、今を大切にしていこうと思えること、私がマージェリーの記憶や感情に触れると、必ず今の方が楽しい、嬉しい、そんな感覚が私を包んでくれる。マージェリー自身もこの場所を幸せだと感じられるんだろうと思う。
今は私とマージェリーが一つになっているのを感じるし理解もする。それでも、私は思う。前世の私とマージェリーはやっぱり別の人間でしかないって。だからこそ、私はマージェリーも楽しかったらいいな、嬉しかったらいいな、と思う。
出来上がったクロスステッチ刺繍の孤児院は、私にとっては前世ぶりの大作だったから、何度も何度も確かめながらの作業でもあった。納得出来て、満足も出来たから、バザーの朝に院長様とお話をする約束をして、出来上がったクロスステッチ刺繍をした生地を持っていった。
「院長様、お時間いただきありがとうございます。忙しい時間でもあるので手短に用件だけお伝えさせていただきますね」
「ええ、マージェリー修道女。いつもあなたの奉仕には感謝していますよ」
「こちらを、孤児院に寄贈させていただきたいのです」
院長様に私の刺したクロスステッチ刺繍の生地を広げて、見てもらう。
「…これは。孤児院の建物と庭、ですね。しかも刺繍で…? こんな風に刺されたものは初めて見ましたが…。それにしても、素晴らしいですね!」
「ありがとうございます。私がこの場所に来て、一緒に奉仕する修道女様や子供達に心から救われているのです。その感謝と幸せを少しでもお返ししたいと思ったのです」
「分かりました。ありがたく受け取りましょう。……そうですね、これは多くの方に見ていただきたいと思いますから、それなりの場所に飾るのがいいかもしれませんね」
「どこかに掲示していただくかは院長様にお任せいたします。それでは、準備もありますので失礼いたします」
「ええ。今日から三日間忙しいと思いますが、頼みますね」
「はい! お任せください!」
そうして私は院長室を後にした。その後、自分の作品がどれだけ評価されることになるかなんて全く頭になかったわけだけど、それ以上に私の頭の中は子供達のがんばりでいっぱいだった。
⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑
バザーが始まると、いつも修道院に関心を示し寄付をしてくれている貴族や、修道士や修道女の家族が訪ねてくれるという話だった。そして今、子供達は慣れた様子でバザーのために訪れた人々と接している。
子供達が準備したクッキーやサシェ、子供達自慢の品を手にした人達が喜んで買っていく。今日は初日。だから例年と変わりない人数だろうと予想出来た。変化があるなら明日以降。でも、きっと大きな変化じゃない。変わるとするなら来年。今までとは少し変化していて、目新しいものが並んでいたと思ってもらえるなら、だけど。
そのためにも今はがんばらなくちゃ、と思う私がいる。
そして、そんな風に私が子供達とバザーに並べた商品を売っている頃。
「院長様、マージェリー修道女のこの刺繍作品ですが…本当に素晴らしいですね」
「ええ、本当に。今回のバザーでは彼女の作品も見ていただかなくてはいけませんね」
「はい、私もそう思いますね。孤児院での彼女はいつも笑顔で、子供達のことをよく見ていてくれています。今日もそうです。自分の奉仕を全く頭に入れていません。全ては子供達ががんばった成果だと思っているようですし…もう少し、自身のがんばりも考えてもいいのでは、と思う程です」
「それに関しては同意しますよ。彼女の無私の奉仕は本当に尊いと思います。きっと神様もお喜びでしょう。けれど、彼女の奉仕に少しでも報いがあるべきだと思うのです」
孤児院院長と副院長の二人が、私のクロスステッチで作り上げた作品の前で何やら話し合っているなんてことは、気付けるはずもなく。
「今回のバザーでの評判が良ければ、修道院のほうでも飾っていただけるようにお話をしてもいいかもしれませんね」
「院長様、それは良いお考えです! マージェリー修道女は明るく元気な方ではありますが、子供達以外のことではかなり控え目な性格だと思います。きっと修道院で刺繍作品を展示するという話をすれば、遠慮してしまうでしょう。でも、孤児院に向けられる援助を増やすことも彼女の刺繍作品を切っ掛けに可能になると伝えれば、それもなくなるでしょう。
それ以上に、他の修道士や修道女にも彼女の作品を見て欲しいのです。本当に素晴らしい。繊細な色選びで遠くから見れば、本当にまるで本当の風景がこの場にあるようにしか見えません。
私はうっかりこの作品の中から自分が出てきたかもしれない、と思ってしまいました」
「ほほほ、副院長はかなり彼女の作品を好きになられたのですね」
「もうファンと言っていいかもしれません」
「私もですよ。彼女のこの孤児院への思いが伝わってきます」
二人の修道女の心を私の作品が動かしたことすら気付くことなく、バザー初日を子供達と一緒にワクテカで過ごしていたなんて、きっと誰も知らない。
そして私がただ作りたくて作り上げただけのクロスステッチの刺繍作品は、この先のこの修道院という場の未来もささやかではあるけれど、変えていくことになるだなんて誰も知らないことだった。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
マージェリーさん思い切り好きに生きてる状況で、毎日大変だけど、楽しそうです。
これ本当に修道院に入った意味、ちゃんと分かってる? と突っ込まれても仕方ないけど、きっと突っ込む人いないのでいいか、と(笑)
本当は20話くらいで終わるつもりで書き始めたのですが、どう考えても無理になってしまって、この時点で倍以上の話数が待ってます。
でもまだ終わりが見えない…。話の終わりはちゃんと分かってるのに。
というわけで、本編の悪役令嬢とモブ男子みたいに、後半で(作者の)修羅場が待ってる悪寒しかないですが、がんばります。
そう言えば。時折マージェリーさんがですます調で吐露する心情がありますが、あれは、ほぼほぼ前世の人格が強い状況で、感情任せな側面があります。
あえて語尾の不統一をしているため、読み辛いと感じられる方もいらっしゃると思いますが、ご容赦願います!<(_ _)>
それと、刺繍に関してですが作者は確実にど素人です。
この刺繍の説明なんか変じゃない?とツッコミされたら「なるほど、勉強になりました」の答え一択になるくらいには、ど素人です。
おかしな部分がありましたら、教えていただけると非常に助かります。
いいね、それに評価ありがとうございます!
書くためのモチベーションにも繋がってます(^▽^)
次回もよろしくお願いします<(_ _)>




