+ 15 +
本日の投稿、二話目です。
一話前の+14+を読んでいない方は、そちらから先にどうぞ。
夏という季節はもう目前。でも、辺境の地であるこの場所は王都からは遠く、気候も随分と違っている。
きっと王都の今頃は、暑さが増している頃。でもこの辺りは所謂避暑に適した地域で、前世の記憶で言うなら…山に囲まれた高原で、別荘が立ち並んでいる場所のような感覚。
こちらの世界でも同じだと思うけど、別荘というものは直接管理するのも色々大変なこともあるしお金の絡む話もあったりするから、別荘を所有している貴族が自分達が滞在しない間は、貸し出すことも多いそうだ。
だから、この辺りは辺境の地でありながらも様々な地方から来る貴族や平民の富裕層で賑わう時期が長いと聞いた。
宿に行くと他の人達、とりわけ平民とも近くなりがちなのを厭う貴族は一定数いるため、自然と貴族の別荘を借りるという貴族が存在することになる、らしい。その辺りの感覚は私には理解出来ないけど。マージェリーなら理解したのかしら?
平民の富裕層の場合は平民ということもあるためか、貴族気分を楽しみたいという意味合いのほうが強いみたいだと聞いたことがある。けど、実際には別荘を借り切ってるわけだから、接待相手をもてなすとか、そういうこともあるんじゃないかな。私は従業員を慰労する意味も込めつつの社員旅行で利用すればいいのに、と思う。まぁ…この世界でそんな発想は有り得ないだろうけど。
⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑
「今日はハーブ畑と花畑のお手伝いを子供達に教えていただけるということで、お邪魔しています。お手数おかけいたしますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お手伝いに来てもらって助かります。皆さん、よろしくお願いしますね」
「「「はーい!」」」
抜けるような青空の下で元気な子供達の声が響く。様々なハーブや花の植えられた一角を孤児院の子供達、先輩修道女二人に私の大人三人で来ていた。
貴族や富裕層をターゲットとした孤児院の為のバザーをがんばって準備することになった私は、子供達とハーブの摘み取りをするためだ。
ポプリ用のハーブはラベンダーのような花やミントの葉のように分かり易く強い香りを放つものと、それよりも優しく香るものと摘んでいる。
これが終わった後は次に花を摘むことになる。アロマオイル用の薔薇の摘花の手伝いもするので、そちらからも分けてもらって…と考えていたら、子供達がとても張り切ってしまって、自分達が出来ることがたくさんあることが嬉しいのかな。私はただ、子供達の助けが欲しいってお願いしただけなんだけど。
みんな良い子で本当お姉さん助かるぅ。などと内心思ったのだった。
畑に出る時は、普段会うことのない修道女の皆さんと子供達が話すことも出来るため、子供好きの修道女達は和やかな雰囲気になるし、子供慣れしてない修道女達はどこかおっかなびっくりって感じなんだけど、子供達が元気に笑いながら作業をしているのを見るうちに、自然と子供達を助けながら会話を楽しんでいくようになっていた。
そんな様子を見て、私はなんだかほっこりしつつも頑張ってハーブや花を摘んでいく。孤児院用のものは充分に収穫出来たから、後はアロマ用だったり修道院用だったりとそれぞれの分を収穫中。
小さな子供達は飽きてきている子もいるけど、それでも修道女とお喋りしながら、がんばっている。それを修道女が褒めるから、子供もまたがんばる。そんな風に良い循環になってるみたい。
「もう充分に収穫できました。皆さん、今日はもう終わりにしましょう」
そう声を上げたのは、ハーブ畑を担当している修道女の一人だった。彼女は四十代後半くらいの肝っ玉母さんのような雰囲気のある、笑顔が素敵なたくましい女性。憧れるわ!
私は彼女の近くへ行き、ハーブや花を分けてもらえたことで改めてお礼を伝えた。
「たくさんの花やハーブを孤児院用にいただき、本当にありがとうございます。それに子供達も収穫する経験が出来て良かったと思います」
「とんでもない! こちらこそ子供達のおかげで楽しく収穫できました。ありがとう」
「私、こんな素敵なハーブ畑に来られただけでも嬉しいです。またお手伝いさせてください」
「もちろんよ! 歓迎するわ。他の修道女達も可愛い子供達のおかげで退屈することなく、時間を過ごせたと思うのよ。また子供達とも過ごしたいからよろしくね」
「はい!」
子供達と修道女達が笑顔で挨拶をするのを見て、改めて彼女達に礼をして孤児院へと戻る。子供達は自分達の手で収穫したものを大事そうに抱えながら、嬉しそうにしていた。
その後は年齢性別で担当する仕事が違うため、一番最初に取り掛かることになる十代の女子に担当してもらうことになった。最初はジャッキーとケイトの二人でと考えてたんだけど人数が少ないのが心許無くて、どうしようかと思案していたら年長のポリー、オーレリア、ヴィヴィアンがポプリ作りをしたいと言ってくれたものだから、それなら女子五人で担当することに。
摘んできたばかりの花を丁寧に花弁一枚一枚きれいに剥がしている。彼女達の様子を見守りつつ、私も作業をしている。男の子達は聖騎士様と剣術と体術の訓練の時間で、バザーで披露するための練習の時間でもあるらしい。がんばれ男子!
幼い子供達はウトウトし始めた子も何人かいたため、先輩修道女達が午睡のために連れて行った。
「今日はみんながんばったわね。バザーが楽しみだわ」
「マージェリー修道女様、私もバザーが楽しみです!」
女の子達が一斉に頷いている。そんな様子も可愛くて、私はずっと顔が笑み崩れてるのを自覚してはいるんだけど、顔が戻らない。正直に言えばにやけてるというのが正解だって分かってるのよ。だからなんとかしたいけど…可愛い子達がいるんだからそれは無理か、と諦めました。ええ、可愛いは正義よね!
コホン。それはさておき。
彼女達にはポプリを作った後の話をした。年長の三人にはサシェにする布に刺繍をすることと、サシェを作ること。それから、年下の二人には幼い子達と一緒にクッキーを作ること。
とくに年下の二人はいつも年上の三人がしている小さな子達を纏める責任も出てくるから大変だと思うけど、と言えば、二人共元気に返事をしてくれたの。
「大丈夫です! 小さな子達の手伝いはヴィヴィ姉達と一緒に手伝ってるから」
「任せてください、マージェリー修道女様!」
「まぁ、頼もしいわ」
私が二人の言葉に頷けば、ヴィヴィアンが助け船を出すように言葉を挟んできた。
「マージェリー修道女様、二人共きっと大丈夫です。いつも私達のほうが助けてもらってたから」
「そうなの? それなら安心して二人に頼るわね」
皆が笑顔でそれぞれの担当に気持ちを向けることが出来て、私は子供達のことを頼もしく感じていた。
(本当、みんな可愛くて良い子ばかりよね。一緒に過ごしていて嬉しいわ)
そして孤児院ではポプリが無事に出来上がり、年長女子三人がサシェのための刺繍で奮闘し、かなり可愛いものが仕上がり始めた頃だった。
「マージェリー修道女様、クッキーなんですけど、一つの味だけだと飽きませんか?」
「ジャッキー、よく気付いたわね。そうなのよね、美味しいものでも味が一つだと飽きるのよね」
「それで…孤児院の庭で育ててるムールベリーの実を乾燥させたものがあるので、それを入れてみてもいいですか?」
「ケイト、ムールベリーって確かあの黒い実のことよね?」
「はい! 熟しても酸っぱいんですけど、乾燥させると水分と一緒に酸味が抜けるみたいで甘くなるんです」
「そうなの? それは是非試してみましょう! 美味しく出来たら、おやつの時間にも出せるしいいと思うわ」
女子二人組のジャッキーとケイトがクッキーのことでアイデアを持ってきてくれた。ムールベリーというと前世でかすかに記憶にあった黒い木苺系のことが浮かび、ほぼそれと同じ実が孤児院の庭にもあったな、と結びついた。前世のものは口にしたこともないし、こちらでのものと同じ物かも分からない。ただ、こちらのものはしっかり口にしている。非常に酸っぱいです。そして私は苦手です。でも、ドライフルーツにすると甘くなるというのなら、お菓子作りにはいい材料だと思う。それこそパウンドケーキにも入れられるだろうし! ということで、私はムールベリーをクッキーに入れる提案をしてくれたケイトに、返事をしながら二人で厨房へと移動したのだった。
もちろん、乾燥させたムールベリーがどれくらい保存されているのかを確かめに。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
4/1のエイプリルフールだからと言って、嘘ではなくちゃんと二話投稿しました。
無事に出来て良かった…。
黒い木苺ですが、作中のムールベリーと同じじゃないですよ。
ドライフルーツに出来るのかどうかも分かりませんし、あくまでも別のものです。
次回もよろしくお願いします<(_ _)>




