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子供達それぞれが自分のマークとして理解出来るように作ったワッペンは、年上の女の子達と一緒に刺繍をしたものだった。
作り方は簡単なほうがいいんだけど、前世と違い容易に手に入るフェルトがあるわけでもないから、刺繍用の布を二枚重ねて使うことで厚みを増すことにした。
本当だったら刺繍をした布の下にフェルトを重ねて土台にしたかったけど、さすがに羊まではこのステラ修道院では飼っていない。飼っていればまた違ったのかもしれないけど…我儘は言えないから、ここは別のもので代用するだけで充分でしょ。
小さなワッペンに子供達の名前も一緒に刺繍している。だから、自然と自分の名前の読み方、文字の並び、綴り方も目に入るようになるから、文字にも興味を持てるのではないか? という意味も込めつつ作ってみたの。オーレリアやヴィヴィアンはしっかりお姉さんらしく、下の子達を大事に大事にしてくれている。
私の考えを話しただけで、ちゃんと意図を理解してくれたし、いい子達だなって改めて思う。
「マージェリー修道女様、私…将来はお針子になりたいの」
そう打ち明けてくれたのはヴィヴィアン。とても手先が器用で、すぐに刺繍の腕を上げていった子。それ以外でもなんでも器用にできるし、お針子なんて彼女にピッタリな仕事だと思う。
「まぁ! 素敵な夢だわ。それなら、私もその夢の為に色々応援させてね」
「はい! ありがとうございます!」
ヴィヴィアンは家族と一緒にリリェストレーム王国へやって来た移民で、彼女の祖国は今は戦火で酷い状況になっているらしい。移民というだけでも大変だったそうだが、リリェストレーム王国の国籍を取得するために御両親は必死に働いて、なんとか国籍を取得するところまでいったそうだ。
けど、最初に辿り着いた場所で定住することが出来なかったそうで、このマクニール領から隣の領へと移動するという直前、御両親が事故に遭い亡くなったそうだ。
独りぼっちになったヴィヴィアンはステラ修道院の孤児院に入ることになり、今に至る…ということらしい。
一人っ子で兄弟のいなかった彼女は、小さな子供達がたくさんいて、少し嬉しかったらしい。それにデリックは兄のようで頼りがいが案外あったとか。
だから、両親がいないことの悲しみは計り知れないけど、この場所で皆が互いの持つ悲しさを慰め合うことが出来るから、救われた…と彼女は感じたそうだ。
おっとりとしたふんわりと優しいヴィヴィアンだけど、小さな子供達のためにお姉さんらしい振る舞いも出来ていて、きっと将来は素敵な女性になるんだろうな。
今年でヴィヴィアンとオーレリアは十六歳になる。だから…孤児院から巣立つ日も近い。
私はヴィヴィアンにオーレリア、それにポリーとは年齢が近いこともあり、自分の妹みたいに思ってしまっている。
今の私が十八歳。彼女達とは三~四歳差。友達にもなれる年齢だから、もし…孤児院だとか修道女とか、そういう立場がなかったら…友達にもなれたのかな。でもやっぱり可愛い妹ね!
私が妹達と話をしていたら、デリックがさり気なく私の隣に立っていた。妹達はそれに気付くと、にやにやと笑っている。デリックは何か…バツが悪そうにしてはいたけど、私の修道服を少し摘まんでいて、用があるのかな? とデリックへと顔を向けたんだけど、用事を伝える様子もないし戸惑う私。
「デリック?」
「…あの、さ。少し聞きたいことがあって…」
「何?」
「えっと、そう、そう! 剣術とか、体術のこと! マージェリー修道女様言ってたでしょ? ここへ来るまでは家で習ってたって」
「ええ、そうね。で、どちらを聞きたい?」
「体術、かな」
「うんうん、分かったわ。今聖騎士様から教えていただいてるのは剣術だけだった?」
「うん、そう」
「そっか…それじゃ、体術は教えてもらう機会がほぼないのね?」
「そう、かな。剣術を教えてくれる聖騎士様がお休みの時は代わりの先生が体術を教えてくれてるんだけど…」
「どなたなの?」
体術について聞きたいというデリックの話に耳を傾けている間に、妹達は「後でね」と去っていったから、今はデリックと二人きり。
デリックは、体術で体の動きで今一つ理解出来ないことがあると言っていたけど、無意識に動かしている部分を、意識すると上手く動かせないと感じているんじゃないか? と伝えたら、その意識の仕方を考えてみると自分で解決する方向で答えを出していた。
「デリックは体を動かすことが好きよね。きっと出来るようになると思うわ。がんばってね」
「うん。マージェリー修道女様、ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして!」
こんな具合にデリックとの会話は殆どが剣術だったり体術だったり、そんな話が中心なんだけど、それでもデリックは男の子達のまとめ役として動いてくれるから、そういうところでも話をすることが多いし、なんだかんだと私も頼ってるなーって思うの。
本当、いい子ばかりで助かるぅ。
私の修道女としての日々は、もうほぼほぼ孤児院の子供達との日々と言っていい状況で、月に一度辺境伯家に手紙を出しているけれど、子供達のことばかり書いてしまっていて、家族から届く手紙には家族の事を気に掛けてほしいと訴える言葉が必ず書かれている。だから、どれだけ子供達のことが大好きなのかしら? と自問自答するくらい。
そうして、私は家族に会うこともないまま、でも手紙を通して、以前よりもマージェリーの家族との関係を深めている。
私の中にいたはずのマージェリーが感じられなくなって、だけど、マージェリーの今までの記憶、感情は私の中にある。
きっと、私とマージェリーが同化したんだな、と思うから。だったら、前世の人格が強く出たままだけど、マージェリーとして生きている今は、私がマージェリーなのだから彼女らしく、でも自分らしく生きるだけだわ。
そう思いながら、いつも家族からの手紙を封筒に仕舞う。
一緒に届けられた端切れや刺繍用の布地に刺繍糸は、孤児院用のものと私が個人的に使うものとを分けて、私用の物を別の箱に仕舞った後は、孤児院用の大きめの箱に移し替えた。
前世でよく刺していたクロスステッチだけの刺繍をしたくて、お父様とお母様に無理を言って、クロスステッチ刺繍専用の生地を作ってもらうことにした。そして、無事に生地を生産できるようになったから、生地も一緒に送ってくれていた。
「明日、早速刺繍糸や布を孤児院へ持っていきましょう。みんな喜ぶわ! それにクロスステッチ用の生地…嬉しい~♪」
なんて独り言を溢しながら、明日の準備をしてベッドへ潜り込んだの。おやすみなさい。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
クロスステッチだけの刺繍と言えば、遠目に見るたびにドット絵だな、と思います。
それはさておき、クロスステッチ刺繍用の生地ですが、針を刺す場所が分かるように織られた生地だな、と。
えーっと…大昔にクロスステッチを途中までして放置したものが見つかったので、それを見ていただくと分かり易いと思うので、雑な画像ですがそっと置いておきます。
かなり拡大した画像なので生地の織り方も分かり易いと思います。
画像の挿入が可能な(見ても大丈夫的な意味で)場合は、今回みたいにまたそっと置くことがあるかもしれません。
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投稿頻度が上がるくらいにがんばれればいいのに、と思いながら…必死でこの先の展開を考える最中です。
春眠暁を覚えずな時期なので、睡魔と戦っていて頭もぼんやりですけども。
ほどほどにしっかり眠ってがんばります…(-.ゞ ネムネム




