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初めましてな方、お久しぶりな方、こんにちは。
投稿を始めます。
のんびりゆっくりの更新になる予定ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
++内容そのものに変更ありません++
主人公視点での物語展開にも変更はありませんが、台詞以外の部分を少々変更しました…。
一体どうしてこんな状況になっているのかしら?
そんな私の戸惑いを余所に、私の体が勝手に思考し言葉を口にのせている現状を、ただただ黙って眺めているしかなかった。
「…こんなことしたって、ダメなことくらい分かってたわ。でも、気持ちが抑えられないのだもの。アーヴィン様はきっと私の事…呆れただろうし、蔑んでるわよね…」
悲劇のヒロインのようにも見えるこの令嬢は…貴族、なの?
耳をくすぐるような愛らしい響きを持つ声は、まるで有名な声優さんみたい…。
「でもいいのよ、これで私も諦めがつくわ。もう幼い頃からのこの気持ちは、きっと恋や愛ではなくなってる気がするもの…。情けないし、惨めだし、やり切れない…。
もうこれで、二度とアーヴィン様に会うこともないのだもの。私は…修道院に行くの。二度と外へ出るつもりもないの。そう決意していなくちゃ、アーヴィン様に会いたいって気持ちだけで、何をするか分からなくなるもの…。私だって…これ以上嫌われたく…ない、のよ」
今零れた言葉達は、私の意思で発したものではない。でも、間違いなく私の体が口を開き、声帯を震わせた結果のもの。
「…っ、苦しくても、きっと…忘れるから。この気持ちは、……捨てなくちゃいけないの…」
これは一体どういうことなのかしら?
涙を流しながら一人きりで切ない想いに震えているこの体。
きっと私じゃない別の人間が感じてるもの、だと思うんだけど…。
この体の女の子の名前はマージェリー・マクニール。
リリェストレーム王国と隣国レーメル国の国境に位置する辺境を守る家に生まれた辺境伯の末娘。
艶やかなストレートの黒髪は腰まであり、それを結うこともなくサラリと流している。透明度の高い緑の瞳は光の加減で本物の宝石のようにも見える。
染み一つ見つけられない透けるような白い肌に、形の良い鼻は少女期の終わりをまだ迎えることのない幼さをどこか感じさせるけれど、ぽってりとした下唇の厚みがそれとは裏腹にどこか大人びていて、蝶の羽化を思わせるような変化をしている時期のよう。
それと同時に完璧な造形美を惜しげもなく見せるマージェリーの面立ちは、マクニール辺境伯夫人と彼女に乗せられた色が違うだけで瓜二つだった。
男ばかりが三人も生まれた後のたった一人の娘で、家族から酷く大切にされて育った…という記憶が私にもある。そういう情報が、私の中にある。
私自身は現在その記憶があるマージェリーではなく、前世の記憶を持つ人格そのままのような気がする。
…憑依と言われてる状態かしら? と思わないでもないんだけど、でもマージェリーの記憶も感情もちゃんと自分の中にあるし、何より今現在私じゃなくマージェリーが勝手に動いてる。
これは憑依じゃなくて、むしろ私がマージェリーの中に居候してる感覚かしら?
自分でもちょっと何言ってるのか分からないんだけど、とりあえず…前世でよく読んでいたラノベとかウェブ小説とか、そういう類の所謂「異世界転生」とかいうのに近いのかも、と思う。というか、思うことにしたの。
実際問題、どういう状況なのか分からないから、「転生したみたい!」で済ませば気が楽というか…何でもあり? って片付けられるというか。
(…そこ、現実逃避してるって言わない。それは分かってても言わないお約束でしょ! コホン)
失礼、一人突っ込みでもしてないと、私自身もちょっとやってられない気分だったから。
私が前世の記憶を思い出したのは、マージェリーがリリェストレーム貴族学院で問題を起こして、修道院に入ることが決まった後のこと。
大好きだった(過去形なのよ、ここ重要ね! テストに出るくらいに重要ね!)エクルストン公爵家のアーヴィン様の現在の婚約者様にケガを負わせたことで、王立貴族学院の卒業取消と同時に修道院に行くことが避けられないというのを知らされたの。その時にきっと私じゃないマージェリーはショックだったんだと思う。
この時点ではマージェリーは前世を思い出してはいなかったの。
辺境伯であるお父様とお母様の二人から、「修道院に入れば簡単には出ることが出来ないから、心からの償いをしなさい」と言われたの。
そして、その言葉をちゃんと受け止めたマージェリーは、修道院に入れば二度と外へは出ない、と固く心に決めてしまうくらいには、自分のしたことを重く受け止めていたし、ちゃんと償う気持ちでいっぱいだったの。
それでもやっぱり、はっきりと失恋したということがマージェリーには心に深い傷を残したのだと思う。
だって、マージェリーが誰よりも好きだった相手に、完全に見向きもされなくなる…ううん、もっと酷い状況になるって分かってしまったんだと気付いたから。
私はそんなマージェリーが気の毒だとは思うけど、でもまぁ…自業自得だと思うし、だったら前向きに修道院生活を楽しむしかないと思う。なーんてことを考えていて、気付いたわけ。
『私、いつからこの子の体の中にいるのかしら?』
って。
徐々に。そう、徐々にマージェリーの中で、マージェリーでありながらマージェリーではない前世の記憶を持つ私という存在が染み出してくるみたいに、表に出てきた気がするの。
もしかしたら、マージェリーの精神が耐えられなくて、心が病んでしまった結果として、私が生まれたのかしら? なんてことも思ったのよ? ほら、多重人格者みたいな。
正直言えば、マージェリーが別の人格を生み出すほどの環境下にいるとも思えないから…、例えば酷く虐待され続けたとかね、だから私が多重人格の一つなんて思ってはいないけど。
それよりも、今だけ前世の記憶のある私という人格がいるだけなのか、それともいつかはマージェリーと私が一つになるのか、全く想像もつかない。
ただね、ここ暫くマージェリーの家でもあるマクニール辺境伯の領館で過ごしていて気付いたこと。修道院入りを前にマージェリーの意識が段々消えていってる気がしてる。だからと言って私とマージェリーが一つになってる感覚は一切ないから、眠っているという感じがしっくりくるのかしら?
そうね、私が表に立つ形だけど、マージェリーがいつかまた私よりも前に出るようになれば、違うのかも。
この子…可哀想。きっとがんばってたのよ。がんばる方向性が間違っていただけで。
幸いにも、けが人はいたけど…後遺症が残るような負傷じゃなかったみたいだし、修道院に入るだけで済むというのだし、いいんじゃないかって私は思うことにしたの。本当割り切るだけ。
まぁね、その修道院が酷く戒律が厳しいって話ではあるんだけどね。私大丈夫かしら? ってちょっとだけ思ってるけど。
修道院は、マクニール辺境伯領内にあって、頻繁に人が訪ねてくることがないようにと、湖沼地帯の中でもかなり大きな湖にある島を利用して建てられているの。まるでモンサンミッシェルみたいな感じかしら。でも、あれほどの規模の島じゃないみたい。
島には修道院の関係者しか暮らしていないという話。それでもかなり大きな島だというからすごいらしいの。そんな島一つをまるまる修道院の土地として利用してるって聞いて、ちょっとワクワクしてしまうのは…きっと前世の私の性格なんだと思う。
だって、マージェリーはそういうことにトキメク子じゃないもの。貴族令嬢らしいと言われるものを意識し過ぎて、それ以外のことには興味を持たないようにしているような子だもの。
前世の私は「楽しんだ者勝ち」って思ってるところがある。だから、正直言うとマージェリーとはまるで違う人間なの。大丈夫かしら? なーんて思ったけど、大丈夫。
だって、マージェリーは修道院から出ることがないんだもの。そして、私のことをこの世界で知ってる人間なんて一人もいないの。しかもマージェリーの中にいるしね。
そう考えてみると、私ってば幸先いいわ♪ なんて思うのよ。
きっとね、宗教に左右される場所だから、前世日本人っていう私には非常に苦痛が待ってる可能性はあると思うの。でも、なんとかなるでしょ。なんか…前世の私は「クリスちゃん」とかいう人だったみたいだし。あら、違うわ。クリスチャンね。
宗旨宗派はまるで違うけど…世界が違うんだもの、当たり前よね…なんとかなると思うのよね。出来ないことを数えて制限されてるとか、ツライって思うよりも、出来ることを数えて「これもあれも出来るよね」って考えるほうが、出来る幅が広がるのよ。
だからかしら? 前世の自分の仕事も大変だったけど…時間の制約も多かったけど、楽しいという記憶しかないのは。実際にどうして前世の自分が死んだのかは知らないの。そこは記憶が抜けてるから。
多分ね、酷く嫌な記憶なんだと思う。だから、私自身がそれを思い出したくないんじゃないかなって想像してる。
それはともかくとして。
明日には修道院へ向かうことになる。馬車で二日ほどかかるらしいの。馬車…。乗ったことがないけど大丈夫かしら? ほら、マージェリーは馬車に慣れているから、あまり気にしていないという記憶しかないの。
でも、ラノベとかだと馬車の揺れが酷いとか、道の整備がされてなくて悪路とか、そういうのは期待しちゃダメな案件みたいな扱いじゃない? 私のお尻がツラくならないことを祈っておこうかしら。前世の神様に。
ほら、だって私はこの世界の神様のこと知識はあるし理解もしてるけど、信じてないし。
なんてことを言うと、この世界の神様に怒られちゃうのかしら? まぁいいわ、そんな些末事。もし、本当に神様がこの世界で機能してるなら、マージェリーが行動を起こす前に誰かが止められたと思うの。でも、そうじゃなかった。ということは…まぁ、神様以前にマージェリーも神を信じてなかったのかもしれないけど。
私は修道院へと向かう馬車に乗り込む前に、マージェリーの家族一人一人と最後の別れをした。マージェリーが家族のことを大事にしていたことは記憶から分かるから、だから、彼女らしく彼らに別れを告げた。
「きっともうこの場所には戻ってくることはないと思いますわ。ですけれど、お父様、お母様、お兄様達のこと決して忘れません。
私は神の奉仕者として皆様とは立場を変えてしまいますけれど、私を今まで育ててくださったこと、大切にしてくださったこと、慈しんでくださったこと、決して決して、忘れません。
どうか、お元気でお過ごしくださいませ」
マージェリーなら、泣かない。そういう子だから。
マージェリーなら、笑うはず。そういう子だから。
マージェリーなら…きっと背筋を伸ばして、前を向いて歩いていく。だってそういう子だもの。
一人一人と最後のハグをして、私は馬車に乗り込み、馬車の窓を開けて、手を振り続けたの。
きっとマージェリーなら、末っ子で甘えん坊のマージェリーなら、少しくらい淑女らしくないことをしそうだもの。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
今回の作品は、悪役令嬢とモブ男子の番外編になります。
終盤で登場した伯爵令嬢が主人公になります。
本編である悪役令嬢とモブ男子とは違う方向性のお話になると思います。
視点も主人公視点中心です。
ある意味スローライフ的なゆるい感じの展開だと思っていただければ、と。
作者自身が現在余裕がない状況にあるので、更新頻度は低め設定です。
状況に応じて更に遅くなるかもしれません。
が、ある意味ストレス発散的に書いている部分があるので、時間が取れればがんばろうかと。
ともかく、相変わらずの目標が「完結すること」なので、そこを目指してがんばります。
よろしくお願いします<(_ _)>