1章 2話 「僕とこの世界」
今回は前回よりも飛びっきり話長めです。
僕のパパとママことゼノア・ヒューナーとマリア・ヒューナーは僕の世話を毎日してくれる、僕の中では前世のじーじばーばと同じような存在なのかもしれない。いや、パパとママだから根本は違うんだけど。僕は率直に感謝したいと思ってる。僕はパパとママがどういう存在なのか分かってなかった。前世では僕が生まれてからママは重い病気で死んじゃったと夜中にじーじとばーばが言ってたと思う。どんな病気だったのか僕も知らないけど、ママの顔を覚えたかった。前世のパパは僕が生まれてから毎日ベッドの近くで面倒を見てくれてたのかもしれない。毎日、毎日、「生まれてきてくれてありがとう」という言葉を聞いたくらいだった。でもパパもどんな人でどんな顔をしてるのか覚えてない。僕が赤ちゃんであったことが罪であるかの様だった。
でも今は違う。パパとママの愛情も、優しさも、ひしひしと感じる。じーじとばーばも同じ様に愛情深く育ててくれてたことが分かって凄く嬉しく思うし、今こうして自分が前世も今も幸せを噛みしめられることが本当に嬉しい。
だから遊びは退屈という考えよりも嬉しいと思うことをしたいって欲の方が大きくて、僕は毎日パパとママに遊んで貰っている。
そんな僕が一番退屈と思うことすらなかったのが絵本の読み聞かせだった。この世界のこと、童話、そして言語の勉強が出来ることが楽しさでもあって、退屈なんて感情が吹っ飛ぶ程僕は積極的に絵本の読み聞かせをして貰った。
ある神話のような話の本では、この世界の定義とかが書いてあった。
「この世界には様々な生物、として特殊な概念があり、普通の世界とは世界そのものの存在が全く異なる。天界の神々はこの世界を作りたがってたのだが、「フェア・ワールド」という世界そのものが存在出来るのか分からない。しかし一人の神がある提案をした。「この世界に公平さを求める神器を取り入れるというのはどうだろう?」神々はその意見に大いに賛成し、それが今この世界の全ての生物が持っている「心の天秤」なのだ。」
「天秤…」
天秤ってあの天秤で合ってるのかな?僕はパパとママに聞いてみることにしたが、
天秤はあの天秤だった。よく裁判なんかの象徴と言われる天秤。パパとママは天秤を「神様が公平な判断を直接下してくれる凄い道具」だと話していた。
そして、
「ファーリーには天秤はもう見えるのかい?」とパパが言う。
「赤ちゃんの時ちょっと見えた気がする」
「ほぉー、それは凄いなぁ」
この「心の天秤」というのは自分の中にイメージとして強く残る「個性」のようなもので、自覚する、又は見える年齢が大体3~5歳らしい。ファーリーという子供の中身が前世のマサルという12歳の男の子だから?とか?中身の年齢ちょっと老いてるの僕?
「じゃあファーリー、両手を出してご覧」
僕はパパに両手を差し出す。
「あ、でもその前にパパの天秤がどんなのか見せてあげようかな」
そういってパパは僕の両手の上に重ねるようにして両手を出した。
「いいかいファーリー?こうやって手を出したら、目を瞑って自分の中でイメージする、ぼんやりとでもいいから天秤を見ようと思うんだ。そうすると、」
すると、パパの手のひらが少しずつ光り出す。
「え?え?」
手のひらに出てくるの?凄くね?
そして「出てきた。」
パパの手のひらには銀色の鉄で出来た天秤がはっきりとした形で出てきていた。
「凄い!パパ!」と僕は興奮した。「これが僕にも出来るの!?」
「あぁ、勿論。みんなこうして自分の天秤を持ってる。だけど、」
と言って、片手のひらに天秤を浮かべてパパは言った。「ちょっと見ててね」
そしてパパは天秤を掴もうとした、が、掴めてない。テレビの画面に指を押し当てた時に出来る映像特有の歪みみたいなのが天秤を触ったパパの手に起こっている。
「え?どーゆうこと?」と僕が質問すると、
「ちょっと難しいかもしれないけど、例えば、このテーブルが触れるのはここにテーブルという物があるからなんだ。」そう言ってパパは近くにあったテーブルに手を置く。
「テーブルはテーブルだよ?」
「そうだ。だけどこの天秤はここに「有る」訳じゃない。ここにはないんだ」
すんごい変な話だから僕の中でまとめてみる。例えば僕の前世の世界、現代では「ドラゴン」という生き物は存在してない。でも確かにみんな「ドラゴンって何?」と聞かれるとそれは翼が生えてたりだとか蛇みたいだとか、みんなちゃんと「ドラゴン」が何か分かってる。この「心の天秤」も同じような物らしい。そしてパパは他にも色々教えてくれた。
絵本に書いてあった「神々」がいる場所は「天界」と言って、この世界の様に存在してると信じられてるらしい。そしてその天界には「神の天秤」と呼ばれるスペシャルアイテムがあるという。
そしてパパが話してくれた。「神の天秤は強大な道具だから、この特殊な世界との釣り合いを取る為に生まれたんだ。」
「釣り合い?」
「難しい言葉だよね、えーとね」
そう言ってパパはまた近くのテーブルへ。
「このテーブルはさ、ここに4つ足があるからこうして立てるだろ?」
「うん」と僕は返す。
「このテーブルの足が2つなくなったらどうなると思う?」
「うーん、倒れちゃう?」
「そう、正解。このテーブルの足を2つ取っちゃったらこれはテーブルじゃなくなっちゃうから、足は4つ付けないといけない」
「へぇー」
なるほど。でもこの「テーブル」ってこの世界における何なのだろう?
「じゃあ、このテーブルって何?」
「ん?この世界でいうテーブルは?ってことか?中々難しいこと聞くなぁ」
聞きたかった様に解釈してくれて助かりますパパ。
「この世界で言う所の「世界」だ!」
「?????」
あーまたようわからん。
「お、また困惑しちゃったか?難しい話だよなぁ、まだファーリーは5歳なのにこんな話しちゃってごめんなぁ」
あぁ、てか僕まだ5歳じゃん、現代なら幼稚園通ってんじゃん。僕は通ってなかったけど。
「パパさー、早い内から色々こうして話しておきたいからさ、難しい話して申し訳ないけど、とりあえず聞いて欲しい」
ん?
「パパどっか行っちゃうの?」
「どこにも行かないよファーリー。ただあらかじめパパは話をしたいだけだから」
なんだかよくわからないけど続けよう。
「続けるよ。生き物も草も、鳥も、料理も、この世界に全部ある物だ」
うんうん。
「そしてこの世界も同じように今ある物だ」
うんうん。
「強い力っていうのは、取り消そうと世界が動くらしい」
ふーん。ん?
「はい!パパ!」
「ん?」
「何で力の話なの?」
「まぁちょっと聞いておいて」
分かった。
「天秤もこの世界も、同じように強い力で存在をさらされてる。本当なら、この世界は真っ先に天秤の力を消そうとするんだよ」
すんごい。哲学みたい。
「だけどそうしないのは、天界に神の天秤があるから力と力で釣り合わせてるからなんだよ」
ふーん、むっず。
要約するとこうか。「この世界には色んな力のバランスを保つ為に天秤という道具が必要で、その天秤自体も存在を消されそうな程強い力を持つ道具だから天秤と釣り合いを保つ為に神の天秤を天界に置く必要があった」と。なんかそれだと「核兵器はめっちゃ強いから核兵器で対抗しよう」みたいな話になってない?
でも何で天界に置いてたら釣り合うんだ?
「パパ、何で天界ってとこにその天秤はあるの?」
「また難しい質問だね、こんな難しい話についてくるなんてファーリーは凄いなぁ、天才だ」
そしてパパは続ける。
「んーとね、この世界そのものが天界と天秤にかけられてるんだよ」
は?何それ凄いこと言ってない?
「さっき力と力でバランスを取ってるって話に似てるんだけど、この世界「フェア・ワールド」は、神様が住んでいる天界じゃないと有ること、存在することすら出来ないんだ」
わぉ。「パパ、じゃあ天界って所も、神様もあるしいるの?」
「実はあるんだよ。国みたいに行ったり来たり出来るような所じゃないんだけど、ある」
パパは続ける。
「よく臨死と言って、一回死んじゃう人が結構多くてね、戻ってきた人がみんな口を揃えて「天界に行って神様に会ってきた」って話すんだって」
え?それ信じていいの?
「一年に10人は臨死になる人がいて、臨死体験をした人の一人が神様に「何でこんなに臨死が多いんですか?」って聞いてみたら「天界に近い世界だからじゃ」と答えてくれたなんて話もあるくらいなんだとか」
唐突に臨死になるとか怖くて夜も寝れなさそう。
「だけどね、急に臨死になった人は全員ちゃんと生き帰ったんだって。そんな奇跡が起きるくらいなら天界があってもいいのかもねってみんな納得したんだって」
アバウトだなーと感心しつつ自分の頭で説明を噛み砕いてたら
「またまた難しい顔をしてるなファーリー。今日はパパの話を聞いてくれてありがとな」
とパパはにっこりと笑ってくれた。
「ありがとパパ…あっ!」
僕は急に思い出した。
「僕の天秤を見てパパ!」
次回もこの続きからになりますね。