あの頃の夏祭りの記憶
ふと思い出すのは、小学生の頃の記憶。
昔住んでいた、2階より上がある建物なんてないような場所での、夏祭り。
その地域のちょうど中心にあったでっかいグラウンドへ、おばあちゃんと手を繋いで歩いていく。
祭囃子の音がだんだん大きくなっていく高揚感。
そんなことを考えていると、真横を通る車の音で一気に現実へ戻される。
こんな蒸し暑い中、人が大勢決まった方向に流れている。
浴衣を着ている人もいる。
小学生の頃のことを思い出したのも、きっと今日が夏祭りだからだろう。
友達と回る夏祭り。
友達が酒を飲んで騒いでいるのを横目に、ペットボトルのジュースを飲む。
とても楽しいはずなのに、なにか言葉にできない虚無感が心に張り付いていて、でもその理由は、自分でも分かっているような気がしていた。
翌日、いてもたっても居られなくなり、小学生の頃住んでいた場所へ行くことにした。
今日そこでは夏祭りが開かれるはずだった。
泊まる場所は、昔の知り合いの家か、最悪野宿でも誰も文句は言わないだろう。
電車で、結構長いこと揺らされていた。
建物がどんどん少なくなるにつれ、その場所に近づいていくのがわかる。
電車から降りると、都会とは違ったベクトルの暑さが体を襲う。
陽炎がゆらゆらと揺れている。
家を出たのは昼前だったので、日が傾き始めていた。
夏祭りまでまだ時間があるので、辺りを散歩していた。
あの頃と変わらない、だだっ広い道。
思い出にふけっていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「ひとりでどこに行くの〜。」
優しい声だ。
振り返ると、亡くなったはずのおばあちゃんが立っていた。
頭が混乱する。
それと同時に、強烈なデジャブを感じる。
そうだ、あの頃も、こんな風に呼び止められていた。
訳が分からないまま、もう無いはずのおばあちゃん家に上がる。
あの頃の両親がいる。
その時、頭は酷く冷静だった。
やけに視点が低いと自覚したのはこの時だった。
どうやら俺は、夢を見ているらしい。
えらく現実的な夢な気がするが、久々に会えた、もう会えないと思っていたおばあちゃんとの再会でそれどころではなく、夏祭りの時間まで、ずっとおばあちゃんと話をしていた。
午後6時。
遠くから祭囃子の音が聞こえる。
おばあちゃんと手を繋いで歩いていく。
あの頃は大きく感じたおばあちゃんの手が、とても弱々しく感じられた。
グラウンドに着く。
あの頃は、それこそ東京タワーくらいあると思っていた中心の櫓が、ずいぶん小さく思えた。
あの頃とは、色々な世界の見え方が違っていた。
あの頃のわくわく感、胸の高鳴りは、もう感じることができないのだろうか。
しばらく屋台を回ってから、おばあちゃんと少し人気の少ないベンチに腰を掛けた。
おばあちゃんは、優しい声で話しかけてくれる。にこにこ笑顔が、都会にいるどんな人より輝いていた。「私ももう歳だね〜。少し疲れてしまったよ。」
おばあちゃんは続ける。
「歳をとるとね、色々なものが霞んでしまうんだよ。だけどね、そんな中でも、こんな歳でも、心が躍るような時がある。どんな時か分かるかい?」
首を横に振った。
おばあちゃんは優しそうに微笑む。
「それはね、新しいものを見つけた時、経験した時。最近だと、初めて孫が生まれた時だね〜。」
おばあちゃんは続ける。
「まだ小さいから分からないかもしれないけど、いつか大きくなったら、分かる時がくるからね。」
そう言って、おばあちゃんはまた、優しそうに微笑んだ。
目覚めるとそこはグラウンドの端っこだった。
体が痛い。
どうやら地べたにそのまま寝てしまっていたようだ。
自分の腕の大きさを見て、夢から覚めたことが分かった。
ほっと一息つく。
携帯を見ると、親からのメールが驚くほど来ていた。今から帰ると送ってから、おばあちゃんのことを考えた。
おばあちゃんが、くれたもの。
これからは、おばあちゃんの言ってたように、色々なことに挑戦してみようと思った。
そうだな、まずは今まで飲んだことのなかったお酒に挑戦してみようかな。
新しく出来たであろうコンビニでお酒を2本買い、おばあちゃんのところへ行く。
おばあちゃんの前にお酒を置いて、自分のお酒を開ける。
「おばあちゃん、俺、大きくなったよ。」
そう言ってお酒を流し込む。
おばあちゃんの前で踏み出した第1歩は、少しほろ苦くて、俺のアホ面に、おばあちゃんが優しく微笑んでいる気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この前、ふと小学生の頃に行った田舎のおばあちゃん家の地域の夏祭りの事を思い出しました。あの雰囲気がすごく好きで、また行きたいなって思います。
感想、アドバイス等お願いします。