9. 玉を取れば勝ちとなる
ゴブリンキングが棍棒を振り下ろしてきた。
スライムソードで受け止める。
衝撃が剣を通して腕に伝わってくる。
だけど、前回のような重さはない。
魔素を取り込んだ俺は以前よりも体が強化されている。
さらに、最初の一撃が随分と効いているようだ。
ゴブリンの動きは精彩を欠いている。
「――ハァッ!」
俺は棍棒を力づくと押し返す。
そして一閃――ゴブリンキングの腹を斬る。
「うがああァァァ――」
ゴブリンキングが悲鳴を上げる。
ドライとツヴァイが他のゴブリンの相手をしているおかげで、俺はゴブリンキングとの戦闘に集中できる。
動き回りながら、時折、ゴブリンキングに斬りかかる。
ゴブリンキングの左目の視力は著しく低下しているようだ。
先日、ドライの功績は大きい。
俺はゴブリンキングの左に回りながら、隙を見つけて斬りつける。
――――勝てる。
ゴブリンキングの強さは力だ。
すべてをねじ伏せる圧倒的な腕力が厄介だと考えていた。
しかし、最初のゴブリンキングの一撃を俺が受け止めきれた時点で、ゴブリンキングの優位はなくなった。
攻める。
休む暇を与えない。
何度も何度も斬りかかる。
その度にゴブリンキングが弱っていく。
あと少しだ。
怒りの形相でゴブリンキングが棍棒を振り上げた。
「遅いッ――!」
俺はゴブリンの懐に入り、深い傷を与えた。
「ウガアァァァァァ――――――」
もう何度も耳にしたゴブリンキングの悲鳴。
そろそろ聞き飽きてきた。
そう思ったが――。
ゴブリンキングの悲鳴がさっきまでとは違うことに気づく。
これは……悲鳴ではない。
怒りの叫びだ。
大地が揺れる。
ゴブリンキングの体が膨張する。
そして、瞳は血のように真っ赤になる。
やつは充血した瞳で俺を睨んできた。
「追い込まれたら進化とか……やめてくれよ」
ゴブリンキングが棍棒を振り回した。
今までとは比べ物にならない威力だ。
一旦、ゴブリンキングとの距離を取る。
だが、しかし。
ゴブリンキングが一気に攻め込んできた。
俺はスライムソードで受け流すが、速度・威力ともに負けている。
「ッ……」
これだから暴力に頼る敵は嫌いだ。
技術を馬鹿にしてくる。
弱肉強食の世界では力が全て、そう言われているようだ。
「ルッツサマ!」
アインスが現れた。
続いて、フィーアも姿を現す。
アインスが棍棒でゴブリンキングに殴りかかる。
だが、ゴブリンキングはアインスの一撃を物ともせずに、軽くあしらうように腕を振った。
アインスは簡単に吹き飛ばされる。
まるで子供と大人だ。
「ここは俺に任せろ」
「シカシッ!」
アインスが何か言おうとするのを、俺は視線で黙らせた。
正直、ゴブリンキング相手にスライムたちは力不足だ。
それに、こいつは俺の敵だ。
この程度、俺一人でも十分倒せる。
倒せなきゃ、最強にはなれない。
アインスが割って入ってくれたおかげで、一度態勢を立て直すことができた。
ゴブリンキングから離れる。
俺は呼吸を整えて、ゴブリンキングを見た。
「奥の手を持つのがお前だけだと思うなよ」
ゴブリンキングが俺に迫って走ってくる。
威力とは速度×質量だ。
この物理法則は世界が変わろうが成り立つものだと考えている。
ゴブリンキングの迫りくる姿は、トラックが猛然と迫ってきているようなものだ。
体当たりされただけでも致命傷になる。
だけど、俺はこの場を動かない。
ゴブリンキングをまっすぐ見据え、スライムソードを上段に構えた。
ゴブリンキングがすぐそこまで来る。
間近に迫った巨体の迫力は背筋が凍るものだ。
ゴブリンキングは棍棒を振りかざした。
「――――」
『俺と異世界』――そこには俺が異世界に行ったときにやってみたいことが記されている。
その中にはカッコいい技を使いたい、という一文がある。
カッコいい技とは何か。
それは必殺技だ。
漫画やアニメで絶対にある必殺技。
そして、必殺技とはなにか。
必ず殺す技だ。
一撃で相手を仕留める技は強くなくてはならない。
俺がやりたいこと、それは必殺技を使って一撃で敵を倒すことだ。
『俺と異世界』の中には必殺技リストもある。
いくつも考えた必殺技の中で、今の俺が習得できたのは一つ。
「必殺技その一、飛ぶ斬撃」
俺は剣を振り下ろした。
スライムソードの剣身から斬撃が飛んでいく。
剣を振る瞬間に、大量の水を鋭利な刃として発射するというもの。
いわゆるウォーターカッターだ。
スライムが水を吸収できると知ったときに思いついた技。
スライムソードに含ませていた水をすべて放出する。
一度しかできない大技。
一撃で仕留めるための必殺技。
「――――」
それは空間を斬るような剣閃。
右と左、二つに世界が分離させる。
ゴブリンキングが頭から縦に真っ二つ、綺麗に分かれ血しぶきが上がる。
ゴブリンキングは声にならない悲鳴を上げ、絶命した。
「ふむ、なかなかの威力だ」
直後――大量の魔力を消費したことによる倦怠感に襲われる。
スライムソードを地面に突き立てて、体を支えた。
辺りを見渡すと、ドライが最後のゴブリンを倒したところだった。
スライムたちは多少傷を負っているものの、死者や重傷者はいない。
俺たちの完全勝利だ。
「ルッツサマッ! ゴブジ、デスカ?」
アインスが近づいてきた。
「ああ、問題ない。それよりも、こいつを食うか?」
真っ二つになったゴブリンキングを指差す。
我ながら綺麗に斬ったと思う。
「イエ、ワタシハ……」
「アニキ、クエヨ」
いつの間にか、俺の周りにスライムたちが集結していた。
そして、ドライがアインスに勧める。
他のスライムたちも頷いている。
「俺もアインスが良いと思う。お前が強いと俺が安心する」
アインスはスライムたちの中のリーダーだ。
やっぱり、リーダーは強くあるべきだ。
力がものを言う魔物の世界では、何よりも強いことが求められる。
強者だけが発言権を持ち、強者だけが存在を許される。
「ワカリマシタ」
アインスが皆に押され、渋々頷いた。
そして、スライムの形に戻り、ゴブリンキングを食べ始める。
ゴブリンキングは大きい。
これは時間がかかりそうだな。
「お前たちも倒したゴブリンを食っていいぞ」
俺の言葉に従い、スライムたちは各々ゴブリンを食べ始めた。
これにてゴブリンキング狩りは終了だ。




