10. 最強になるための必要条件を考えよう
無事、ゴブリンキングを倒した。
その安堵もあり、目を閉じた瞬間だ――。
暗い視界の中、黄色の点が現れた。
中心には十字マークがある。
「なんだ、これは?」
黄色の点は十字マーク付近で動いている。
点の数は4つ。
「マップのように見えるが……」
俺は目を開けて周りを見渡してみた。
スライムたちの位置を確認する。
そして、もう一度目を閉じた。
黄色の点とスライムたちのいる場所がおおよそ一致した。
テイムした魔物の位置を知らせる機能だろう。
おそらく中心の十字マークが俺の立ち位置だ。
さっきまではスライムたちの位置を感覚で掴んでいた。
それが視覚的にわかるようになった。
「でも、なんで今この能力を得たんだ?」
ゴブリンキングを倒したことと関連があるのは間違いない。
「強い魔物を倒して『スライム使い』の能力が解放された……ということか」
俺はこの力を『スライムマップ』と呼ぶことにした。
『スライムマップ』は俺の意思で表示したり、消したりすることができる。
念じれば拡大、縮小も可能だった。
しばらくすると、アインスがゴブリンキングを食べ終えて、俺に寄ってきた。
そして、アインスは俺の前でゴブリンに擬態する。
……驚いた。
ゴブリンキングのように、でかい図体になると思っていた。
だけど、実際は緑色の肌を持つ美しい青年になっていた。
どういう擬態したら、そうなるんだ?
もはや擬態ではないだろ、それ。
そして、俺よりもカッコいいのが憎たらしい。
人間に近くなるにしても、俺のような凡庸な顔になるべきじゃないか?
不公平だ。
「ルッツ様、このタびは、ありがトウ、ございマシタ」
アインスが頭を下げてきた。
話し言葉も以前よりもだいぶ流暢になっている。
「ん? なにが?」
「私たちノ、シュじんト、なってイタダいたコトです」
アインスの後ろには、他のスライムたちも集まっていた。
彼らも強いゴブリンを食べたことで、以前よりも人間らしい姿になっている。
スライムたちは主人に頭を垂れる配下のように――実際そうなんだが――片膝をつけて頭を下げている。
「私たち、スライムは最弱ノ種族。イツ死んデモ、おかしクナイ存在デシタ。しカシ、ルッツ様が私たちヲ、強くしてクレマシタ。生キノコル力を与エテ、くれマシタ。カンシャ、しておりマス」
アインスは言葉に力を込めた。
そんなに感謝されるようなことはしてないけどな。
俺も俺の都合でこいつらを従えたまで。
ギブアンドテイクの関係だ。
ただ弱者であるスライムたちからすれば、俺が与えたモノは大きいのだろう。
俺がこいつらに出会わなければ、彼らは戦う術をもたず、いずれ死んでいた。
「ルッツ様にツイテいきます」
アインスの言葉に重みがある。
軽々しく言っているのではないことが伝わってくる。
まだ俺たちは出会って間もない関係だ。
ほんの数日。
でも、だからなんだというんだ。
共に乗り越えてきたモノがある。
彼らの気持ちに答えるのが、主人である俺の務め。
「俺が求めるのは最強だ。無論、お前たちにも最強を求める。最強の主人の配下は最強でなければならんからな」
俺はスライムたちに向けて、静かに、だけど力強くいう。
「最強になる過程で必要なことはなんだと思う?」
俺の問いかけにアインスが答える。
「負けナイことデス」
違うな、と俺は首を振った。
負けないことが最強に繋がるなら、一度の敗北がすべてを決めてしまう。
世の中は勝ったり負けたりの世界だ。
最強の座に着く前に負けることは必ずある。
無論、アインスの主張もわかる。
魔物にとっての敗北は死に直結する。
だから、負けないことが必要だと考えた、そのアインスの発言はスライムとして生きていきた彼なりの答えだろう。
でも、俺の答えはもっとシンプルだ。
「死なないことだ」
「――――」
スライムたちが息を飲む。
「死んでしまえば、最強に至る道は永遠に閉ざされる。過去の英雄も、死者の武勇伝も俺は全く興味がない。今を生きる最強のみを俺は目指す。だから死ぬな。俺がお前たちに要求するのは絶対に死なないことだ」
最強に至るための必要条件は最強になるまで死なないこと。
馬鹿みたいに当たり前のことだが、どうしようもない事実だ。
生きていることが、何かを成すための土台となる。
負けても良いし、逃げても良いが、死んではいけない。
最弱の魔物であるスライムに「死ぬな」と要求するのは酷なことだろう。
それでも、俺は生きろ、と命令する。
アインスは顔を上げて、俺の目を見た。
俺もアインスの目を見返す。
「――承知しまシタ」
重々しく頷いたアインスに、俺は力強く頷き返した。




