足跡
高校生のSさんの学校は、文化祭がいよいよ始まろうとしている時期に差し掛かっていた。Sさんの高校での文化祭は毎年比較的大規模に行われていて、その年も大道具の制作に追われていたという。
Sさんが任されていた大道具は、教室の入り口に置かれる門のようなものだった。ベニヤ板を何枚か組み合わせてペンキを塗り、軽い装飾を付けたどこの学校でも用意されているようなものだった。
その日も友達と遅くまで教室に残り製作を進めていたSさんは、トイレに席を立った時に背後で物音を聞いた。ギシッという、木を踏んだような音だった。一緒に残っている友達は先にトイレに行っている。最後に教室を出たのは、確かにSさんだった。不審に思ったSさんは、自分の作っている門を眺めてみた。特に変わったところはない。周りをぐるっと見渡し、ほかに木の板がないことを確認し、最後にもう一度門を眺める。その瞬間、あることに気づいた。
門の上部にある左右の柱を渡すようにかかっているベニヤ板の上に足跡が残されている。木に塗りたくったペンキがまだ乾ききっていなかったのだろう、はだしの足跡がくっきりと残っていた。一つではなく、たくさん。しかも、その足跡は異常に大きかった。Sさんの二回りも大きく、その足跡がびっしりと残されている。誰かのいたずらとも思った。
しかし、わざわざまだ固まっていないペンキの上を一度にとどまらず何度も歩き続けるだろうか。しかも、門とはいえあくまでベニヤ板である。果たして、一人の人間を――しかもここまで足の大きな人間を――支えるだけの力があるだろうか。試しに軽く力をかけてみる。
先ほど聞いた音に似た、ギシッという音が静寂に響いた。さっきの音は、間違いなくこの板から聞こえたと考えていいだろう。だとして、何故?板に残された足跡は、一個ではない。しかし、聞えた音は一度だけだった。
そうこうしている内に、友達が帰ってきてしまった。とりあえず事情を説明し、自分のせいではないことを必死で釈明してからトイレに走った。
帰って来た頃にはもう友達が上からペンキを塗りたくっていて、足跡は消えていた。
その後、不可解な現象は一切起こっていないらしい。