だからタイミングが悪いと
「……何故だ?」
「すいません」
「そして何故謝る?」
事故多発してた。
それはもう、風が吹けば桶屋が儲かるとばかりに、二人の行き先には事故が起こる。
あるときは目の前で階段を上っている老人が倒れ、またあるときは子供が道路に飛び出し車に引かれかける。
水撒きの水や鳥のフンが降ってきた等ということを上げれば切りがない。
逆を言えば水月が直接的な理由になるようなことは何もない。……ないのだが。
「私、昔からタイミングが悪くて……」
「…………」
限度というものがある。
このせいぜい10分という短時間でこれなのだ。
今回は藍が何とかしたが、一体普段はどうしているというのだろう?
「ふ、普段はここまで酷くないんですよ!」
とは、水月の言である。ちなみに藍は信じていない。
「……ならなおのことタイミングが悪かったな」
「え?」
その根拠がこれである。
「知っての通り、聖条魔法学園とは『軍』の下部組織のようなものだ」
「あの、当たり前のように言ってますけど、私そんなの初耳なんですが……」
「何? 一般人か?」
「は、はい! 両親とも魔法は使えないのですが、私は突然変異的に魔法が使えて、それで――」
通りで魔法による対応が遅い訳である。
魔法師の家庭に生まれた藍との対応速度が露骨に違う。どころか魔法による対応という選択肢がまるでないのも頷けるというもの。
「なるほど、有名校だしちょっと記念受験で受けてみたら受かった、と?」
「そんな感じです」
「まあ『学校対抗戦』は大体聖条が優勝だしな……」
『学校対抗戦』についてはこの場では置いておくが、ともかく有名な大会。その優勝最多校。
他の学校がダメという訳ではないが、どうしても魔法といえば聖条魔法学園なのだ。
「……たまに他の属校や有名な家系の運営する学校が優勝するが、最大手はやはり聖条だ。何故ならある程度訓練を積んだ魔法師の家系の者の多くが聖条に入るから。あるいは、既に戦力と見られている軍属の者」
もっとも、そういった者が一切他の学校を受けないという訳ではないので、藍の言い回しは必ずしも正確ではない。
「はあ、そんな魔窟だったんですね……」
それでも一番であることには変わりないので、間違えでもない。
「魔窟とは言い得て妙だな。ある程度将来性も重視してるから、水月みたいな一般人もそれなりに居る訳だが――」
「こ、今年はまだ何かあるんですか!?」
「その通り」
だからタイミングが悪いという話に繋がるのだ。
「今年は特に、あいつが居る」
「……あいつ? 我妻 直さんでしたっけ?」
「ああ、あいつが≪最強≫だ」
「凄かったですよね、あの魔法!」
天を覆い尽くす無数の魔法陣。その全てを制御しきり、敵だけを打つ(無差別放火ならぬ)完全区別放火。
水月にはとてもではないがマネできない。火力、制御、規模、どれを取ってもだ。
「凄いは凄いが、あんなものはあいつにとってただのお遊びだぞ」
「あれが遊び……」
「安心していい、あの100分の1の威力でも魔法が扱えるなら、『狭間』でもやっていける」
ここで言う『狭間』というのは『魔界』との境界のことで、そこら一帯の無法地帯のことである。……『魔界』にそれらしい法というのがそもそもないのだが。せいぜい「力に従え」位である。
だからこそ力が純粋な物差しとなるのだ。
「は、はあ」
もっとも、一般人の水月にはいまいち伝わらないのだが。
「……知りませんでした」
そうこう話しているうちに学校へと着いた。
「久賀君はどのクラスなんですか?」
となると、疑問になるのはこの事だろう。
「藍でいい。どうせ長い付き合いになるし、俺の知り合いとも関わるだろう」
「? ……では藍君で」
「よろしく、俺も水月と呼ばせて貰おう」
「は、はい」
「それでクラスだったな。Cだよ」
「……私もCクラスなのですが、藍君でCなんですか?」
「ああ、筆記がもともとギリギリだったのに、試験官に嫌われてな……」
「…………」
それはいいのだろうか?
「将来性とか言う不透明なものも考慮するから、点数はある程度試験官に任せられるんだと」
「そんな曖昧な……」
そんな試験(水月も受けたのだが)あっていいのだろうかと思うが、そうなっているのは仕方がない。
仮にも最高峰の学校でこれはどうかと思うが、それも仕方のないこと。
「あの野郎、ムカつくとか言う理由で減点しやがって……」
たまに思うがこの少年は口が悪い。……理由を鑑みれば仕方のない部分もあるが。
「……私、やっていけるんでしょうか?」
不安である。
「さっきも言ったが将来性も重視してるらしいから、魔法の技量に関してはそこまで心配しなくていいと思うぞ?」
気遣いは大変ありがたいが、残念ながら水月が心配しているのはそこではない。……わざわざ否定もしないが。