プロローグ
───私、いつか≪最強≫になるんだって。
少女はぼやく様に言った。
『そうしたらきっと、何もかもがつまらなくなって来るよ。
そんな状態で生きる意味ってあるのかな?』
幼くして悟ったような少女に対して、少年はこう返した。
『お前が「最強」だって? そんなバカなことあるか』
『……どうしてそう思うの?』
『だって――』
不思議そうに首を傾げる少女に、少年はその瞳を真っ直ぐ見て言葉を返す。
『「最強」になるのは俺だから。
だからお前は≪最強≫にはならない』
あるいは、それは少年の決意でもあるようだった。
だから少女もそれを受け入れる。それが唯一の希望となるから。
『ふふふ、じゃあ「約束」ね。
私はいつか必ず≪最強≫になる。
だからあなたは、≪最強≫になった私を倒して、「最強」になってね』
青は藍より出でて藍より青し。
そういう言葉がある。
青色は藍という植物から取れる色であるが、藍という植物よりも鮮やかな青色をしている。
言葉通りの意味であるが、それが転じて弟子が師より優れることの意として用いられる。
「――あの! すいません、助けて貰えますか?」
入学式のある学校の初日、何ともなしに少年が思考を巡らせていると少女に助けを乞われた。
酷く曖昧な表現である。そして大仰でもある。
目の前の少女特有の言い回しなのか、それともこの時ばかりの言い回しなのか、少年には判断がつかない。
ただ一つ確かなのは、普段ならこの言い回しの問に、少年は絶対に頷かないということ。
たがしかし、このときばかりは何故かこう答えた。
「ああ。いいけど、どうしたんだ?」
それが何故かは少年自身にも分からない。
ただ、そう答えなければいけない気がしたのだ。
抑えがたい衝動に従い返した言葉に「しまった」と思うが、一度口にしてしまったものは取り消せない。後の祭りである。
少年は大人しく少女の要求を待つ。
このたった一言のやりとりが、後に二人を後悔させることになるのだが、それまだもう少し先の話。
これこそが≪災厄≫の兆候。あるいは、彼が≪最強≫を≪越える≫ための、必然の出会いであったのかもしれない。
各々の『在り方』を示す。運命の出会い。
≪≫【】<>『』「」“”[]
全部使い分けは別。説明はのちのち気が向いたら。
ちなみに「」と『』はたまに入れ替わる。過去の会話や電話のとき。基本は『』。