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ゆうりょう通信販売

作者: あおざる

 休みの日の朝はベッドから起き上がれない。ついゴロゴロしてしまう。スマホのバッテリー残量があるうちは起き上がる必要がないのだ。今朝もゴロゴロしながら特に見るものがないSNSをずっと眺めつづけている。無益なことをしているなと思いつつ、この時間こそが人生の余裕なのだと思い込む。SNS上では朝早くから活動している人も見かけられる、羨ましい限りだ。ボーッとスマホの画面を見ていると通信販売の広告のうたい文句が目に入った。


「当サイトは商品無料ですか……えっ商品無料⁈」


 広告を見る限り、その通信販売は商品が無料らしい。どうせいろいろと条件があるんだろうと思いつつも広告先の通信販売サイトを見てしまう。そこには以前からほしかったゲーム機など、およそ無料とは思えない物が商品代無料で販売されていた。どうやら送料も無料のようだ。


「ははぁ、これは詐欺に違いない。商品も送料も無料なんてありえないぞ」


 いくら寝起きだからと言って、詐欺にだまされるほど愚かではない。馬鹿馬鹿しいと思いながらスマホを枕もとに投げて二度寝でもしようかと目を閉じる。


「いや、しかし、もしかしたら本当に無料かも」


 先程馬鹿馬鹿しいと思った頭で、もう期待し始めている。もう一度確認しても良いんじゃないかと思うが早いか、枕もとのスマホを手に取り通信販売のサイトを開き直す。サイト内を隅々まで調べてみるも、やはり商品代、送料は無料のようだ。注文は電話でも出来るようなので、ひとつ詐欺かどうか試してみようと指定の電話番号へ掛けてみた。

 

「お電話ありがとうございます、ゆうりょう通信販売窓口です」


 人の良さそうな女性の声がスマホ越しに聞こえる。まずは質問からだ。


「広告を見て電話したんですけども……」


「ありがとうございます。希望の商品はどちらでしょうか?」


「その前に一つ聞きたいんですが、本当に無料ですか?」


「こちら、商品代、送料ともに無料キャンペーン中でございます」


「サイトで販売されているゲーム機も?」


「はい、そちらも無料で提供しております。もしお決まりでしたら、住所氏名をどうぞ。最短本日中にお届けいたします」


「本当に本当に無料ですか?」


「はい、商品代、送料ともに無料でございます」


 どうやら本当のようだ。早速住所氏名を伝えると、本日中の配達とのこと。やったー、なんと良い休日だろう。


 商品は午後には届いた。ほしかったゲーム機と、商品代金及び送料が無料と記載されている注文明細書。配達員も段ボールを渡すとすぐに帰ってしまった。早速開封して有意義な休日にしたのは言うまでもない。


 それから毎日のように通信販売のサイトを眺めては、電話を掛けて注文した。なにせ商品代、送料が無料なのだ。使わないやつはいない。休日は一日中サイトを眺めて、商品を選んで、電話して、届いて、それはもう有意義な毎日だった。一カ月たつ頃には、どっぷりと通信販売にはまっていた。


 ある日のこと、郵便受けに封筒が入っていた。見れば毎月届くスマホ通信会社からの使用料金請求書だった。通信販売のサイトを眺めながら封筒を開封する。通信販売はもう習慣になっていた。


「今月の通信料は……えっなんだこれ?」


 スマホの通信料の請求が恐ろしい額になっていたのだ。いつもより2桁多く請求されている。何かの間違いだと思い、スマホ通信会社のお客様窓口にすぐに電話してみる。ながらく待たされてようやくつながった。


「こちら通信会社です、ご用件をどうぞ」


 スマホからは淡々とした声が聞こえてきた。焦る気持ちを抑えながらひととおり説明するも、調べますと言ったのち、またしばらく待たされる。間違いであってくれと、気が気ではない。


「お待たせいたしました。こちらお調べしたところ、通信販売のサイトを毎日のようにご覧になっていますね。こちらは特殊な回線でして、見れば見るほど課金される仕組みとなっております」


 なるほど、確かに商品代も、送料も、無料ではあった。返品して返金を求めようにも商品代は無料なのだ。無料で届いたものを返金するから金を返せなど、そんな理不尽なことはない。


「ご用件が以上ならば、お切りいたします。ありがとうございました」


 相手につながっていないスマホを、いつまでも握りしめていた。

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