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『トーメンター』  作者: 新開 水留
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辻占説法(ツジウラセッポウ)、という言葉くらいは聞いたことがあると思う」

 秋月さんは立って私を見下ろしたまま、そう言って話を始めた。彼女の両手は、私の手をテーブルの上に押さえつけたままだ。

「路肩に机と椅子を置いて通りすがりに声を掛け、手相やなんやを見るアレのことさ。辻占いとも言うが、私ら天正堂ではあれを説法と呼んでいた。アレにはね、れっきとしたルールが存在するんだよ。そのルールには前提条件として、辻、つまりは十字路もしくは丁字路でないといけないというのがある。ただの直線道路の路肩に立っても成立しないんだ。何故なら辻には霊気、瘴気、人々の思いや願いが集まって来る。(ねた)(そね)(ひが)(つら)み、人間が放つあらゆる負の感情が吹き溜まる場所に立ってこそ、アレらは(じつ)のある説法を口に出来るんだよ。でなきゃあ、本来見えるものだって見えやしないからね」

 私はただ秋月さんの声を聞いているだけなのに、異常なほど汗をかいた。よく、霊感のある人間は『寒い』と口にする。そういう場面も、確かにある。だが実際は、自分の身体や周囲に異常な寒気を感じた次の瞬間から、防衛反応が過剰に働き体温が上がる。私はこの時、まるで歌うように朗々とした語り口調の、三神さん譲りの(まじな)いを施す秋月さんの声に、文字通り震える程の反応を見せていた。

 それはおそらく私と、私の中にいる何者かが、だ。

「手相一つとったって、正しく見るにはそれなりの知識と経験が必要だ。三神さん流に言うところの、正しい方法と手順、というやつだ。心得とも言うね。もちろん誰にだって出来ることじゃないけど、基本的には万人が手に出来る力ではある。知識と方法を身に付け、それを説いて聞かせるだけでほとんどの人間の迷いや悩みを解きほぐせるんだ。これを私らは、説法と呼んでいた。だけど世の中には確かに、不可思議な力を行使する人間だって存在する。まあ、それをあんたに言ったところで、とんだ笑い話になるんだろうけどね。…でしょ? だけどね、希璃。境界線の男は、いわゆる辻占説法の世界でその人ありと名を馳せた、当代一と呼び声高い大霊能力者だったんだ。子供だったあんたには障害者に見えたかもしれないが、その正体は『生き地蔵』とさえ呼ばれた程の使い手だった。そうだな、あんたもよく知る、あの二神七権(フタガミシチケン)とかつては天正堂階位・第二を争った程だって言えば、分かりやすい例えになるのかな?」

 言葉では返事をしないという約束だった。その為私は首を強く縦に振って秋月さんの問い掛けに応じたが、正直ギリギリ、声が出てしまう一歩手前だった。

 『御曲りさん』、そして『生き地蔵』とあだ名された境界線に立つ男の事は、話に聞いても今一つ理解が及ばない。評判の高い霊能力者だったという認識の枠を超えるほど、実態をともなったイメージが掴めないのだ。だが、二神七権の名前が出たとあっては、話が別だ。

 二神さんと言えば、すでに齢九十を越えた老人であるにも関わらず、いまだ夫や三神さんが看板を掲げる天正堂本部団体の代表者である。そして天正堂独自の階級である階位の第二とは、開祖がもつ永久欠番・第一の次点であり、これは事実上のトップを意味する。幼稚な表現かもしれないが、一番強く、一番偉い人なのだ。私も何度かお会いしたことがあり、この目で桁外れな彼の霊力を目の当たりにしている。人外、とも言えてしまうほど二神さんの力は途方もなく凄まじい。その彼と、肩を並べた男だというのである。子供の頃は不気味でしかなかった、あの境界線の男が…。




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