対話(ぞっとする話し)
やぁ。
よぉ。
と、挨拶を交わして席につく。
……わけがない。そんなセリフ、現実で使うか?
大概、僕らは無言で席に座り、
オレ、生。お前は?
ホッピーで。
って、感じで対話をスタートさせる。
ある日、ある夜、突然自殺についての話題になった。
減らない自殺者数について、どう思う?どうして減らないんだと思う?どうして自殺するんだろう。
とは、僕。
彼はその質問にたいして
自殺者の背景を何件か調べてみたのか?
と質問で返してきた。
僕はホッピーの二杯目を注ぎながら、頷く。
彼は、くだらない、と笑った後で語る。
減らない自殺の理由を考えるのに、自殺者数や、自殺者の背景を調べるって感覚が、物事を表面的にしかとらえられない、いかにも浅はかなお前らしいよ。
ところで年齢に比例して自殺者の数は増えている。それはわかるよな?十代よりも、二十代、三、四、五、って。
僕は頷く。
なら、若い自殺者の方が注目されるのはどうしてか、わかるか?
割合だよ。死亡要因の一位が自殺だから、だ。
一位だから注目される。ここまでは納得できるか?
僕は頷く。
で、やっぱり表面的で浅はかだ、と彼は笑う。
そんなわけあるか、一般的に年齢がいってる人の自殺は理解しやすいんだよ。
オッサン、ババァになって病んで、疲れて、さようならってのは共感出来てインパクトが無い。だから、共感しずらいからこそ“新鮮な肌の自殺は”注目される。
意味不明だから、意味を探したくなるんだよ。
暴論だ。
とは思ったが、黙って聞いて、かわりに酒を飲む。
――あ、野菜盛り合わせ追加で。
で、自殺を知るのに、自殺者の背景を探っても仕方ない。その闇に踏み込んだって暗闇で何も見えてこない。そもそも本人はいないんだ。周りが何を言っても、結局――本当の原因はわからないだろ。
なら、発想を転換させて……
“逆を”調べてみればいい。
逆?
と、僕は質問する。
そうだ。生物の中で自殺するってのはやっぱり特殊、だ。人間だけじゃないが、特殊には違いない。
で、逆ってのは、もう一つの“特殊性”を調べてみろって事。ヒントはそこだ、とオレは思う。
なんだよ、そのもう一つって。
“親殺し”だよ。
ちなみに、日本は殺人件数で親殺しの割合が世界一位だ。
ぞっと、背筋が寒くなった。
でも、人を殺す事と自分が死ぬってのは全く別の事じゃないか。
知らないよ。そんな事。でも、他人ではなく血が近い者を殺すってのは、感覚としては――
まぁ、いいや。そっちはまだ生きてるんだから、興味があったら聞いてみろよ。
と、彼は笑い、ウィスキーのロック。
僕は梅酒のウォッカ漬けを飲む。
全く、酔えない。
つまり彼は何を言いたかったのか?
自殺や殺人とか……そういう問題に自ら関わろうとするな。
きっと彼はそう言いたかったんだろうと僕は思った。