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 長蛇の列とまではいかないけれど、そこそこの人たちが並んでいるギルドのカウンターで、私たちは吸血コウモリ退治という地味な仕事を受け、洞窟へ入るための手続きをすませる。


 金額的にはたいした仕事ではないけれど、戦力的に大きな仕事をとるわけにもいかないから仕方がない。私たちは慎ましやかな仕事と共に、作戦会議やちょっとしたもめ事、大きな仕事に浮かれる声なんかでざわつくギルドを後にする。

 太陽が機嫌良く輝く午前十時。

 ギルドの前には、銀髪のおねーさんが立っていた。


「待ってたわ。ジェラルディーヌ・ピスタッシュよ」


 頼んでもいない自己紹介と共に、ジェラルなんとかさんが髪をかき上げ、盾をこれ見よがしに構える。


「出ましたね、ストーカー」


 私がぼそりと呟けば、ジェラルなんとかさんは心外だと言うようにこめかみの辺りを押さえてから、胸を張って言い放った。


「失礼ね。ストーカーではないわ。私は、あなたたち二人を守るラブガーディアンよ」

「気持ち悪い名称つけて、仲間に入ろうとしないでください」

「これから洞窟へ行くんでしょ。私も行くわ」

「来なくていいです」

「前衛はどうするの?」

「今まで前衛なしでやってきてますし、今回もこのままいきます」


 私は立ちはだかるジェラルなんとかさんを避け、洞窟に向かおうとしたけれど、彼女にぐわしっと勢いよく肩を掴まれた。


「今度の洞窟は、大物が出るって噂よ」

「知ってます」

「私も一緒に行くわ。嫌だと言ってもついていくわよ。あ、ちなみに、あなたたちの仲を邪魔するつもりはないわ」

「レナちゃん、この人を仲間にしよう」


 間髪入れず。

 この言葉がこんなにもぴったりくる瞬間に遭遇する日が来るとは。

 私の隣にいたはずのナギさんは、ジェラルなんとかさんと手を取り合ってパーティー歓迎の儀式のようなものを執り行っていた。


「ナギさんが裏切るとは、思いませんでした」


 はあああ、と体中の酸素を吐き出しつつ、ナギさんを見る。

 向ける視線がやや恨みがましいものになっていたけれど、こればかりはどうにもならない。本当は魔法の一つや二つ、いや、四つや五つくらいぶつけてやりたいのを我慢しているのだから。


「この人が変態でも、前衛として役目を果たせば良いんでしょ?」

「ナギさんにこの人のことを変態っていう資格はないと思いますけど、言ってることは珍しくまともですね」

「レナちゃん。とりあえず、お試しでパーティー組もうよ」


 ジェラルなんとかさんをちらりと見ると、ナギさんの言葉に頷いている。私はたっぷり三十秒ほど考えてから、言った。


「……お試しなら、まあ」


 吸血コウモリを退治するだけだし、大丈夫だよね。

 ほら、あれ、血を吸うくらいで、死んだりするような相手じゃないし。

 うん、大丈夫。大丈夫に違いない。

 すでにくじけそうになっている心を奮い立たせるように、私は自分に大丈夫だと言い聞かせる。


「じゃあ、ストーカーさん。お試しでパーティーを組みましょう」

「ちょっと待って。私はストーカーではないわ。ジェラルディーヌ・ピスタッシュよ」


 今日、二度目の自己紹介を聞きながら思う。

 長い。

 危ないときに悠長に名前を呼んでいたら、死ぬ長さだ。

 もっと短縮しなければ。

 私は使命感に駆られ、提案を一つする。


「名前が長いので、盾さんでいいですか?」

「あたしは、ぴーちゃんって呼びたい」


 すかさず、ナギさんが気の抜ける愛称を口にする。


「鳥じゃないんですから、それは――」

「仲間に入れてくれるのであれば、いいわ!」

「あ、良いんですね」


 気持ちの良い断言。

 適当な愛称と気の抜ける愛称は、どちらも本人にすんなりと了承される。

 予想外にメンバーが三人になったけれど、行き先は変わらない。私たちは今回の敵である吸血コウモリがいる洞窟へと向かう。


 ギルドから歩いて約二時間ほど。

 スライムと戦った洞窟よりも大きく暗い洞窟に、私たちは足を踏み入れる。

 そして、そこからさらに一時間。

 私たちの前には吸血コウモリではなく、そしてスライムでもなく、何故か真っ赤なドラゴンがいた。


「大物って、これですかね?」

「これでしょうね」


 前を歩いていた盾さんが頷く。

 がっちりとした後肢で立ち、背中の翼を広げたドラゴンは、小型だけれど大物と呼ぶに相応しい風格があった。普通、こういうものは噂だけで実際は出てこないものだと思うけれど、出てきてしまったものは仕方がない。


「逃げましょう」


 私は言葉と同時に、回れ右をする。

 あとは、走って逃げるだけ。

 だったはずだけれど、後ろからきえーと言う声が聞こえてきて振り返った。


「レナちゃん、ぴーちゃんが戦ってるけど」


 ああ、やっぱり。

 盾さんは、駄目な人だった。


 私は杖を構えながら、盾さんを仲間にした数時間前の自分を頭の中でぶん殴る。でも、殴るのは一発だけにしておく。脳内で自分と戦っている暇があったら、現実と戦わないと酷い目に遭う。

 大物と言っても目の前にいるドラゴンは、小さい方だ。小型だから、死ぬほど強いわけではないと思う。強さレベル的には、大怪我をするくらいだ。


 でも、大怪我なんてしたくないから、私は後衛らしく盾さんの後ろで呪文を唱えようとした。したけれど、呪文より先に違う言葉が出た。


「うわあ、弱い」


 当然これはドラゴンではなく、盾さんのことを指している。彼女は、私が呪文を口にする前に地べたに這いつくばっていた。時間にして三分も経っていないのにだ。

 ちょっと、これは、想像していたよりもはるかに弱い。

 前衛を任せてもいいのか不安になるレベルだった。


「盾さん、大丈夫ですかっ」

「私なら、大丈夫よ!」


 盾さんが倒れているとは思えない爽やかな声で言い、立ち上がる。


「弱くても、私は立ち上がることができる! そして立ち上がれば、戦闘は続けられる。だから、大丈夫よ!」

「いや、あの、何が大丈夫なのかさっぱりわからないんですけど」

「何度、倒されても、私は、立ち上がる!」


 そう言っている間に、盾さんは二度目のダウンを喫する。しかし、素早く立ち上がっていた。


「……こういう役目の果たし方はどうかと思いますが、前衛としては機能してますね」


 盾さんは、とても打たれ弱かった。そして、とても打たれ強かった。何を言っているのかわからないけれど、打たれ弱く、打たれ強かったおかげで彼女は何度倒れても起き上がり、前衛としての役目を果たしている。

 さらに言えば、剣もそこそこ使えるようでドラゴンに斬りかかり、注意を引きつけてくれている。


「ナギさん。盾さんが攻撃を防いでくれている間に、攻撃しましょう」

「わかった」


 私は、回復魔法を使えない。だから、盾さんが時間を稼いでくれている間にドラゴンを倒さなければ、三人仲良くお医者さんのお世話になることは間違いなかった。


氷刃(ひょうじん)!」


 さっさとドラゴンを倒すべく、魔法を使う。短い詠唱を済ませれば、私の周りに氷の刃がいくつも浮かび、ドラゴンに向かって飛んでいく。そして、半分ほどがドラゴンに刺さり、残りは鱗に弾き返される。ドラゴンは、氷の刃が刺さった部分から真っ赤な体に似合わない緑色の液体を流していた。


 その間にも、隣のナギさんが銃を撃っていて、ドゴーンとか、ドバーンとか景気のいい音が聞こえてくる。ついでに、洞窟の天井や壁が崩れ、辺りには土煙が漂い、視界が悪くなっていく。

 わかりやすく言えば、弾はすべて外れていた。

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