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「ナギさん。私たちに必要なものは物理的な壁、もしくは壁になりそうな人間です」

「物理的な壁?」


 かすかに花の香りを乗せた風が吹く、うららかな昼下がり。

 前回のスライム戦から二日後、私たちはギルドの前にいた。

 と言っても、本当にギルドの真ん前に立っていたら邪魔だと蹴飛ばされるに違いないので、人が歩くべく作られた石畳の上から外れた土の上で作戦会議をしている。


「盾です。盾を持った人間です。もっと言えば、前に出て戦ってくれる人。前衛です」


 あのスライム戦で学んだというより、前々から気付いてはいた。私たちのパーティーはバランスが悪い。それでも、ナギさんがどうしても二人で冒険をしたいと言うから、何となくパーティーメンバーを増やさずにいた。


 でも、もう無理。このパーティー、絶対におかしい。

 前衛、いるでしょ? いりますよね。というか、いる以外の答えはないでしょ。

 だけど、ナギさんは抱えていた銃を置くと、予想通りの言葉を口にした。


「え、やだ。あたし、レナちゃんと二人きりがいい」

「私は、二人きりの方が嫌です。とにかく、魔法使いとガンナーの二人だけでパーティーを組んでいるのがおかしいんです。普通、私たちは後ろに下がって戦うのが役目じゃないですか。後衛ですよ、後衛。後ろの人です。だから、前に立って戦ってくれる人を探しましょう。絶対に、どうしても、何があっても探しましょう」


 私は、近年まれに見る力強さで言った。そりゃあもう、喉が裂けんばかりの勢いで言った。不本意であってもナギさんとパーティーを組んでいくなら、前衛を雇うことは外せない条件の一つになる。だから、こればかりは譲れない。

 それなのに、ナギさんは不満そうに口を尖らせた。


「ええー」

「ええー、じゃないです。絶対に前衛を仲間にします」


 私は、そう宣言して握りこぶしを作る。

 ギルドには、仕事を探している冒険者がたくさんいる。中には、パーティーを組んでいない人もいるから、良さそうな人を見つけて仲間に引き入れるつもりだ。

 そして、ナギさんの銃の的になってもらう。

 このままでは、私の身がもたない。


「ナギさん。仲間が見つかったら、ご褒美をプレゼントしますよ」

「んー。そこまでレナちゃんが言うなら、誰か仲間にしてもいいけど。とりあえず、あの人は?」

「あの人?」

「後ろにいる人。盾持ってるし」

「え?」


 振り向くと、そこには長い銀の髪をなびかせ、銀の鎧を身に纏ったスタイルの良いおねーさんがいた。ナギさんが言うように、手にスクトゥムと呼ばれている長方形の大きな盾を持っている。


「呼んだかしら?」


 おねーさんが呼ぶ前に近づいてきて、私たちに話しかけてくるものだから考えることなく答えた。


「まだ呼んでないです」

「ということは、これから呼ぶということね。オーケー! いいわ。私は、ジェラルディーヌ・ピスタッシュ。あなたたちに良い戦士を紹介するためにここにいるの」


 青い空に浮かぶ太陽が、道を行き交う人々を照らす穏やかな午後。

 高らかにおねーさんは言った。


「紹介?」


 こういう人とは関わりを持たない方が良い。

 過去の経験がそう言っていたけれど、私は思わずおねーさんの言葉に反応してしまう。


「そう。紹介したいのは、この私よ! 私は、この盾を見てわかるようにあなたたちが探している戦士よ。そう、前衛! あなたたち二人の前に立つ人間よ! パーティーに必要なんじゃないかしら」

「すみません、定員オーバーです」


 私は、素っ気なくジェラルなんとかさんに告げる。


「ちょ、ちょっと、待って。後衛二人じゃ危ないわ。ぜひ、この私に二人を守らせて!」

「嫌です」

「まだ名乗ったくらいなのに、嫌だと言われる理由がわからないわ」

「待ってましたとばかりに登場する人を信用しないだけです」


 大体、こういうときにこういう登場の仕方をしてくる人は危ない人だ。厄介者だったり、腕が悪いとか。まともで腕の良い冒険者は、こんなところで売り込みをしない。


「甘いわね! 私は信用に値する人間よ。実は、ずっとあなたたちを見ていたの。この間の戦いもみたわ。あなたは彼女をけなしながらも背中を預け、ケンカをしながらも協力しながら戦っていた。そう、あなたたち二人には信頼関係がある。そういう尊い関係を守るためなら、私は命をかけることができるの」


 あ、この人。ナギさんと同じ匂いを感じる。

 パーティーに入れたら、ナギさんとの相乗効果で最低なことが起こる。そんな予感しかしない。

 脳内会議が終わり、私はジェラルなんとかさんに背を向けようとした。でも、ナギさんが彼女に声をかけてしまい、その場を立ち去ることができなくなる。


「見てたって、どういうことなんですか?」

「実は、私もあの場にいたのよ!」

「えー、どうして助けてくれなかったんですか」

「だって、二人の仲を邪魔するわけにはいかないじゃない」


 あ、すごく駄目な人だ。

 何があっても、仲間に入れちゃいけない人だ。

 私はナギさんの手を掴み、引きずるようにしてジェラルなんとかさんから離れる。


「すみません。私たちはこれで」

「ちょっと、待ちなさいよ。行くなら、私も連れて行って!」

「連れて行きません。あなたからは、ナギさんと同じ危険な香りがします。絶対にパーティーメンバーにしたくないです」

「なぜ? 前衛探してるんでしょ。私なら、二人のことを命にかえても守るから。というか、絶対に二人の尊い関係を守りたい! だから、パーティーを組みましょう」

「すみません。無理です」


 それでは、とぺこりと頭を下げ、私たちはギルドの前から素早く立ち去る。遠くから、ジェラルなんとかさんの声が聞こえるけれど、それはたぶん気のせいだろう。


 私とナギさんは几帳面に並べられた石畳を歩き、風に漂う香りの源へとやってくる。

 石壁の商店が建ち並ぶ街の外れ。

 整備された花壇の前に置かれた古ぼけたベンチに、私たちは腰掛けた。


「良かったの?」

「ナギさん、私と二人の方が良いんですよね?」

「そうだね。レナちゃんと二人の方がいいな」

「じゃあ、そういうことで」


 ナギさんは、どういうわけか平々凡々を体現したような私のことを気に入っている。髪が長いことくらいしか特徴のない私に一目惚れをしたとかで、半ば強引にパーティーが結成された。


 彼女と二人きりで冒険を続けるのは不安だけれど、パーティーにあのわけのわからない人を加えるのは精神衛生上よろしくない。ただ、前衛が見つからないなら、ナギさんのノーコンを何とかしないと私の寿命が尽きてしまう。


「ところで、ナギさん」

「なに?」

「その銃、弾に魔力を込められないんですか?」


 狙った場所に当たるようにする魔法。

 確かそのようなものがあったと思い、私はナギさんに尋ねた。


「無理みたい。前に魔力を込めてあげるって人がいたんだけど、出来なかったんだよね」


 私と同じような被害を受けていた哀れな前任者がいたんだろうと察することができる言葉に、私はため息をつく。

 世の中、そううまい話はないらしい。


「弾、見せてもらってもいいですか?」

「いいよ」


 ナギさんから大きな銃に見合う大きな弾を手渡され、私は銀色の何かで出来たそれに杖を振るう。


 敵に当たれと念じながら魔力を注ぎ込んでみるが、大半が弾き返される。他の弾も借りてみたけれど、結果は同じだった。何かでコーティングでもしてあるか、もともと特殊な弾なのかはわからないが、込めようとした魔力のほとんどが飛び散ってしまう。弾に魔法をかけることは、難しいようだった。


「どうだった?」

「敵に当たる弾を作るのは無理そうですね」

「え? そんなことのためだったの?」

「そんなことのため以外に弾を見せて欲しい理由なんてないです」

「ええー。そんな心配いらないよ。ちゃんと敵に弾、当てるもん」

「……そうなるように祈っておきますね」


 私は絵で描いたようなふわふわとした雲が浮かぶ空を見上げながら、本気で敵に弾が当たるように祈った。

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