拝啓、幼馴染へ〜ありがとう〜
これから40分、カレンの亀のように遅い歩きにペースを合わせながら学校へ向かう訳だが、どうせなら二人の妹を持つコイツに色々聞いてみるべきなのだろうか。正直、俺には年下の女子との距離感なんてわからない。……、相手が相手だが、聞いといて損はないだろう。ちなみ、なんで移動手段が自転車じゃなくて歩きなのかと言うと、隣のおデブが自転車を持ってないからだ。彼女曰く、私に似合う自転車がないとか。……耐えられるの間違いではないだろうか。
「なぁ、カレン。ちょっと聞きたいことがあんだけど」
「おっ、なんだなんだ、私のスリーサイズか?仕方ない、このダイナマイトボディに隠された秘密を竜星にだけ特別に教えてやってもいいぞ?」
「見て分かるとこしかねーんだけど。それとあれか?お前の言うダイナマイトは今すぐにでも張り裂けそうな身体って意味のダイナマイトか?そうだよな?」
今はそんなボケいらねーんだ。こっちは真面目な話がしたいんだ。
「あのよ、お前、二人の妹いるじゃんか?」
「お前、私を差し置いて私の妹に手を出すつもりか!なんだ!?いつから妹属性になったんだよ竜星!?……それなら、ちょっとオススメの同人誌あるから貸そうか?」
「話をいちいちややこしくすんな!!そんなんじゃねーよ!!ってか、一般人にそういうのオススメするのはやめろって言ってるよな俺!!」
お前の持ってる本は常人には理解出来ない内容だからやめなさいってほんと!!
ん?……、お前、今、鞄漁ってるけどもしかして……。
「グヘヘ、こういうのはどうですか旦那……」
おい!!!!!お前!!!鞄から覗かせてる触手ロリ同人誌を道端で出そうとするんじゃねぇえええええよ!!!!
「とっととそいつをしまえ!!」
「へへへ、安心しなって。私、基本は読むだけでそういうのにはみしよ……」
「いいからしまえと俺は言っている!!!」
何、お前、エロ本常備してんの?しかも異性の幼馴染にそれ渡そうとしてるの?変態?変態なの?いや、只の馬鹿だったなお前は!!!
話が一向に進まないので、どうしてそういう事を訪ねたのか、包み隠さず理由を伝えた。母の事、妹の事。本当はオブラートに説明して意見を聞くつもりだったが、全容を知ってもらうには全て話すしかなかった。話してて、なんだか悲しくなった。
「もはやエロゲーですな!」
「お前に聞いた俺が馬鹿だった」
カレンを置いてそそくさと歩いて行く。
「ちょっと待てよ!」
俺を追いかけて走るカレン。俺の駆け足=カレンの走り。どんだけ運動不足なんだコイツ!!
「ひ、膝が軋む!!」
「お前もうちょっと痩せたらどう!?」
「ヤダ断る!!私のアイデンティティが崩壊する!!」
「アイデンティティの前にお前の膝が崩壊すんぞ!!」
むしろ、お前をお前足らしめる要素がデブでいいのかお前は!?
「でもさ!この身体は、この脂肪は!私が好きにやってきた証なんだよ誇りなんだよ!!過去から今までを紡いできた証拠なんだよ!!だから、私が私を守ってやらないで誰が私を守ってやるのさ!!頼むから、簡単に痩せろなんて言うなよ!!」
「ごめん立派だわ!お前スゲー立派だわ!だけど、それはそれとして、友人としてお前のそれを見流せないわ!!お前の膝とか病気の事考えると、許容できないわ!!」
「竜星、お前、そこまで私の事思って……。これって、愛?」
「あぁ、友情という名の愛情だ。徐々に、でいいんだ。ゆっくり痩せていこうぜ」
「わかった!私、痩せる!!」
泣きながらそう言ったカレンは、鞄からおもむろにポテトチップス(コンソメ味)を取り出し、封を切った。
「お前さ!?」
「最後、最後の一袋だから許して!!これで本当に終わりにするからぁぁ!!」
そう言った奴は大概辞める事が出来ない。そんな事は知っていた。知っていたけど、そこまで悲願してくる彼女を、俺は止める事が出来なかった。
「妹ね。そもそも、妹なんてクソ面倒な生き物なんだから諦めなって」
「深くは望んでないんだ。せめて、せめて、一般レベルの付き合いが出来れば文句はねぇんだ」
もちろん。兄として、深く親しくなれればそれに越した事はない。だけど欲は言わん。一般的でいいんだ。こっちを見て怯えたり刺してきたり、特に被害妄想がなくなればそれでいい。
「んー。んー。そもそも、姉妹っていってもなー、嫌いなものは嫌いだからなー。その中でなんとかやりくりしてる私としてはなー。……そうだ。逆に言うけど、どうしてそんなに気にするのさ?」
感覚的な問題だった。だって、普通に考えてそうだろ。嫌な事より楽しい事の方がいい。なら、仲が悪いより仲が良い方がいい。それに、人を心配するのは当たり前じゃないのか?
「あー、ごめん竜星。竜星がそういう奴だって事忘れて発言してた」
「そういう奴ってなんだよ」
「お人好しマン。気遣いマン。人助けマン。あと、心配マン!だから、人を想うのに深い理由なんていらないんでしょ」
「なんか馬鹿にされてないか俺?」
「褒めてるって褒めてるって!」
褒められてるはずなのに、なんだろう。なんか腑に落ちない。半分呆れられてる気がする。でも、あぁ、正直、自分でもたまにそう思う。けど、子供の頃に母さんに『イイ男に育て』と言われて色々躾けられたからな。今でも抜けないクセみたいなもんだ。今更、そういうのを見逃せないし。しょうがない。
「ほら、私って、オタクじゃん。しかも、重度で結構手遅れ気味な。だから、それでピチピチギャルの二人の妹から汚物でも見るかのような視線を受けてるわけだけど」
正直、妹二人の気持ちも分からなくはないが、そこまで嫌わなくても、とも思う。でも、それが俺の妹とどう関係するんだろうか?カレンが続けて言った。
「私も思う。妹の気持ちも分からなくもないって。うん、もはや私は末期だ。自分でも分かってる。けど、大事なのはここからだ。それを好きにならなくていい。私を好きにならなくてもいい。ただ、許容して欲しいんだ」
「つまり、認める事が大事って事か?」
「そう。まぁ、下手な自分語りになっちゃったけどね。妹をどうこうするより、まずは認めてあげればって事。確かに、その歳でそれはマズイかもだけど。認めて、認められるのが先なんじゃないかなって」
ダメな所も否定せず、か。そうだな。徐々に徐々に言ってたのは俺からじゃないか。
「サンキュー、カレン。おかげ助かったぜ」
「なーに!お役に立てたなら結構!こっちだって竜星には助けて貰ってるしね!!これも認めて認められて、って奴さ!」
そう言った彼女は、ニッコリっと笑って親指を立たせた。
俺の友人は濃ゆい奴が多いが、うん、全員良い奴なんだ。俺よりも面白くて、俺よりも面倒見が良い。あぁ、そんなやつらだから、俺は、コイツらの事が好きなんだ。大丈夫。きっと、焦らなければ妹ともそんな関係を築ける。そんな気がする。
足取りは最初に比べると軽くなって、視野も少し広くなった。そしてやっと気が付いた。今日は、曇りのない晴天だったと。そうか、知らず知らずそれだけ余裕がなかったのか。【男たるもの、常に余裕をもって、常に堂々といるべし】今になって、去って行った母の言葉を思い出す。俺もまだまだ未熟って事だな。