拝啓、親父へ。〜再婚はいいけど相手はちゃんと選べよ〜
突然だが、俺に新しい母と妹ができた。本当に突然の事で、把握出来ない唐突なことで、あまりにも不意な出来事だったが、親父の隣にいる大人の女性と小さな女の子が、それを嫌が応にも物語っていた。
「と言うわけで、よろしく頼むよ竜星」
「おいバツイチ。いきなり女連れてきてよろしく頼むよじゃねーんだよ。俺、今から友達にスケット頼まれて練習試合に行こうとしてるわけ。そんで今朝5時なわけ。今から家出るわけ!んで、そんなタイミングで、なに、いきなり『新しい家族を紹介するぞ』だ?んなの思考が追いつけるわけないだろうが!!」
朝から頭の情報量がパンパンだわ!!重い!あまりにも状況が重い!!朝起きた瞬間に口いっぱいに蜂蜜ぶっ込まれたぐらい重いわ!!
「なんだ。父さんの恋愛が成就したのに喜んでくれないのか」
「いや、普通だったら喜ぶわ。けどな。今まで女の話なんて出てこなかったのにいきなり女連れて来られても息子としては困るから!」
「仕方ないじゃない竜星君。私達、初めて出会ったのが昨日の夜なんだから」
アンタさ、いや、新しい母さんさ。ふふふって笑いながら言うけどさ。
「今のは突っ込みどころが多過ぎるぞ新しい母さん!!」
そりゃそうだ!知るわけないわそんな情報!!ってか、出会ってすぐ結婚ってどうなの!?
「そりゃ、もう、一夜を共に過ごしたら、男として責任を取るのが男だろう?」
「だとしても即決過ぎるだろ親父!!そんなんでいいのか!?お前そんなんでいいのか!?お前バツイチだろ!?もっと慎重に決めた方がいいんじゃないか!?」
「安心しろ竜星。俺たち、身体の相性はバッチリだ」
「ヤダもう龍太郎さん。恥ずかしいわよ」
「はははは、いいじゃないか。もう夫婦なんだから」
「子供の前でそういう話はやめろってーの!!!」
小さい女の子がいるとこで話す内容じゃないでしょうに!!ほら見てみろ!娘が引き攣った顔でこっちを見ているぞ!……って、見た目からして君、小学中学年ぐらいだよね?え、分かるか?夜の相性が良いって隠語だけでそれがどんな意味か理解してるのか?え、ちょっと、それはいくらなんでも早いだろうに!
「……される、おかさ…る。犯される……。ヤダ、私、この人に私犯される……」
「はいちょっとストーーーーップ!!その単語はちょっと色々な意味で不味いんだわ!!ってか、なんで!?なんで俺見てそう思った!?」
流石にいきなり年下に怒るのも格好がつかないから驚いてる程度で済ませてるけどあまりにも失礼だぜそいつは!?
「だって、クリムゾンで出てくる坊主頭のオジさんに凄く似てるから……。だから、夜な夜な私に媚薬を塗って夜這いをするに違いないんだ……。ヤダ、怖い、犯される。こんな人がお兄ちゃんなんて、私の人生終わったも同然よ……」
よし。落ち着こう俺。そうだ、冷静になれ。混乱した思考を、クールに、正確に、大事な情報だけをかき集め、固定概念を捨てて、これがどう言った意味か考えよう。なに、こんなもの、小学生でも出来る簡単なお遊びだ。クリムゾン、ハゲたオジさん、媚薬、犯される。成る程成る程。つまりそういう事か。
「君はなんちゅうもん見てるんだ!!!!それはまだまだまだまだ早すぎるでしょうが!!!」
「そうかしら?英才教育は早めの方がいいかと思って寝る前に読み聞かせてあげてたんだけど、ダメだったかしら?」
お、おおっ、お母さん!!!その教育方針は明らかに間違えてますぜ!?だってほら!!
「犯れる前に、殺らなきゃッ!!」
ポケットからカッター取り出して俺に向けてますよ!そりゃ男性に対して恐怖心持ちますってば!!って、待てよ!?なんで親父の事は平気なんだこいつ!?
「その答えは父さんが答えよう。実はもう2、3回刺されてるんだが、持ち前の気合いでなんとかした!!」
「人の心読み取って勝手に答えるのはいいけどそれは明確な答えになってないぜ親父!?」
気合いでなんとかって漫画じゃあるまいし無理でしょ!?
「だから、竜星。これからは、二人を宜しく頼んだ……ぞ」
「しかも全然なんとかなってねぇじゃねーかよ親父!?え、なに、親父死ぬのか!?」
「ふふふ、お父さんを引き換えに、新しい母と妹を特殊召喚って感じかしら」
「母さんそれ全然笑えないから!!
「今が、チャンス!!」
妹の捨て身タックル。流石に、いきなりの奇襲はかわせないと判断した俺は右手に持っていたカバンでカッターを払い除けた。コイツ、マジでヤル気満々じゃねーか!!
「こんな二人ですが、今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いしますって言いたいところだけど率直に言って宜しく出来る自信がないよ俺には!!」
「いいのよ、少しずつ慣れてくれれば。私の事も、少しずつでいいから、【お母さん】って呼んでくれると、とても嬉しいわ」
慣れる?これに?殺気立った妹のこの視線に?いくらなんでも無理だって。新しい母さんと妹が出来たってだけなら、まぁ、飲み込めない事もないけど、流石にコイツばっかりはなぁ。ってかさ、俺さ。
「さっきから母さんの事【母さん】って呼んでたんだけど」
「まぁ!!竜星君が、私の事を、【母さん】と呼んでくれた!!」
いや、だから、こっちはさっきからそう呼んでたんだって。なんだろう、どっぷりと疲労感がわいてきたわ。
「もうダメだ。武器を奪われた女性の末路はただ一つ。私、この人に、犯されちゃうんだぁあああああああああ!!うわぁあああああああん!!!」
あぁ、もう、なんだか、全部どうでもいいや。どうでもいいから、うん、いっそどうなろうと構いやしない。俺はもう疲れたよ。疲れたから。この際全部受け入れてしまおう。
座り込んで泣いている妹に視線を合わせて、俺は優しく問いかけた。
「俺の名前は竜星。お前の名前は?」
「ふふふ、私のは名前は笑美子よ。宜しくね、リュウちゃん」
うん、母さん。普通、この体制なら妹に声掛けたって分からない?いや、もう、うん、別にいいんだけどさ。名前の通り綺麗な笑い方するよなこの人は。親父は、この笑顔に惚れたんだろうか?まぁ、とりあえずだ。
「あんな死にかけの親父ですけど、どうぞ末永く宜しくお願いします」
「もちろん、リュウちゃんもね!」
「……。うっす。よろしくお願いします」
なんだろうか。冷静になってこういう挨拶を交わすってのも、なんか小っ恥ずかしいな。
「私の、名前は、エリザベス。よろしく、お願いします」
俺はもう突っ込まない。明らか、(外見日本人だろお前)て思っても、俺は決して突っ込まない。そんな気力もうない。ってか、多分、もうそろそろ家から出ないと約束の時間に間に合わない。故に、俺はもう突っ込まない。
「よろしくな、エリザベス」
「バーカ!!私の名前は幸子だよーーー!!本気にしちゃって馬鹿みたい!!」
ダメだ。やっぱ、俺、コイツとは絶対仲良くなれないわ。