ねぇ待って、まだ婚約してないから
「お嬢様、今日のお召し物はどれになさいますか?」
メイドのランがクローゼットの前で私に聞く。クローゼットの中には煌びやかなドレスが所狭しと並んでいた。以前の私なら嬉々としてドレスを選んでいただろうが今の私は前とは違う。前世の記憶を取り戻したのだ。つまり今の私は某名探偵のように見た目は子供、中身は大人状態になっている。ゴテゴテした重苦しいドレスを着るのには抵抗があった。
「……じゃあこれで」
悩んだ末に私が選んだのはシンプルな青いドレスだった。シンプルと言ってもリボンやフリルが付いているが私の持っているドレスの中では比較的マシな方だと思う。
「それでよろしいのですか?」
「うん」
「承知いたしました」
ドレスを着せてくれるランの手つきは流石としか言えないが私の気分は少しずつ下がっていく。私は子供なのでまだコルセットはつけなくても良いがパニエは履かなければいけない。ドレスを膨らませるための道具なのだがごわごわしていて好きではない。大人になるとコルセットもつけなければならないのかと考えると憂鬱になるのも仕方ないだろう。
「お嬢様、終わりましたよ」
ランにそう言われて鏡を見るとそこには完全防備の私がいた。
「ありがとう」
ニコリと笑ってお礼を言うとランも微笑み返してくれる。この後リオンお兄様のところに行かなくちゃ、と考えていると廊下から騒がしい音が聞こえてきた。
「失礼します!お嬢様、大変です!」
入ってきたのはメイドのセラ。息を切らしているのを見ると走ってきたようだ。隣のランが眉をひそめる。セラはそんなランの姿も目に入らないのかトレーに乗せた一通の手紙を差し出してきた。その手紙は既に開封されていて、ペーパーナイフで切った跡がある。
手紙を受け取り読む。
「……私が婚約?……しかも王族と?」
手紙に書いてあったのはアルラリア公爵家の娘である私と息子を婚約させたい、という内容だった。しかも相手は王族の中でも王位継承第2位の人物。
……チョットヨクワカラナイ
「おめでとうございます、お嬢様」
待ってラン、そんな冷静にお祝いの言葉をかけないで。まだ婚約してない。
「旦那様がこの件でお呼びです。至急書斎へ来るようにとのことでした。おめでとうございます」
セラ、そんな笑顔で言わないで。私まだ婚約してないし、相手の顔も知らないから。
「…………取り敢えずお父様のところへ行ってくるわ」
「「承知いたしました」」
2人にそう言って自室を後にする。
あぁ神様、教えて下さい。
どれが私の破滅ルートですか?