いや、このゲーム知らないって
「やっぱりリュウはかっこいいなぁ……」
スマホの画面を見ながらそう呟く。画面に映るのは鮮やかな青色の髪をしたイケメン。最近私がハマっているゲームの推しだ。このゲームは所謂乙女ゲームというやつで、好きなキャラクターの好感度を上げてプレイヤーであるヒロインとくっつけさせるゲーム。
「まーたゲームしてんの?最近リュウってキャラの話しかしないじゃん」
「お姉ちゃんはリュウがどれだけかっこいいか分かってないんだよ!」
私がリュウに出会ったのは数ヶ月前、テレビのCMに映ったリュウを見た瞬間、私の脳内は彼に支配された。リビングで突然『惚れた!』と叫んだ私に対する家族の視線は冷たかったが、そんなことはどうでもよかった。私は彼に一目惚れしたのだ。そのあとすぐさまアプリをダウンロードし、オタ友に布教してまわった。今の私の生活はリュウ中心に回っている。
「いや、知らねーよ。あ、そうだ。友達にアンタがこのゲーム好きだって言ったらなんか別のゲーム勧められたんだけどこれ知ってる?」
そう言って姉が見せて来たのは最近話題になっている乙女ゲームの画像だった。
「ううん、知らない」
「このゲーム結構面白いらしいよ。でもこのゲーム悪役がいるらしくてさ、友達が腹立つって言ってた。まぁ最終的に処刑されたらしいけど。アンタのゲームは悪役いないんでしょ?」
「うん。乙女ゲームの悪役ってどんなやつなの?」
「んーとね、これ!」
私がしているゲームには悪役やライバルといわれるキャラがいない。キャラの好感度を上げていくだけだ。それに乙女ゲームをするのはこれが初めて。私は乙女ゲームの悪役を見たことがないのだ。
「リリー、アルラリア?長い名前だね」
姉が差し出して来たスマホに映っていたのは綺麗で長い黒髪に青い瞳の美少女だった。横には短い説明文のようなものが書いてある。恐らく公式サイトの画像だろう。
「えっと『リリー・アルラリア。アルラリア公爵家の娘。プライドが高く、公爵家の娘であることを誇りに思っている。ワガママで欲しいものは必ず手に入れる。』……え、この子性格悪すぎじゃない?こんなもんなの?」
ゲームのキャラクターといえばどのキャラクターも魅力的に見えるようになっているはずだがこの子には一切魅力を感じない。むしろイラつくぐらいだ。
「そんなもんなんじゃない?だってライバルがいい人だったら主人公に勝機ないじゃん」
「あ、そっかぁー」
確かにライバルが可愛くてめちゃくちゃいい子だったら勝てる気しないわ。一人で頷いていると姉がニヤニヤしながら千円札を渡して来た。
「教えてあげたんだからコンビニでアイス買って来てー」
狙いはこれか。おかしいとは思ったんだ、いつもいつも私のことをこき使う姉が私に優しくゲームのことを教えてくれるなんて。
まさかっ……まさかこの寒いなか私にアイスを買いに行かせるためだとはっ……!
「…………まぁ一応教えてもらったし」
大人しくお金を受け取りコンビニに行こうとすると姉が驚いたような顔で私を見ていた。
べ、別に好みのキャラがいたとかじゃないんだからねっ!……ま、まぁあとで一応そのアプリ入れる予定だけど。
「行ってきまーす」
そう行って私は家を出た。
そして死んだ。
「…………思い出した」
鏡に映るのは背中までの艶やかな黒髪に青い瞳の美少女、リリー・アルラリア。そう、私が前世でお姉ちゃんに教えてもらった乙女ゲームの悪役だ。
遡ること数時間前。私、リリー・アルラリア4歳は散歩中に謎の頭痛に襲われた。そのまま庭で意識を失った私は自分の部屋に運ばれ、看病を受けていたらしい。意識を取り戻した私はついでに前世の記憶も取り戻していた。頭痛の原因は分からず精神的なものということになり、私は疲れたから1人になりたいと言って考える時間をgetしたのだ。
「……私は悪役令嬢ってわけか。なんか小説みたい」
前世で生粋のオタクだった私はこの手の小説も読んだことがある。ただ一つ問題があるとすれば
「知らないんだよなぁ」
そう、私はこのゲームを知らないのだ。知っていることといえばゲーム内でのリリー・アルラリアの性格と最終的には処刑されるということだけ。つまりよくある『悪役令嬢が破滅ルートを回避する』が出来ないのだ。なにせ破滅ルートを知らないのだから。
「いや、うん、…………取り敢えず頑張ろう」
何を頑張るのか自分でもよく分からないがとにかく疲れた。突然の頭痛に前世の記憶。4歳児の脳と体はもう限界だ。私はベットに倒れこむようにして眠りについた。
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