076
「ケン、魔界まで行ってきたぞ。俺もティミーも大活躍した冒険だったぞ」
俺とティミーは、ケンとタンクの墓までやって来ていた。
ティミーが元いたパーティのリーダー、ケン。
そして一時とはいえ、ティミーとパーティを組んだタンク。その墓へ墓参りに来たのだ。
ティミーはしばらくの間目を瞑り、祈りを捧げている。
おそらく、これまでの事をケンたちに報告しているのだろう。
あれから、クーも父親ゴディアスの墓参りをする事ができた。当然、隣には母親のクインがいた。
嬉しそうに泣くクーに、俺たちもまた、もらい泣きをしてしまったくらいだ。
「ディルアー! キャロが『まだー?』って!」
そんなクーは母親と一緒に暮らすのかと思いきや、俺たちに付いて回っている。俺たちとしては非常にありがたいのだが、本当にこれでいいのだろうか。しかし、クーの笑顔が大丈夫だと言っているような気もするし、それはクーにしかわからないのだろう。
ただ一つだけ言える。いつでも会えるのだ。それもいいのかもしれない。
「ちょっとー! 遅れちゃうわよ! パパはともかくママは怖いのよ! 早くしてよね、ディルア!」
ティミーがまだ祈ってるというのに何という傲慢さだ。いや、キャロは俺にしか言ってない。それがティミーに伝わらないとでも思ってるのかね、まったく。
だが、やはりキャロの性格は母親譲りらしいな。これから会いに行くのが非常に怖い。
そのキャロも、俺たちと行動を共にしている。これからストロボ国にはとある理由で行くのだが、国に戻る予定は、今のところないようだ。これもまた、いつでも戻れるからだろう。
当然、それはティミーにも言える事で、パーティの解散提案は受け入れられなかった。あの時程怖いティミーは見た事がないだろう。なんたって、俺にグーパンチをしてきたのは、後にも先にもあれきりだ。
リエル? リエルなら、今キャロの後ろにいるハーディンの背中で気持ちよさそうに寝ているだろう。
彼女もまた、俺たちとパーティを組んだままだ。どうやら、このパーティの居心地がいいようで、今では、魔王城で魔族たち相手に剣の指導をしている。
何故か? それはこれから行くストロボ国でわかる事だろう。
ティミーも祈りを終えたようだ。
「またな、ケン!」
俺は、ケンの墓に再訪を約束し、その場を離れた。
ハーディンの背に乗った俺たちは、西に向かった。目指すはストロボ国。
『おい』
どこぞの誰かが、マントを介して話し掛けてくる。
『何だよ?』
『時間がないのではないか?』
『そんな事ねぇよ。ギリギリ間に合うって』
『ギリギリでは困るのだ! これは重要な問題なのだ! 早めに着くのもお主の仕事だぞ、ディルア!』
『そんな仕事承ってはおりません。魔王様』
『おのれ……! ふざけた事をっ!』
まったく、ティミーのせいにはできないだろう。
せっかくのケンたちへの墓参りだ。できるだけ長居させてやりたいと思うのが普通だろうに。
サクセスは当然一緒にはいない。現在魔王城で俺が纏うマントに思念を送りつつ、執務をしているだろう。そんな離れ業ができるのも、さすが魔王といったところか。
――いや、元魔王か。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「世界に二人しかいないレジェンドランクの冒険者、ディルア殿。お久しぶりですな」
「大袈裟ですよジェイスンさん」
ストロボ城で最初に迎えてくれたのは、キャロの祖父であり、ジェイコブ王の父親であるジェイスン・ハミルトンだった。
「それに、今日俺は冒険者として来てませんからね?」
「ふふふふ、存じております」
世界で二人目。そう、俺はヴィクセンを倒した功績によりレジェンドランクとなった。
まぁ、すぐに追いついて、リエルも三人目のレジェンドランクになったんだけどな。
一人目? 勇者ラルスならこのストロボ国で騎士団長となっている。
あれからの世界の動きは目まぐるしかった。もうヴィクセンを倒してから三ヶ月が経っているのだ。
「久しぶりだね、ディルア」
「よっ! 騎士団長様っ。元気そうだな」
「ははは、よしてくれよ」
「慣れたか?」
「うん。それに、この国はこんな僕でも受け入れてくれる。本当にありがたい事さ」
「ふーん。それじゃあ今日の式典には賛成って事でいいのか?」
「正直、してやられたよ。まさかこんな手を打ってくるとは思わなかったからね」
「そりゃあサクセスも喜ぶよ。俺はアイツに付き合ってるだけだしな」
「それでも、これから君が残す功績は非常に大きいものになるよ。勇者として、冒険者として、一人の男として、君を、ディルアを尊敬するよ」
胸元に手を置き、ラルスが目を伏せる。
「勇者が今の俺にそんな事やっていいのか?」
「君ならね。きっと神様も許してくれるさ。あははははっ」
小気味よくラルスが笑う。ったく、でもまぁ、ラルスがいる限り、この国は安泰かもな。
寿命のない勇者が一国の騎士団長をしているのだ。アルム国もビックリな采配だろう。
正面に映る謁見の間。
「さぁ、皆が待っている。頑張ってね」
勇者ラルスが、
「しっかりやりなさいよね!」
キャロが、
「ディルアー! カッコイイ~っ!」
クーが、
「緊張しないでいいから! ディルアならできる! うん!」
ティミーが、
「坊や! 気張りなよ!」
リエルが、
『さぁ、お主の最初の仕事だ』
そしてサクセスが俺の背中を押す。
「魔王陛下!! 魔界よりご到ちゃ~~~~~~~くっ!!」
笑ってもいいぞ?
そう、俺はサクセスの提案により二代目魔王となった。
どうやらサクセスの中では、ヴィクセンを二代目魔王だと認めていないようだ。
人間界と魔界をどう繋ぐか。それが一番の問題だった。
ならばと、サクセスは考え、魔界の王に人間を据えてしまえば不都合はなくなる。そう考えたのだ。
当然、不都合だらけなのだが、まずは形からが大事だとサクセスに押し切られてしまった。
俺がやる事も多いが、大半の執務はサクセスがやってくれるから、今のところ上手くいっている。
魔族の方も、サクセスが裏で動く事を知り、俺の戴冠は簡単に許された。
ただでさえ、サクセスを支持していた者ばかりなのだ。上手くいって然るべきなのだが、どうもサクセスが更に魔王感溢れているように思う。サクセスは“フィクサー”がどうとか言っていたが、無知な俺には何の事かサッパリだった。
ただ、無知というだけでは、今後済まされない。だから、俺は今、サクセスとマンツーマンで毎日勉強ばかりだ。魔族とはいえ命を預かる仕事の重さ、そして難しさを教わっている。
正直、過労という意味では、冒険者時代以上かもしれない。息抜きに魔物討伐をしているくらいだ。
パーティの仲間たちはそれに付いてくる。そう、相変らず冒険もしているのだ。あれから、魔物は少なくなったとはいえ、やはりまだまだ冒険者という職業はなくなりそうにない。
そして今日はストロボ国との同盟調印式。
これにより、魔界にも冒険者ギルドができる手はずだ。骨を折ってくれたジェイコブ王やジェイスンには頭が下がる思いだ。かなり迂回するようになるが、ストロボ国からも船を使って魔界へ行けるようになった。
当然、猛反対したのはアルム国のギャレッド王。
それもそうだろう。目の前に魔界があり、大転移装置でストロボ国とも繋がっているのだ。言ってしまえば、前門の虎後門の狼だ。反対したといっても、そこまでの束縛をストロボ国にできるものでもないしな。勿論、俺たちはアルム国と争うつもりはないが、難癖つけてきたら、サクセスは対策を練るらしい。
できれば、そうならないように願いたい。
『そうだ、ディルア』
『何だよ、サクセス』
がけっぷちにいた俺をここまで導いた魔王サクセス。
そう、彼は魔王なのだ。いくら体裁を取り繕うとも、彼は魔王なのだ。
魔王を体験しているだけの俺とは違うのだ。
『天界に行ける方法がわかったぞ』
『マジかよっ?』
『ふふふふふ、もっと褒めるがよい』
『スゴイナー! いや、ホント凄いな、サクセスちゃんは!』
『何だそれは! もっと真面目に褒めろっ!』
『うるせぇな。それで天界行ってどうするんだよっ?』
『む? ふん、知れた事。滅ぼせぬまでも、神に我が拳の一つでも食らわしてやるのよっ!』
『行ってらっしゃい』
『なっ!? おいディルア! お主も行くのだ! ティミーもキャロもクーもリエルも行くと! 行きたいと言ってたぞ! これはまたとないチャンスなのだ! おいディルア! 聞いているのかっ!?』
そう、サクセスの野望も俺たちの冒険も――まだまだこれからなんだ。




