表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
70/76

070

「見えた!」

 キャロはハーディンの頭の上で前方を指差す。視界には魔界の海岸線が映った。

「これが魔界……?」

 ティミーの困惑に近い声をリエルが拾う。

「まっ、海が繋がってれば空も繋がってる。だったら、海と繋ぐ大地に変わりはないって事さね」

 確かに、魔界への印象はサクセスのおかげであまり悪いものではないが、いざこの目にすると、大きなギャップを感じてしまう。

「ここに……父のお墓が……っ」

 クーの表情が明るくなる。そう、クーにとっても、勿論俺たちにとっても、ここはこれまで目指して来た場所。気持ちが高ぶらない方がおかしいってものだ。

 だが、そんな中でも不安は残る。アイツ(、、、)、無事だろうか。

「ねぇねぇ、アレじゃない!?」

 キャロは俺の胸倉をグイと掴み、俺の視線を指先へ誘導する。

「……普通の城だな」

「よ、夜だったら魔王城っぽい雰囲気が出たのかなっ? あはははは」

 ティミーも真昼間(まっぴるま)に見えてしまった魔王城に、おかしさを感じたのだろう。

「でも、俺たちはずっとこんな感じだしな。昼間の魔王城だろうが今更だ!」

「そういう事。ほら、敵さんも気付いたようだよ、坊や!」

「やっぱり数がだいぶ少ない。ティミー! 強敵から順に狙え!」

「前方百! ランクAのファントムワイバーン! 右からガルーダモック!」

「いけ!」

「はい! ふっ!」

「キャロ、さっきの戦闘で大分魔力使っただろうが、ここが正念場だ! ハーディンに近付く奴から順に頼む! リエルとクーは魔法でキャロとハーディンの援護だ! ハーディン! 俺たちを信じて真っ直ぐ魔王城を目指せ!」

「もっと頼りなさいよね! 馬鹿ディルア!」

「魔法はあんまり得意じゃないけど、この状況じゃしょうがないねぇ。ウォーターフォール!」

「うん! ストーンストーム!」

「オ任セヲ! グルァアアアアアアアアアアッ!」

 皆はそれぞれ自分の役目を理解していた。俺の指示より早く動いていたからだ。

 真っ直ぐ進むハーディンの障害となる魔物は、俺とティミーが優先的に排除した。ハーディンのランクはA。魔物の中では高い部類には入るが、同ランク以上の魔物が現れれば、どうしてもそこで躓いてしまう。俺たちはヴィクセンが次の行動に出る前に、あの魔王城に着きたいのだ。ならば多少の無理も必要だろう。

「ディルア!」

「あぁわかってる!」

 前方に見える黒き巨大な身体。エンシェントドラゴンであるハーディンより一回り大きな身体。これを前に、一瞬ハーディンは身体を硬直させる。

「ランクSの魔物ブラックキャッスル!」

 超巨大な、正に城のような黒き化物。竜種らしく翼はあるのだが、四方に広がる翼以上に胴体がでかい。……という事は、それだけ翼にかかる負担が大きいのかっ!

「翼だ! 翼を狙え!」

「おっけー! はぁああああああっ!」

 ティミーが気合いを込めて魔弾を放つ。

「おりゃっ!」

 俺もその方向に合わせ、ブラックキャッスルの翼を狙う。

「着弾!」

「両翼狙え! もう一度だ!」

 再び俺とティミーは息を合わせる。

損傷した翼により、ブラックキャッスルの動きが鈍くなる。と、同時にハーディンが大口を開けた。

「邪魔ダッ。ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 ハーディンの特大ブレスはブラックキャッスルを正面から捉え、そして黒煙を上げさせた。

「グルァアアアアアアアッ!?」

 ついに風をとらえ切れなくなったブラックキャッスルは、俺たちに攻撃を仕掛ける前に墜落していった。

「よし! ナイスだハーディン!」

「光栄デス」

 それから俺たちは幾多の魔物を必死でしのぎ、魔王城の正面まで辿り着いた。そこには飛行系以外の魔物が無数にいた。上手く正面口に降りた俺たちだったが、その着地を待つかのように魔物たちは一斉に俺たちに襲い掛かってきた。

「ココハオ任セヲ、ディルア様」

「そうだね。城内に入られたらまずいだろうしねぇ」

「行って、ディルア!」

「勇者を倒したんでしょ! だったらヴィクセンなんて一瞬よ!」

「クー、ここまもる!」

「お、お前ら……」

「「行けっ!!」」

 普段は聞かない皆の強い声。俺はその声に押されるように、その場に留まろうとする足を動かした。

「っ! 死ぬなよ!」

 返事は返ってこなかった。皆それだけ無理をしている事がわかった。だから、返事がなくとも、俺の声が届いていればよかった。大丈夫、彼女たちは勇者ラルス戦を生き残った強いパーティメンバーだ。仲間だ。

 俺がすべき事。それはサクセスの封印を解き、この無益な戦闘――いや、戦争を終わらせる事!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2018年5月25日にMFブックスより書籍化されました。
Amazonでも好評発売中!
※このリンクは『小説家になろう』運営会社の許諾を得て掲載しています。
壱弐参先生の他の作品はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ