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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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068

 ファンダムたちが帰った後、俺は窓から顔を出したリエルに呼ばれ、部屋に戻った。

 すると、リエルは部屋を出て、俺と勇者ラルスだけをそこに残した。

「落ち着いたのか?」

 その意図はわからなかったが、俺はとりあえずラルスの体調を聞いた。

「それなりに。いや、まだまだ頭がこんがらがってるのは事実だよ。ここが僕の生きていた時代から数百年経っているとはさすがに受け入れがたいよ」

 窓に少年のような瞳を映したラルス。生きた記憶がないのだ。それも仕方ないだろう。

「それにしても凄いな、勇者の身体ってのは。寿命がないのか?」

「それは僕自身が一番驚いてるよ。本来であれば朽ちていて当然の身体だ。これはきっとヴィクセンじゃなくて神様のおかげだろうね」

 神が与えし強靭な肉体……か。見た目は完全に十代半ばの少年のように。

「魔王を助けるそうだね」

「あぁ、ヴィクセンに捕まってるからな」

「どうして? これまでの話の大抵は理解できるものだった。けど、僕には、それだけは理解できなかった。一体何故魔王を助ける?」

「簡単だよ。その魔王って称号の部分、人間に替えてみろよ」

「全然簡単じゃないよ。魔王が人間と同じな訳ないじゃないか」

「じゃあ何故お前は、ラルスは魔王を倒そうとしていた」

「決まってるじゃないか。使命さ」

「それ、答えになってないからな」

 いや、そんな顔で見られても困るんだよ。まるで「これが答えになってないだって!?」という顔だ。

「はぁ……徐々に崩していくか。まずな、初代魔王のサクセスは人間に何かしたのか?」

「凶暴な魔物を野に放ち、人間たちを苦しめているじゃないか!」

「あのな、言っておくが、魔王に魔物は操れないからな」

 勇者が決めつけという意見でくるなら、俺も決めつけで返す。魔王が魔物を操っていない事実もないし、操れないという事実も本当かどうかわからない。だから勇者のおかしいところを少しずつ叩いていく。

「馬鹿な」

「馬鹿なのはヴィクセンに操られたお前だろ」

「~~~っ!」

 そんな泣きそうな目で見るなよ。ちょっと言い過ぎたと思ってるよ。ちょっとだけな。

「サクセスは有無を言わさず命を狙ってくるお前に備えていた。それだけだよ」

「そんな事――――」

「――――じゃあお前は何もしてない魔王でも殺すって言うんだな? 魔王が生まれた瞬間、魔王となった時点で殺すってんだな? 人間の赤ん坊と何が違う? 言っておくが、種族が違うとか言ったらぶん殴るぞ」

「何故わかった!?」という顔をしてらっしゃる。本当に殴ってやろうかな?

 だが、大体わかってきた。勇者の凝り固まった考え方は、生まれもってのモノに近いだろう。

 どれだけ言っても主張を変えようとしない。だから俺はやり方を変えた。

「そういえばラルス君」

「な、何だよ気持ち悪い……」

「君、記憶はないにしても魔王軍に加担してたって本当?」

「ぐぅっ!?」

 やっぱりこっちか。

「知ってる? 君、俺を斬り付けたんだよ? 神の加護を受けてる冒険者を。いや、俺も斬り付けたり殴りつけた事は謝る。でも君、冒険者を何人も殺してるって知ってた?」

「ぐぅううううっ!?」

 やばい、泣いてきた。なんてちょろいんだ、勇者ラルス。

「別にお前が悪いって言ってる訳じゃないよ。操られてたんだ。それは仕方ないというしかない。当事者ももういないんだからな。だが、これだけは言わせてもらうぞ」

「な、何だよぅ……」

 泣いちゃったぞ。まぁ、いい。話の途中だ。

「今現在のお前は、明らかに魔王以下だ。だからお前にとやかく言われる筋合いはない」

 ついに顔を両手で覆って号泣し始めた勇者ラルス。勇者ってのは本当に大変なもんだ。神に拭えないような使命を押し付けられて、無自覚のまま戦いに身を投じるんだからな。

 俺は「ぼ、僕は……なんて事をっ!」とか言いながら泣いてたラルスのすすり泣く声を聞きながら、窓の外を眺めた。すると、遠目に信じられないモノが映った。

「あ、あれは……魔物っ!?」

 俺はすぐに窓を開け目を細めた。

「な、何をっ!?」

 困惑する勇者も俺の行動とその視線で何か気付いたようだ。

「リエル!」

 廊下にいるであろうリエルを呼ぶと、その声の圧を聞いてか、リエルはすぐに部屋に入ってきた。

「どうしたんだい、坊や!」

「至急冒険者ギルドへ走れ! 魔物が来る!」

 それを聞いたリエルは、俺の背後に映っているであろう無数の飛行物体を捉えるや否や、その窓から跳び下りた。サクセスを着ていても躊躇うレベルの高さだが、リエルは助走を付けていたため、近くの建物の宿に着地し、屋根伝いに走って行った。

「ディルア、行こう!」

 そう言ったのは布団から出ていたラルスだった。

「……くそ、そういう所は本当に勇者だな、お前!」

 俺はラルスと共に一階まで降りた。すると、買い出しを終えたティミーたちに出会った。

「ナイスタイミングだ! 魔物が来る! 各自武器を持って東門へ集合!」

 すると、皆は目の色を変え、買い物袋をその場に置いた。

「これ、宜しく!」

 いや、間に合うとは思うけど、地面に置くなよ。

 俺はボックスの魔法を使い買い出しした物を詰め込み、先に向かったラルスの後を追い東門へ走った。

 走っている途中、町中から警鐘(けいしょう)が鳴り響いた。どうやらリエルが冒険者ギルドに着いたようだ。これで冒険者は町の東門へ集まるだろう。

 いち早く東門に着いていたラルスは、東の空を見上げていた。

「ほれ、これ使うだろ」

「これは聖剣っ! ディルアが持っていたのか!」

「それ使うとサクセスがスパスパ斬れちまうからな。預かっておかなきゃ危ないだろ」

「……はぁ、つくづくディルアは魔王派なんだね」

「勇者に殺されかけちゃそうもなるだろ」

 ここでやはり苦い顔をしたラルスだったが、何とか呑み込んだ様子で「言葉もないよ」と明るく言った。

「けど、何で魔物がアルムの都に?」

 ラルスの疑問は(もっと)もだった。

「おそらくアルムの都から戦線を下げさせる気だ。ここには大転移装置もある。ここさえ滅ぼしてしまえば、人間は後退せざるを得ない。この数百年、国は栄えたが、軍事力という面では非常に弱い――って、どうしたんだ、ラルス? そんな顔して?」

「い、いや驚いてるんだよ。その分析能力に」

 そんなに高いだろうか。これまでサクセスと色んな討論を繰り返したおかげ?

「まぁ何にせよ、ここが潰れれば、最終的にこの国の民は行き場を失う。何とか死守だ!」

「こっちは病み上がりなのにね」

 ラルスは肩を竦めて言った。何だ、こんな剽軽な顔もできるのか。

「ディルアーッ!」

 遅れてティミーとクーが追いついて来た。

「あれ、キャロは?」

「何か用事があるとか言って反対方向に走って行っちゃった」

「どういうこった……?」

「ディルア、リエルたちきた!」

 クーの声で振り返ると、冒険者たちの集団が駆けながら東門に向かってる姿が見えた。

「……凄い数」

 ティミーが肩を震わせながら言った。それも仕方ないだろう。眼前に広がるのは無数の飛行系の魔物。

 その数はこの前のゴブリンの群れの比ではない。見える範囲だけでも二千から三千の魔物はいるだろう。

 町の中からは住民の悲鳴が聞こえ始める。これが、仮初の平和を続けた対価……とは言いたくないが、魔王軍の脅威をもっと認識していれば、対策ができたのだけど、それはやはり無理な話なのだ。

「お待たせ、坊や!」

「ありがとう、リエル!」

「ギルドから騎士団へは連絡がいくけど、こりゃやばいかもねぇ……」

 それもそのはず。アルム国の騎士団を加えれば、単純な数だけならそりゃ互角だろうが、相手は飛行系の魔物。戦いにくく、そして強力な個体も多い。ほとんどがブロンズランクで構成される騎士団には、格上過ぎる相手だろう。

「とりあえず、奴らをここに下ろさなくちゃな」

「まだあんなに遠いのにできるの?」

 ラルスの言葉に返答している暇はない。奴らの意識を町ではなく東門に向けなくてはいけないからな。

中有(ちゅうう)蔓延(はびこ)る死者の慟哭(どうこく)! その恐怖、その後悔、その怒り、我が前に顕現(けんげん)せよ! ()の力と魔が合わさりし時、解き放たれるは地獄の嘆き! 負魔(ふま)鉄槌(てっつい)っ!!」

 瞬間、先頭を飛ぶワイバーンが真っ直ぐ大地に落ちる。

「はは、やるね!」

 さて、こちらに意識が向いたのはいいが……ここからは――、

「乱戦だな」

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