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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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066

「まだまだ続くぞ……! 自分の腕を信じろ!」

「くっ!」

「集中を途切らさず、研ぎ澄ます!」

「お、お前、何者だっ!?」

 自分でも何者かわからない。けど、俺がここまで動けるのは、全てサクセスと、皆のおかげ。

「剣だけに頼らない。四肢の数だけ殺しがある! 喉元を噛み切る勢いが生への活路! 宙だけが支点ではない。大地は勿論、敵の身体さえも俺の踏み台! っしゃあああっ!」

 俺は剣先をフェイントに使い、受けに回ろうとした勇者の低い重心を利用して、勇者の膝に乗って膝蹴りを食らわせる。なるほどね、正に喉元……!

「ぐぉっ!? ガハッ! くそっ!」

 勇者の剣が最後のあがきかのように俺を襲う。無数に傷を負わされる。

「くっ! (いて)ぇぞ勇者……!」

「「ディルアッ!」」

「坊やっ!」

 脇腹に深手を受けた俺は、痛みに意識を失いそうになる。

 しかし、皆の声がその気付けとなり、更なる言葉を思い出させる。そう、今すべきは回復ではなく攻撃。

「過信せず常に気を張る。そして俺の背には――皆がいる!」

「ジャミングビート!」

「エレキレイン!」

「アースクラック!」

「ヘルファイア!」

「ウィンドファイバーラッシュ!」

 勇者から跳び退いた俺は、全員で五色(ごしき)の魔法を放った。勇者を包み込む魔法は幾度も色を変え、その体力を奪った。魔力の少なかったキャロは、相当無理をしたと思う。相変わらず、省みずな性格だな。だが、そのおかげで助かった。

「ぐぁああああああっ!?」

「ディルア! (なら)え!」

 ――きた。久しぶりの極意の時間!

「冥府の(ごく)に囚われし焦熱、我が手に宿りて神をも(ほふ)れ」

「冥府の(ごく)に囚われし焦熱、我が手に宿りて神をも(ほふ)れ」

「天砕く拳は我が忿怒(ふんぬ)の炎!」

「天砕く拳は我が忿怒(ふんぬ)の炎!」

「「天翔る獄炎(メギドリパルサー)!!」」

 瞬間、俺の拳は、赤黒いオーラのような闇の炎が纏った。

「お、おい!? いつもみたいに遠距離じゃないのかっ!?」

「いいから、ぶん殴れ」

 遂に魔王としての威厳を無くしたのか、サクセスは物凄い口調で俺に言った。

 だが、確かにぶん殴るという表現は正しいかもしれない。何故なら、今回は勇者を生け捕りにしなければいけないからだ。

 五色の魔法の渦からフラフラになって姿を見せた勇者は、俺の拳を見て驚愕する。

「や、やめろ……!」

「いい加減、目ぇ覚ませ! この馬鹿勇者っ!! ぉぉぉおおおおおおおおおおらぁああっっ!!」

 腹部に決まった天翔る獄炎(メギドリパルサー)によって、勇者は聖剣を落としリミットポータルの内壁を貫き、外まで吹き飛ばされた。

「……な、何て威力だよ」

 壁の先が海だったらと思うとゾッとするが、サクセスの事だ、それくらいは考えていたのかもしれない。

「か、勝った……」

 キャロの確信のない言葉。しかし、俺は確かな手ごたえを感じていた。

「わぁああああああああ! ディルアがかったー!」

 両手を高らかにあげ、クーが絶叫した。

「やった! やったね、ディルア!」

「大したもんだ、坊や!」

 ティミーもリエルも嬉しそうに俺を称賛してくれた。俺はホッと息を吐き、聖剣を回収した。重い……とても振り回せそうにない。幾度か打ち合ったが、勇者の膂力はわかっているつもりだ。おそらくこれを軽々持てる事が、勇者の特性。仕方ない。聖剣を《ボックス》の中にしまった俺は、壁の穴から外に出て、吹き飛んだ勇者の身体を見つけた。武器(聖剣)さえなければ、サクセスのマントで攻撃は防げる。今後はもしかしたら順調にいくかもしれない

 ――そう思っていた。

 勇者の身体を担ぎ、リミットポータル内に戻ると、俺の眼前には異変が広がっていた。

「グァアアアアアアアッ!?」

 苦痛そのものという悲鳴をあげていたのは、この中で唯一そんなものとは縁遠いヤツだった。

 宙に浮かび、雷光のような光がバチバチとサクセス(マント)を包みこんでいる。

「ちょ、ちょっと! どうしたのよっ!?」

「サクセス!? ねぇ、大丈夫なのっ!?」

 ティミーの言葉を聞くも、大丈夫じゃない事は一目瞭然だった。明らかな苦痛。明らかな異常。サクセスはそれを体現するかのように苦しんでいた。

「おい! サクセス!」

「ディ、ディルア……! リ、リミット……ポータルを――っ!」

 その声を聞き、俺は先程まで勇者が座り込んでいたその奥を見た。すると、そこには素人目に見ても複雑な魔法陣が設置されていた。これがおそらくリミットポータルを稼働せしめる魔法陣! そう思い、俺は咄嗟にスリングショットの魔弾を撃った。

 瞬間、魔法陣は甲高い音を発して砕けるように消えた。よし、これで魔物が転移してくる事はないだろう! しかし、あのサクセスの状態はっ!?

「ぁ……あ、あ、ぁ……奴だ……!」

 苦しそうな声を発しながら、サクセスは俺に何かを伝えようとしていた。普段は俺の魔力を使っていないと発する事のできない肉声。自分だけで使うのは、相当無理しているはずだ。サクセスが言った『奴』、当然それは誰か理解できた。俺たちは、『奴』を倒すために頑張ってきたのだから。

「ヴィクセンだな! おい、何とか言え!」

「……くっ! ディル……ア、お主は……もう、我などいなくとも…………グァアアアアアッ!?」

「何馬鹿な事言ってやがる馬鹿魔王! 奴に見つかったんだな!? 待ってろ! 必ず助けてやる! 絶対だ! おい、聞いてんのか馬鹿野郎っ!」

「……こ、此度の戦い……――見事、だった……」

 サクセスは俺の質問に答えず、応えず……姿を消していった。

「き、消えちゃった……」

 愕然とするキャロはそのまま膝を落とす。

「……確かサクセスはダミーを宝物庫に残して脱出して、マントに思念を送ってたって話だったよねぇ?」

「うん、そうだね。マントが本体じゃないって言ってたよ」

「アタシは疑問に思ってたんだ。脱出したのに、魔王ともあろう存在が逃げなかった理由はなんだい?」

「逃げなかったんじゃなく……逃げられなかった?」

 リエルの疑問に、ティミーが冷静な答えを出す。脱出とはつまり、封印から思念のみを脱出させていたのか。ダミーにはサクセスが意識があるように見せた魔力のカモフラージュ。

「確かに、サクセスはいつヴィクセンに見つかってもおかしくなかった。それが今回見つかった。それは何故か……――」

「アタシたちが勇者を倒しちゃったからだねぇ」

「もしかして今回倒された事で勇者を操っていた魔法が解けたんじゃないか? だからバレた」

「勇者を倒す程の存在を目の当たりにしたら、そりゃ魔王を疑うわよね」

 キャロの指摘は正にその通りで、魔王を疑う以外にはない。宝物庫に封印していた魔王を確認したらそれがダミーだとわかり、近くにいたであろうサクセスの思念(本体)を見つけ、再び封じた。

「なるほどな……」

「魔王様……だいじょうぶかな?」

 クーの心配そうな顔。そうなってしまうのも仕方がない。俺がそんな顔をしているのだから。だから俺は(かぶり)を振った後、クーの肩に手を載せた。

「何言ってるんだクー。アイツは魔王だぜ? そう簡単にやられる訳ないだろうっ!」

 そう言い飛ばしてやった。そもそも、ヴィクセンはサクセスを殺せない理由がある。勇者の洗脳が解けたとはいえ、まだ魔王軍はヴィクセンの手にあるのだから。

「とりあえず一旦ここを離れよう。コイツもどうにかしないといけないし」

「うん、そうだね。早くしないと騎士団の人たち来ちゃうだろうし」

 ティミーが言った事で思い出した。

そうだった、アルム国の騎士団とファンダムたち冒険者が数名こちらに向かっているんだった。

「なら、こっちの穴から出た方がいいだろうね」

 リエルは俺が壊した壁を指差して言った。確かに、正面口から出るより都合がいいだろう。

「よし、それじゃあ一旦アルムの都に!」

 俺の号令に皆頷き、俺たちは一路アルムの都に向かった。

 リミットポータルの壁穴から出た時、遠目に騎士団の先頭集団が見えた。リエルの言う通りにしておいて間違いじゃなかったな。しかし、いざ着いて何もなかったら、きっと報告の時ギャレッド王は怒るんだろうな。勿論、俺たちが犯人だとは思わないだろうけど。


 騎士団に見つからないように、海岸線から大回りし、アルムの都に戻った俺たち。宿で更に一名分の料金を払い、部屋で意識のない勇者ラルスに回復魔法を掛けた俺は、どっと疲れが襲ってきたのか、気を失うように倒れてしまった。

 最後に耳にしたのは、ごつんという身体と床の衝突音と、皆が心配する声だった。

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