064
勇者ラルスは俺たちの掛け声を聞いても、何の反応を示さなかった。
ただ無表情のまま、立ち上がり、剣に手を置いた。
それに合わせて、俺たちは各自能力向上スキルを発動する。
「ティミー! 動いたらいつでも撃て!」
「うんっ!」
「キャロ! 接近よりも牽制だ! 使えるものは何でも使え!」
「まっかせなさーいっ! 死角から狙いまくってやるわよ!」
「クー! 攻撃はリエルに任せて防ぐ事だけ考えろ!」
「はい!」
「リエル! 援護する! 俺を信じろ!」
「あははは、良い男に背中を守られるのも、悪くないじゃないっ!」
「戦闘開始っ!!」
直後、俺の声を拾ったのか、勇者が最初に動いた。無言のまま、最初に狙ったのはクーだった。
「クー!」
俺のその一言でクーは身を小さく、しかし大剣を寝かせて構えた。
「ふっ!」
これまで以上に集中していたティミーが、勇者の初動に合わせて魔弾を射る。それは、クーの頭部を横切り、勇者に向かった。勇者は魔弾を叩き落とし、更に加速する。
「こいつももらっとけ!」
俺もスリングショットで勇者を狙う。これをさらりとかわす勇者。しかし、これでクーへの攻撃角度が絞られる。クーは本能と、これまでの経験を活かし、勇者ラルスの剣撃を魔王の大剣で受け止める。
「っ!! んぁっ!?」
瞬間、クーの身体は吹き飛び、数メートル程の場所に着地する。
「大丈夫かっ!」
「う、うん! びっくりしただけ!」
ティミーと俺の援護、そしてクーの膂力で受けてもこの衝撃。やっぱり化物だな、勇者ってのは!
「はぁああああああっ!!」
豪快な掛け声と共にリエルが勇者に剣を振り下ろす。これを難なく受けた勇者は小枝でも振り払うかのようにリエルの身体を流した。
「なぁっとととと……や、やるじゃない、かっ!」
「おらぁっ!」
「ふっ!」
「エレキスポットッ!」
リエルの追撃、そして俺とティミーの援護。更に天井に張り付いたキャロが妨害の雷魔法を放つ。
すると勇者は身を屈め、まずティミーの攻撃をかわした。そしてリエルの剣の面に手の甲を当てて弾き、その弾いたリエルの剣に、俺の魔弾が当たる。
「嘘ぉっ!?」
そう叫んだキャロの雷魔法に、勇者は剣を当てた。直撃の一瞬だけ手を離し、その後、魔力を込めた手で握り直している。なるほど、これなら直撃よりマシって事か!
「つ、強すぎない……?」
「そんなのは最初からわかってるんだよ! 休むな! 体力を奪うんだ!」
「わかったわよ!」
その後も、戦線に復帰したクーと共に、全員一丸となって攻撃し続けた。勇者の攻撃は非常に重く、一撃毎にクーが吹き飛ばされていた。気丈に振る舞っていたが、クーの体力も長く持ちそうにない。
だが、やはり可能性はある。何度か攻撃していると、リエルと俺の攻撃を嫌っているように感じた。
攻め方を変えティミーが火魔法を使ったり、俺が風魔法や闇魔法を使ったりもしたが、やはり、勇者の柔軟な動きと強固な守りは崩せなかった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
「つ、つかれた……!」
キャロは肩で息をし、クーは震える腕で大剣を持っている。
キャロは魔王の靴で何度も宙を舞い、魔力を使っている。それでいて、この緊張状態。その疲労度は計り知れない。そしてクーもまた、強力な攻撃を何度も正面から受けている。正面から受けるしかないからだ。魔王の大剣がいくら丈夫だと言っても、それを支えるクーの身体は最早限界を迎えていた。
「そこっ!」
それがわかったからだろう。ティミーは、射出速度を上げ、二人の回復に当てようとしたのだ。
「くぉのっ!」
俺もそれに続き、遠隔からの攻撃を増やした。何度もかわされ、弾かれる魔弾。
「ふぅふぅふぅ……はぁあっ!」
リエルも息切れが目立つようになってきた。俺たちの攻撃の切れ間に攻めるも、やはりいなされる。
マスターランクの攻撃はやはり怖いようだ。が、しかし、攻撃が当たらなくちゃ意味がない。
その時、勇者の動きが変わった。真っ黒な瞳は、俺とティミーに向き、これまでとは違った意図を予感させた。
「邪魔だな」
初めて聞いた勇者ラルスの声。やはり少年のようだ。ボーイアルトな声。それに少し細い感じもする。
しかし、それ以上に勇者の次の行動が読めなかった。
「やぁっ!」
それは、ティミーが強い魔力を込めた魔弾を放った時に起こった。だから俺もそれに続くように魔力を込めた魔弾を放った。だが、それがいけなかった。
『ぬっ! いかん!』
勇者ラルスは、魔弾を避けなかった。確かに、これまで避けずに弾いた事はある。しかし、それはただ弾くだけ。今回勇者は、その魔弾をティミーとクーに向かって弾き返したのだ。
「「っ!?」」
「きゃっ!?」
「うわぁあああっ! っ!?」
身体を捻ってかわそうとしたティミーだったが、やはり間に合わず、魔弾は肩をかすめる。そして、クーも防御が間に合わなかった。受けた剣に力が入り切らず、剣ごと吹き飛ばされ、壁に身体を打ち付ける。
「二人」
呟いた勇者ラルスの目は、明らかに異常だった。戦闘で出した戦果を喜びもせず、淡々と言ったのだ。
「くそ! キャロ、ティミーとクーを頼む! リエル、前に出るぞ!」
「ティミー! クー!」
「あいよぉ!」
俺はミスリルの剣を引き抜きながら、勇者ラルスとの距離を詰めた。リエルも俺の接近に合わせるように斬り込む。勇者に流されるリエルの攻撃が俺に向けられる。
「かわしな坊や!」
「わかってるよ! おりゃぁああっ!」
リエルは強引に半身になり、俺がかわすスペースを作った。俺はそこを横切りながら身体を伸ばしたま前方に宙返りをし、そのまま勇者に斬りかかる。
勇者は俺の腕を受け止め、硬直した俺の身体に蹴りを放った。
『ふん! このような蹴りが我がマントに通じるか!』
そう、俺の頼もしい相棒、サクセスのマントは無敵だ。これさえあれば、俺の体力が続く限り――、
『っ!? こ、これは……! よ、避けるのだディルア!』
異変を最初に感じたのはサクセスだった。避けなければならない理由、それはただ一つだった。これまであり得なかった……サクセスへのダメージ。
蹴りの後放たれた勇者の剣撃をかわすも……サクセスが、斬られた。
『くっ!』
『おい、大丈夫か!?』
『ふん、も、問題ないわ!』
『で、でも何でサクセスに攻撃が……?』
『……おそらく、あの剣よ』
当然、それは勇者が持った剣の事だった。刀身が銀に輝くまるで鏡面の直剣。装飾こそ平凡だが、どこか神々しい光を放っているようにも見える。っ! ま、まさかあれは……!
『聖剣か!』
『左様。くっ! 忌々しい神の小道具よ!』
サクセスは、ただのレジェンドランクであれば、俺とリエルがマスターランクになれば、このパーティでも勝てると言っていた。しかし、勇者ラルスはやはりただのレジェンドランクではない。いや、あのサクセスが魔王だった時代ではただのレジェンドランクだったのかもしれない。
しかし、勇者ラルスはその後、魔王となったヴィクセンに操られ、その戦力として、魔界で旧魔王軍と戦い続けたのだ。まず、根本的な戦闘技術に大きな差があった。そして、あの聖剣。魔王を滅するためだけに作られたかのような伝説の武器。だからこそ、魔王サクセスのマントを斬る事ができる。
「……ちっ、しょうがねぇな!」
「な、何をする!? ディ、ディルアッ!」
俺はマントを脱ぎ、丸めてキャロの方へ投げたのだ。キャロはそれを受け取り、抱えた。
勇者はマントから発する声に真顔で首を傾げていた。
「ちょ、ちょっと! 何か言ってるわよ、コイツ!」
「魔力が少ないヤツの魔力を使って喋ろうとはしないだけ、冷静じゃないか」
俺はサクセスにとびきりの皮肉を言う。
すると、後方からティミーの声が聞こえた。
「いいよ、私の魔力を使って。ディルアには、今は私たちの戦力よりアドバイスのが必要だと思うから」
「おい貴様! 我を放るなど生意気にも程があるであろう!」
おかしい。アドバイスが全然こないぞ。
「しょうがねぇだろ。今のお前、オンボロなんだから」
「オンボ――くっ! 業腹だぞ!」
「ずっと喋ってたいところだが、ちょっと時間切れみたいだな」
「坊や、いけるかい?」
「あぁ、楽しんでるぞ! 死ぬかもしれないってのにな!」
「あっはっはっは! それでこそ冒険者さね! 冒険できない者に冒険者の資格無し! 行くよっ!」
「おうよっ!」
「「はぁああああああああっ!!」」




