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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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062

「くそ、考え込んでる間に寝ちまった……」

「それだけ疲れていたのだ。さぁ、今日から忙しくなるぞ」

「てめぇ、あれだけ含みのある逃げ方して朝になったら何事もなかったように話しやがって……!」

「むっ、誰かが迎えに来たようだぞ? この魔力はリエルとキャロか。ふふふふ、魔力が充実している。やる気に満ち溢れているようだなっ!」

 おのれ、あの話はコイツの中でなかった事になってるな。

 俺は迎えに来たリエルとキャロの応対をしながら、昨晩考えていた事を頭で整理していた。

 まず、魔王と魔族の違い。あの夜、サクセスはこうも言った。「勇者が人から生まれるように、魔王もまた魔族から生まれる」と。そしてこうも言った。「魔物は魔族の手下のようなものだ」と。しかし、魔王には魔族を統率する事はできても、魔物は無理だとも言った。あの時は聞き流してしまったようだが、これは大きな矛盾ではないのか? いや、魔王が魔族から生まれたとしても、その赤子が魔族とは限らない。そう、生まれた時に魔王という称号を得ると共に、元勇者という称号も得るならば、この限りではない。

 魔王は元勇者。その魔王は新たに現れた勇者に命を狙われる。だから己を守るために魔王軍を強くする。そもそも、ヴィクセンは何故勇者と魔王を封じた? 世界征服……という答えは安直過ぎる。問題は、何故ヴィクセンがその情報を知っていたかだ。答えは簡単。当時ヴィクセンは魔王の左腕。魔王サクセスは、その事を腹心であるヴィクセンに話した。何故か? それも簡単だ。腹心にすら話せないなら、自衛なんてできないからだ。いくら魔王でも手に余る事だ。そして元勇者である魔王に魔物は操れない。魔物を操れる魔族の味方が必要だった。人狼(ウェアウルフ)の魔王の右腕勇将ゴディアス。クーの父親はそれに乗った。しかし、ヴィクセンの裏切りによって殺されてしまった。結果、力で支配する事はできても、魔族への説得は失敗。魔物を操れなかった事で、今も尚、世界には魔物がはびこっている。俺たちが使っている魔物の素材で作ったサクセスのおもちゃ(、、、、)。魔物の素材で作ったのは、もしかして魔王に反抗した魔物なのではないか? そう考えると、こうも考えられる。魔族でさえも操れない魔物もいるんじゃないのか?

 これらの考えた事は全て俺の推測に過ぎない。あくまで可能性の一つ。しかし、サクセスが元勇者だとしたら説明がつくんだ。一つだけ疑問は残るけどな。そう、サクセスは初代(、、)魔王なのだ。元勇者だとしたら、サクセスが勇者だった時、魔王はいなかったはず。一体何をしたんだ? 初代というのが嘘なのか。いや、サクセスは言った。「()は、人間に期待しているのだ」と。という事は、神の期待を裏切るような真似を……してしまったのではないか?

 ……ここで、俺の結論は出なくなる。

 サクセスの事をどれだけ知っても、やはりわからない事が多い。嘘や隠し事が多いのは、もしかして神が関与しているのかもしれない。

「よし、準備完了っ」

「さぁ、今日も暴れるぞ……ディルアッ!」

 今はまだ、この何とも言えない魔王を、見守っていようと思う。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後、俺たちは十日間を掛けて東南の魔物を狩った。当然、掃除(スイープ)依頼を受けつつ。そして何より、リミットポータルに近付き過ぎないように。

 あれ以来、あの周辺に近付いている者はいないようだ。ギルドが正式に接近禁止令を出したからだ。

 当然、アルム国もそれを発表し、アルム国民も近付けない場所となった。

『粗方片付いたと思うけどな。あそこら辺。しばらく魔物が寄り付かないんじゃないかってレベルだぞ?』

『では水晶宮に籠るしかあるまい』

『さらっと恐ろしい事言うな?』

『水晶宮の掃除(スイープ)依頼を受け、報告せずにいれば籠る事ができよう』

 冒険者ギルドのルールの隙間を突いた裏技。確かに俺も知っているが、本来は安全のために避けるべき事。まぁ、これまでがこれまでだったから別に無茶に感じるものでもない。

 ミスリル鉱山からまたミスリル鉱石が届くようになり、武具店の店主ダインが確保していてくれた事もあって、クーの全身甲冑(フルアーマー)もミスリル製のものになった。

 慌ただしくはなくなったが、依頼の消化という点では毎日が大変だ。パーティの皆は本当に頑張っている。何故なら、結果的にそれが生きる事に繋がるのだから。これだけの頑張りを評価してくれる人間が少ないのはモチベーションの維持としては中々難しいが、ストロボ国が支援してくれるだけで嬉しいものだ。

『時間がないのも確かだ。この十日、誰もリミットポータルに近付いていない。そして、ストロボ国にあった大転移装置の情報探知の罠も間も無く解除されるだろう。ともなれば、ヴィクセンが次の行動に出る可能性が高い』

 そんなサクセスの危惧に、俺は固唾を呑んだ。

 その事をパーティメンバーに話すと、その時の俺以上の緊張を顔に表した。

 ティミーは自分の肩を抱え、クーは固く口を結んだ。そしてキャロは剣に手を当て、俯いていた。気付かないふりをしていたが、その小さな身体は震えていた。リエルは顔にこそ出さなかったが、言葉を発していない時点で緊張は見てとれた。

 だから俺たちはサクセスの提案通り、金銭目的ではなく、ただただ魔物と戦うために、水晶宮の掃除(スイープ)依頼を受けた。大量に食料を買いこみ、ダンジョンに籠ったのだ。掃除(スイープ)依頼は三日で報告に帰らなければならない。俺たちは三日水晶宮に籠り掃除(スイープ)依頼をこなし、アルムの都に戻り冒険者ギルドで報告。そして、その三日で溜まったダイヤモンドランクパーティの依頼、プラチナランクパーティの依頼をこなし、また宿で休む事を三回ほど繰り返した。

 次第にボロボロになっていく俺たちを見て、ギルド受付員が心配してくれた。冒険者たちもその行動を異様に思ったらしく、いつもは煽ってくる態度や声も鳴りを潜めた。

 全てはダンジョンだと思われているリミットポータルの攻略のためと噂されているが、それでも「やりすぎだぜ」とか、「大丈夫か?」という心配の声が目立ち始めた。

 そんな三回の繰り返しが終わり、十三日目を迎えた時、魔王ヴィクセンより早く、アルム国の国王ギャレッドが先に行動を起こした。

 商業区のダインの武具店、《フェアライン》からメンテナンスを終えた武具を受け取り、中央区の宿に戻ろうと大通りに出ると、異様な集団が俺たちの前を横切り、南区の方に向かって行った。

「な、何だよこの騎士団」

「ちょ、ちょっと見なさいよあれ!」

 キャロの声で、皆がその指差す方を見る。

「ありゃ、ダイヤモンドランクのファンダムさんじゃないか? 他にもプラチナランクのソロ冒険者が何人かいる……!」

「確かにあれはファンダムさんだね。高齢だからって最近冒険者ギルドに来なくなって引退が噂されてたけど、こりゃ一体どういう訳だい?」

 リエルは頭を掻きながらその一団を眺める。

『これはもしや……』

 サクセスの反応を拾おうとした瞬間、俺たちを見かけたであろう情報大好きのラットが走ってきた。

「ディルアさーん!」

「おい、ラット。これは一体どういう事だっ?」

「大変ですよ! 俺も今知ったんですけど、一番にディルアさんに話したくて探しちゃいましたっ」

「これ、騎士団だよなっ?」

「じ、実はギャレッド王が高ランクの冒険者に声を掛けて、あのダンジョン(、、、、、)の調査に向かわせるって話です! 皆ディルアさんたちが断ったくらいの依頼だから絶対に近付かないようにしてたのに……王には逆らえないって」

「何だってっ!?」

『愚王ここに極まれり……か』

 サクセスの言いたい事もわかるが、ギャレッド王も王の職務を全うしようとしているだけだ。

 そこまで愚王という訳でもないが、数で押せば何とかなるとでも思ったのだろうか。

『ブロンズランク程の騎士がおよそ千人といったところか。騎士団長もシルバーランク程。確かに、他国の兵と比べれば優秀かもしれぬな』

『それとダイヤモンドランカーが一人、そしてプラチナランカーが……三人か。勝てると思うか?』

『無理だな。あのファンダムというダイヤモンドランカーも年齢のせいか能力はプラチナランク程だ。これならば我を纏ったディルア一人で釣りがくる』

 ゴブリン三百匹で根を上げそうになったっていうのに、大半がブロンズランクレベルの騎士団を千人相手になんて、絶対にしたくないぞ。

『そして我が愚王と言ったのは戦力ではない。数だ』

『え、少なすぎるって事か?』

『お主、この数があのリミットポータルの中に入り切れると思っているのか?』

『あ……』

 そうだった。リミットポータルの大きさはダンジョンに酷似している、入る事ができて数十人。通路なんてあるものならば、それは勇者ラルスにとって格好の的。

『だからこそのパーティ。この少数精鋭なのだ』

『そうは言っても、さすがにこれ以上死者を増やしたくないぞっ!』

 俺はいてもたってもいられなくなり、騎士団長の下へ駆けた。

 ガタイの良い黄金の鎧を纏った髭面の男が中央を歩いていた。おそらくこの人が騎士団長。

 すると向こうもこちらに気が付いたようで、鋭い眼光をこちらに向けて言い放った。

「これはこれは、ディルア殿ではありませんか?」

 煽るような口調。完全にこちらに敵意を向けている。そんな印象だった。

「騎士団長殿とお見受けします。冒険者ギルドが接近禁止にしているダンジョンに赴くと伺いましたが、本当でしょうかっ?」

「その通りだ。私の名はガウェイン。どこかの冒険者が逃げ腰故、陛下は心を鬼にして他の冒険者に訴えかけたのだ。陛下の熱意に感銘を受けた冒険者たちは、この通り……」

 近くを歩くファンダムの方を見る騎士団長。嘘だ、決して熱意に動かされた顔じゃない。皆緊張で固まっている。冒険者間で危険だと認識されている場所だぞ。どう考えても死地に赴く顔だ。

「あそこは危険です! これだけの人数がいても帰って来られるかわからないっ!」

「ほぉ? 作戦に参加すらしない冒険者が、陛下の心に異をとなえられると?」

「……くっ!」

 そんなガウェインの横目に、俺は何も言えなくなってしまう。

 冒険者たちの目を……俺は見てしまった。あれは明らかに助けを求める目。

『なるほど、そういう事か』

『ど、どういう事だよっ』

『ストロボ国の庇護下にいるパーティが、ギャレッドの命令を辞退。いや、命令とは明言せず、依頼と公言するかもしれぬな。その辞退を理由にギャレッドは他の冒険者に命令。全滅は必至だが、そこはギャレッドにとってどうでもいいのだ。ダンジョンの調査が上手くいこうがいくまいが、少なからず犠牲は出る』

『っ! つまり、ストロボ国に断られたから無理に強行したとするつもりか!』

『左様。犠牲が出た事で、国民はストロボ国と我らを糾弾する。ストロボ国民からも声があがるかもしれぬな。何とも小賢しく浅ましい考えだ』

 俺たちがギャレッド王の命令を断った事で、他の冒険者に白羽の矢が立つとは……! 俺たち以外に指名はないとみた過信から出た油断。アルム国も接近禁止を出したのは、策略のための時間稼ぎか。

『にゃろう』

『言っておくが、今の段階で勝てる保障はどこにもないぞ』

『だからって、アイツら放っておけないだろうっ』

 その葛藤を拾ったのか、リエルが俺の右肩を、ティミーが左肩をポンと叩いた。

「ここで行かなきゃ冒険者なんてやめた方がいいって。ねぇ坊や?」

「うん、さすがに放っておけない。ディルアが止めたって私は行くからねっ」

 そして、キャロが腕を組んで騎士団の最後尾を睨む。

「まったく、自分たちの力くらい知ってろってのよ」

 それは是非昔のキャロに言ってあげたいが、この一年で成長したし、今のキャロの発言としてなら受け入れられる。ギャレッド王の意図を知ったら猛烈に怒るんだろうなぁ。

 最後にクーが俺を見る。

「ディルア、いくの? いくんだよね?」

 俺たちの表情から察したのか、クーは確信しつつも聞いてきた。突然訪れた決戦にも物怖じしていないのはありがたい。俺はそんなクーの頭にポンと手を載せる。

『……やれやれ、せめてもう二人……ティミーとキャロがダイヤモンドランクに上がるまで追い込みたかったのだが……これも運命(さだめ)なのかもしれぬな』

『準備しようとしても間に合わない事か?』

『ふん、それだけ吐ければ上出来よ』

「おし、行くぞ!」

「「応っ!」」

 その日、俺たちは勇者と戦う事を決意した。

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