059
「ぐっ!」
翌朝聞いたのがアルム国、国王ギャレッドの不服そうな声。
俺はリエルと共に再び登城し、ジェイコブ王がくれた親書をギャレッド王に渡したのだ。
キャロに聞いたところ、大まかな内容はこうだ。
【ディルア率いるパーティにはストロボ国王族の関係者がいる。そのパーティに危険な任務を与えるのは非常に困る。これまではパーティの自由を尊重していたが、こういった事態になるとストロボ国も動かざるを得ない。そのパーティはストロボ国の庇護下にあると認識して欲しい】
と、簡潔に教えてくれた。
つまり「俺たちはアルム国にはいるが、ストロボ国の人間だぞ」と書いてあったのだ。こうなってはアルムの国王といえどそう簡単に手は出せない。両国は大転移装置で繋がっていて、長い間同盟国であり、アルム国の貴族もストロボ国に出入りしている。たとえ王族といえど、両国間の行き来は自由なのだ。
そしてこれは同時に、アルム国への非常に有効な牽制ともなる。アルム国最強のパーティが、実はストロボ国に属するパーティだったと公に知られれば、それだけで一大事だ。
冒険者のパーティ故、軍事力のバランスが崩れるという訳ではないが、民の印象ががらっと変わる。貴族たちもストロボにお金を落とすようになるかもしれない。アルム国としては、これが公になる訳にはいかない。無論、俺たちも喧伝するつもりはない。当然ストロボ国も同じ考えだ。
しかし、言い換えれば俺たちは強いカードを得たと言える。それを、さすがのギャレッド王も理解したのだろう。
「……くっ、ディルア殿も人が悪い。まさかストロボ国と関係の深い方とは思わなかったぞ」
「世間の目は我らに多く向いております故……申し訳ございません」
尤も、関係あるのはキャロだけど、過去キャロを付け狙ったギャレッドが相手だ。それは言いたくはない。だから親書の中身も「娘がいる」とは書かなかったのだろう。この親書の中にも、名を伏せざるを得ない理由が適当に書かれているのだろう。
たった一晩でここまで準備されてはギャレッド王も何もできない。終始不満が爆発しそうな顔だったが、俺たちはそれに気付かないように流し、アルム城を出た。
「あっはっはっは! あの顔見たかいっ? 悔しそうだったねぇ!」
「こらこら、ちょっと声が大き過ぎるぞ」
「構うもんかい。誰が聞いてたってアタシたちには手が出せないんだからっ」
バチンとウィンクしたリエルに苦笑し、俺たちはティミーたちと待ち合わせしている冒険者ギルドに向かった。そして心配そうにその出入り口で待っていたティミー、そしてギルドの外壁に寄りかかっていたキャロ、蟻の動きを観察してしゃがんでいるクーと合流した。俺とリエルは見合ってから、三人に向けてニカリと笑う。すると、ティミーはパァっと明るくなった。
「ふん、心配なんてしてなかったわよっ」
「おう、なんたってお前のおかげだからなっ」
言うと、キャロは「なっ!?」と言葉に詰まっていた。そして身体をフルフルと震わせた後、
「お、お前じゃないわよ!」
「おうおう、悪かったなキャロ! はははは!」
ぽんぽんとキャロの頭を撫でる。それを見てティミーとリエルが微笑んだ。
「さ、触るなぁあああっ!」
そう叫んではいても、キャロは俺の手を払わなかった。
いつも通りではあるが、何とも張り合いのない調子だった。
「それじゃあ今日はどうするかねぇ?」
「うーん、昨日はあんまり休んでないからなぁ。ダイヤモンドランクとプラチナランクの依頼を攫えたら終わるか」
言った瞬間、キャロとティミーの顔がヒクつく。
「ディルア、ア、アンタ軽くそんな事を言ってるようだから気付いてないだろうけど」
「普通のパーティは、多くても三件しか依頼をしないんだよ……?」
……言われて気付いた。そんなに多くないだろうとは思っていたが、確かに三件やれば一日どころか十日は生きていけるだろう。だが、新たに発行されたとしても各ランク一日に十件の依頼は貼り出される。今まで存在しなかったから、ダイヤモンドランクの依頼は三件も貼り出されないだろうけどな。だが、プラチナランクの依頼はそれくらい出るだろう。他のパーティはもう一つしかないし、減ったとしても七件はあるんだ。つまり俺は、十件近くの依頼をすると軽く言ってしまったのだ。
「あっはっはっは! 退屈しないパーティだよ、まったく!」
リエルは豪快に笑って俺の背中をバシンバシンと叩いてくれたが、俺はもしかして、いつの間にかサクセスの手によっておかしな感覚を持ってしまったのかもしれない。
とりあえず今は、宿に帰ってクーの匂いが付いた枕で寝たいという欲望に身を任せたいと思う。




