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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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 唐突に起こった出来事に、俺たちは困惑した表情を浮かべた。

「しかし父上っ、キャロの話ではこれより先は更なる危険が伴うとの事! 父としてそれを認める訳にはいきませんっ!」

 一瞬ジェイコブの言葉の意味が理解できなかったが、徐々にそれが脳に浸透してきた。

「て事は……あなたが先代のストロボの国王っ?」

「挨拶ができず申し訳なかった、ディルア殿。ジェイスン・ハミルトンです。先程は貴殿を試すような事をした。非礼を申し上げる」

 つまりこの人は、いち早く俺たちに近付き、俺たちの情報、人相、性格を探ろうとしたのか。ジェイコブも凄い人間だと思ったが、この人も相当だな。それだけに解せない。

『なぜこの二人の血を受けたキャロがあぁなるっ!』

 サクセスの憤りには大賛成なのだが、今はそれに反応している場合じゃない。

「ジェイコブ。賢く育ちはしたがまだ甘いな」

「なっ、ち、父上とはいえ聞き捨てなりませぬなっ」

「熱くなるでない。事態を広く、そして冷静に見ろとあれ程教えたであろう」

「ぐっ……そ、それでは私の何が甘いのか、是非お聞かせ願いたい」

 どちらも聡明なのだが、やはりジェイコブにとって父の壁は厚いのか。けど、熱くなった頭をすぐに冷やす事ができるのも素晴らしい事だ。キャロも……いやいや、高望みか。

「……一つ。危険が伴うという事だが、それはどこの誰が危険なのか」

「勿論キャロです」

『親ならばこう答えて然るべきか。しかし、ストロボの先王はそう見ていない』

 サクセスの言葉の意味。それは俺にもまだわからなかった。

「甘い。キャロが加入しているディルア殿のパーティだ。その事から何がわかる?」

 目を細め、我が子(ジェイコブ)に諭そうとする(ジェイスン)の目。それを受け、しばらくした後、ジェイコブ王が気付く。

「っ! アルム国で一番……いや、世界で一番強力なパーティの危険……!」

「二つ。儂は気付いた。しかしお前は気付かなかった。ディルア殿のパーティの特異性」

「それは……マスターランクのリエル殿がディルア殿の下に付いている事でしょうか……?」

「甘い。お前は今、彼らに寄り添い過ぎている。王として彼らを見ればその異常に気付いたであろう」

『正に賢王といったところか。部下に欲しいくらいだな』

『ど、どういう事だよ? ジェイコブ王、俺らを見ながら固まっちゃったぞ?』

『我が王なら許さぬ事よ』

『何を?』

『冒険者とはいえ、頭巾(、、)を被って謁見するなどな、あってはならぬのだ』

 直後、俺は言われて気付いた。そう、この場にいる異常な存在。注意されなかったから、あまりにも受け入れが早かったから、キャロの実家だから……そんな理由で、俺たちはそこに意識を向けられなかった。

 俺は見てしまった。ほんの一瞬。その存在を。しかし、そこはさすが国王なのだろう。俺のその一瞬の視線で、ジェイコブも気付いてしまった。

「そ、そなたっ!」

 クーはジェイコブの視線と声に身体をビクンとさせた。ジェイコブが見ていたのはクーの頭巾。クーもそれに気付いたからこそ、その頭巾を押さえてしまった。

 瞬間、俺、ティミー、リエル……更にキャロが跳んでクーの四方を固めた。

「なんとっ!?」

 後方で待機していた兵たちが慌てて腰の剣に手を当てるが、先王ジェイスンが手を上げて止める。

「はっはっはっは、さすがは世界最強のパーティ。尋常じゃない錬度よ。何、可愛い孫娘、その恩人たちに剣を向ける事はせぬ。ディルア殿、よろしいか?」

 優しい目だ。それでいて機転もきく。サクセスがこの人を賢王だと言うのも頷ける。

「クー、いいぞ」

「……んっ」

 少し怯えながらも、クーは頭巾を取った。

「まぁ……」

「なんとっ……!」

「……なるほど」

 レティシア、ジェイコブ、ジェイスンがそれぞれ違った驚きを示す。

 国王を守るための兵なんて、尻もちを突く程だ。それを見てジェイスンが肩を落とす。

「なげかわしいな。国の兵のなんと弱き事か」

 人狼(ウェアウルフ)の象徴、その犬耳が見えたのだ。普段魔物と戦わない兵には荷が重いと思う。

 だが、魔族の目撃情報なんてあるもんじゃない。人間界と魔界の戦争は、ここ数百年、小康状態だったのだから。もしかしたら冒険者の中にもあの兵みたいになるやつがいるかもしれないな。

 そう考えれば、この王族の三人の胆力たるや、凄まじいな。アルム国のギャレッド王だったらきっと逃げ出していただろう。

 ……ん? 血統であるジェイスンやジェイコブはわかるが、レティシアは? もしかしてキャロのあの性格はレティシア寄りなのかもしれない。貴族の出だろうが、クーの存在に気後れしてないしな。美人だけど気は強そうだ。

「ディルア殿」

「……はい」

人狼(ウェアウルフ)……魔族を率いるパーティですか。面白いですな」

「は、はははは……」

 先王ジェイスンの威圧を受け、乾いた笑いしか出てこない俺を、誰が責められよう。

 魔物との戦闘は慣れたものだが、(まつりごと)の場で人を圧倒するような人間は初めてなのだ。

「な、何故、最初からクーの頭巾を指摘されなかったのですか?」

「儂がディルア殿に声を掛けた時、クー殿の頭巾の中で何か動いたのです」

 そうか、人狼(ウェアウルフ)の聴覚の鋭さからくる本能的反応。

 でもそれって、相当視野を広くしていないと気付けないぞ? ……文字通り一瞬の反応。

「素晴らしい目をお持ちですね」

「長年国王なんてやっていると、勝手に肥えるものです」

「これが……父上が私を『甘い』と仰った理由、ですか……」

「まだ甘い……三つ。世界最強のパーティの危険。人狼(ウェアウルフ)という魔族の存在。この二つの情報と、アルム国のギャレッド王への親書。これでわからねば儂が国王に戻るぞ?」

『ジェイスンは親書の中身を知らずとも気付いたか……』

 鋭い視線をジェイコブ王に向けたジェイスン。それに憶する様子を見せず、ジェイコブが呟く。

「親書……キャロたちはギャレッド王を止めようとしている。何故? 危険が伴う? 何故? 世界最強のパーティでも危険? それ程の強敵? 敵? 人狼(ウェアウルフ)……魔族。こ、これは……ま、まさか……!」

「ディルア殿、どうやら我が子も辿り着いたようです。これは、あくまで推測の域を出ないものではあるが……平穏の時が破れた(、、、、、、、、)という事でよろしいですかな?」

 これだけの情報で即座に答えに辿り着けるというのも凄いものだな。本物の王を見た気がする。

「脱帽です。えぇ、その通りです」

「で、では、そうなのだな。考えたくはないが、遂に動き出したという事か――」

 ジェイコブ王は固唾を呑み、先を続ける。

「――魔王軍が」

 この言葉を受け、静かな謁見の間が一瞬慌ただしくなる。

 ジェイコブ王はこれを見るや否や手を上げて兵たちを制した。

「そうか、父上が『甘い』と言ったのは、キャロがいなくなる事によるパーティの戦力低下。世界最強のパーティが破れれば、それは世界の敗北と同義。我々には今、準備がないのだから。……キャロが戻ったのが深夜でよかった。他の貴族()がいたらと思うとゾッとする」

「何、じきに話す事になろう。しかし――」

「――今ではない。そうですな、父上?」

「うむ。ここから先は任せよう」

 そう言ったジェイスンは、穏やかな顔をジェイコブ王に向け、微笑んだ。

「事を明るみにすれば、我々が動きに気付いたと敵方に気付かれてしまう。そうですな、ディルア殿?」

「ありがとうございます。できれば、最悪の事態に備えて戦力を整えて頂ければと思います。勿論、秘密裏に」

「しかと承った。だが、そうなるとアルム国へ伝える事は難しいか……」

 そもそもアルム国王が信じるかどうかという話だよな。ここまで聞き分けのいい国王は稀だしな。

『どう思う、サクセス?』

『まさか国家単位で動くとは考えていなかったからな。ストロボにあれ程の英傑がいたとは……ディルアはともかく、こちら側に手を貸すのは不本意ではあるが、結果としてそれは時間を稼ぎ、ディルアたちを助ける事に繋がる。仕方ないか……』

『納得したか?』

『不本意だと言ったはずだ。……構わぬ。ストロボの兵力は当てにはならぬが、アルム国の手綱くらいは握れよう。目的は増強より時と伝えよ』

 秘密裏にとはいえ、いよいよ事が大きくなってきたな。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺はサクセスに言われた通り、ギャレッド王には知らせず、しかし手綱を握るようジェイコブ王に頼む。

 ジェイコブ王はこれを快諾し、その後涙目になって俺たち、そしてキャロの背中を見送った。

 ストロボにある大転移装置の罠についても話しておいた。が、サクセスの話だと、それはおそらくもうヴィクセンにとっては、必要のないものだろうと言っていた。

 これまでのストロボからアルムに渡った戦力を把握できた事で、勇者ラルスを投入した。そして、ラルスは既に高ランカーパーティを二つ全滅させる事ができたのだ。ゴブリンの群れを使ったのも、アルムの都にいる戦力が概ねわかったからだろう。だからこの時期だったのだ。つまり、行動に移ったヴィクセンにとっては、もう、大転移装置の罠もそこまで有用性を見出せないのだ。破壊されたところで、何の痛みもないだろう。日を空けて壊すようにと伝えたが、そのタイミングはジェイコブ王に任せてある。

「そういえば、キャロって何でギャレッド王と面識があるんだ?」

 帰路、そんな素朴な疑問をキャロに投げかける。

「アルム国の先王、ギルバード様が崩御した後、ギャレッド王の戴冠式に呼ばれたのよ」

「それって確か五年くらい前だろう?」

「四年前よ。それで、その後のパーティーで話した事があるの」

「へぇ、どんな話だよ?」

「……言わない」

 そこまで言ったところでキャロは不機嫌そうな顔になった。それはもう俺が追撃できない程に。

 そんな中、リエルが飛び込んでいく。

「いいじゃないか。教えなよ、キャロ」

「えぇ……」

「え~、私も気になるな~?」

 ティミーもだった。キャロの不満を共有してあげたいという気持ちからだろう。

 すると、キャロ俺に背中を見せる。なるほど、俺以外に話すつもりか。そういう事なら話が早い。

『風魔法で空気の揺れを鋭敏化する。後は任せたぞ』

『ふん、そんなもの必要ないわ』

 ダイヤモンドランカーと魔王の盗み聞きに死角などないのだ。

『「じ、実は……ダンスに誘われた時、強引だったからすぐに終わらせてパパのところに逃げたんだけど、その後『つれない態度が気に入った』とか言って私に求婚してきたの。当時私十二歳よ? ありえないでしょうっ。パパが年齢を理由に断ってくれたけど、その後何度も何かとに理由をつけて私をアルム国に呼ぶのっ。それにウンザリしちゃったから私家出したのよっ」だそうだ』

『なるほど、家出の理由にはそんな真相があったのか』

『十二の女が、体裁のため三年はアルム国の要望に耐えてきた……と思えば、キャロも我慢した方か』

 そうか、出会った頃のキャロは十五歳。耐えきれなくなって多感な年頃に我慢をしてきたんだ。

 しかし、それでキャロの性格が歪んだんじゃないとだけは断言しておこう。あれは完全に()だ。

 キャロの話にティミーはうんうんと頷き、一緒に不満を露わにしてた。

 そしてリエルはキャロの頭を撫で、褒めていた。クーもリエルの真似をしてキャロを撫でていた。

 皆、キャロが大好きなのだ。勿論、それは俺も同じだ。だが、俺も大人だ。誤魔化す事はしたくない。だから正直に言っておく。その感情の中に、含み(、、)はあるからな。

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