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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
56/76

056

 皆が首を傾げる中、キャロは俺の……というよりサクセス(マント)を掴んで俺を引っ張った。

 廊下に出た俺とキャロ。そのまま宿の受付前のエントラスまで降りる。

 キョロキョロと周囲を気にするキャロ。

 …………。

「そんなにキャロキャロするなよ」

「キョロキョロでしょ! ったく、その顔……何となく気付いてるんでしょ」

 いつになく元気のないキャロ。

 その理由はなんとなくわかった。パーティへの隠し事――その負い目だ。本来であれば別に黙ってても問題のない事。冒険者の不文律として気にしなくてもいい事。だが、長くパーティを続ければ続ける程、それは自分を追い込むものとなる。そんな事を気にしなくてもいいのだが、キャロにはそれが気にする程の事だった。ここにきて完全に負い目となったのだ。

「さっきの独り言、聞いてたぞ。やっぱり陛下と面識があるのか?」

「はぁ……ちょっとね」

 こうなってしまっては、もう聞いても仕方ないだろう。そう判断した俺は、キャロキャロしながら周囲の様子を(うかが)った後、小声で聞いてみた。

「お前、元々貴族だったのか?」

 これを受けたキャロは、渋い……何とも渋い顔を俺に見せた。

 ここまで残念なキャロは初めて見たかもしれない。

「そこまでバレちゃしょうがないわね……はぁ、ここからならハーディンで飛ばせばストロボにも夜中には着くでしょう。行くわよ……ストロボに」

「おいおい、いくらストロボの貴族でも無理だろう。相手はアルム国の国王だぞ?」

「問題ないわよ。私のパパも……ストロボの国王(、、、、、、、)だもの」

『……何をしている』

『目をキャロキャロさせてる』


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕刻というにはもう遅い時間だったが、俺たちは疲れた身体に鞭打ちながらアルムの都を出た。

 クーの呼びかけで飛んで来たハーディンに乗る。すると、キャロが俺に小さな肩を当てた。

 ここは大空。風の音が邪魔になる。たとえ隣にいても、多少声を張らないと相手には届かないのだ。

「ちょっと、何で皆には言わないのよっ」

 小声で言うキャロに、俺はキョトンとする。

「いや、言うのはお前の仕事だろうっ」

 そう、皆にはまだ「案がある」としか言っていないのだ。

 それを聞いただけで付いて来てくれるパーティメンバーには、本当に感謝だな。

「今更私が王女って言って信じると思うっ?」

「俺は信じてるだろうっ?」

「アンタはいいのよっ……ぁ」

 直後、キャロが赤面する。何故このタイミングで赤面するのだろうか。もしかして、俺だけキャロからの信頼が厚い? いやいや、そんなまさか。ティミーたちの方が信頼しているだろう、絶対。

「愚かな」

 とかサクセスから聞こえたが、俺は何の事を言っているのかサッパリだった。

「仕方ねぇな。タイミングは作ってやるから、ちゃんと言えよっ」

「わわわわわかったわっ」

 何をそんなに緊張しているのだろうか。キャロの性格は本当にわかりづらい。まぁ多感だという事もあるのだろうが、もう少しハッキリしてくれてもいいのだが。さて、タイミング……ね。

「ウィンドバリア!」

 俺は風魔法を使い、ハーディンの背中で聞こえる風の音を消し去る。

 これで皆に声がしっかり届くだろう。もう内緒話(、、、)はないみたいだしな。

 俺の魔法に気付いたティミーとクーが近付いてきた。二人はこの魔法の効果を知っているからな。

 リエルも風の音が聞こえなくなった事で、俺とキャロの前にやってきた。

「どうしたの、ディルア?」

「キャロから話があるそうだ」

 皆ハーディンの背中に腰を下ろし、キャロを見る。キャロは一度俺をちらりと見た後、少し困った顔を浮かべ、そして赤くなり、首を横に振り、今度は縦に振り、深呼吸し、「ふん」と意気込み、自分の頬を叩き、肩を何度か上げては下ろし――――、

「おい、いい加減にしろ」

「わ、わかってるわよ! 馬鹿ディルアぁ!」

 それだけキャロの中では重要な事だとわかっていても尚、何とも酷い言われようである。

「……じ、実は私っ! ――っ、ストロボの王女なのでしたっ!」

 まるで何かを仕掛けた後のネタばらしのように言ったキャロは、そのまま目を瞑り、俺のマントを被って隠れた。……まるで、親の説教から逃れるために布団に隠れる子供だな。

『おい、早くコレを何とかしろ』

 俺のマントもとい魔王サクセスは、俺以外のキャロ(異物)に文句を言っている。

 さて、皆の反応はそれぞれだ。クーはいつも通り「おうじょ? おいしいの?」みたいな顔だ。そしてリエルは、最初こそ目を丸くしていたが、キャロの行動をを見て失笑している。そしてティミーは――、

「それじゃあハーディンは今、ストロボに向かってるって事でいいのかな?」

 と、ただただ平常通りだった。

「ふぇ?」

 マントの中から聞こえた間の抜けた間抜けの声。

 ティミーは知っている。こういう時の行動を。キャロ程大きく動いてくれれば、皆キャロへの対応がわかるだろう。しかし、ティミーはキャロが大きく動かなくても同じ感情、同じ対応をしただろう。

 キャロの身分が王族でも、平民でもこれまでと態度を変えない事。これが重要なのだ。

「なるほどねぇ、ストロボの国王に一筆頼むって訳かい。そりゃ確かに、いい案(、、、)だねぇ」

 リエルもそれに続く。キャロの身分にではなく、“いい案”について驚いてみせた。

「おうじょ? おいしいの?」

 クーこそ正に平常通りかもしれない。そんなクーにみんなニカリと笑う。

「ほれ、出てこいよ」

「そうだ。二人分の魔力が混在して気持ちが悪いわっ」

 サクセスは、わかってかわからずか、悪態だけでキャロに伝えた。

 これは、サクセスなりのやり方なのかもしれない。だが、魔王がキャロに気を遣ったと考えると、それはそれで気持ちが悪い気がする。なので、サクセスは無意識だったと補正しておこう。

「う、うぅ……う?」

 本当に周りが怒っていないのか、本当に周りが態度を変えていないのか、それが心配で仕方ないような顔で、キャロはマントの中から顔を出した。

 既にリエルは地図を出し、クーにストロボの場所を教えている。そしてクーはクーで、自分が住んでた場所を指差すのだ。ティミーもそれに交ざり、「あと三時間くらいかなー」と……まるで雑談をしている。

 いや、まるで――ではない。本当にただの雑談なのだ。いつものパーティなのだ。たとえ、クー以外の二人がそれを演出しているとしても、キャロにそれが伝わるだけでいいのだ。

「う?」

 唇まで垂れさがったばっちい鼻水に、俺は顔をしかめる。

「ほれ、鼻水吹け」

 今にも泣きそうなキャロ。俺はそう言うと、キャロは自分の手拭いを使わず魔王(マント)を掴んだ。

「おい……やめろ」

 何をするのかはわかっていた。だが、俺は傍観する事しかできなかった。確かにソレは嫌だったが、それ以上に嫌がっているヤツがいたから。ソイツの事を考えていたら、傍観以外の選択肢がなかったのだ。

「お、おい! キャロ! 貴様! な、何をするっ!?」

「ずうびぃいいいいいいいいっ!!!!」

「ぎぃゃぁああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」

 過去数千年を遡っても、魔王にこれだけの悲鳴を出させたのは、キャロだけではなかろうか。

 それ程印象的な、サクセスの悲鳴だった。

 だが、傍観せざるを得なかった俺も、ようやく我に返る。目の前で鼻をかんでいるキャロを指差し、高らかに叫んでやった。これまでのティミー、リエルの気遣い。そしてクーの無邪気さなんてどうでもよくなっていたのは確かだ。

「この馬鹿王女! てめぇ何してくれやがるっ!? 俺のマントだぞ、コレッ!!」

 そう、皆が気遣うのなら、俺はあえて道化を選ぶ。しかも今回は世界が恐れる魔王付きの道化である。

「誰が俺のマントだ! これは我のだ! こらキャロ! 貴様! その手を! その汚い鼻を離さぬか! 貴様! おい、こら! おのれストロボの王女! 我が復活したら覚えていろ!」

 今サクセスをいじめている俺のパーティメンバーのキャロは、ストロボ国の王女だった。

「ずびぃいいいいいいっ!」

「ひぃぁあああああああああああ!?」

「ふん! やれるものならやってみなさい!」

「わかった! わかった! 貴様の要求を可能な限り呑もう! だからその鼻を離すのだ!」

 後の伝説がどうなるかわからない。

 しかし、今ここで生きる俺たちの冒険を(つづ)るとしたら、こうだろう。

「私はストロボの王女様よ! 逆らったらどうなるか……覚えておきなさい! すぅぅ~~――」

「「や、やめっ!」」

「ずびぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 ストロボの王女には喧嘩を売るな。

 ヤツは、魔王サクセスを無条件降伏させた女だ――と。

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