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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
52/76

052

「魔王の策略で武具を枯渇させようってかい。ソイツ、性格が悪いねぇ~」

「同感だな」

 北西にあるミスリル鉱山調査の依頼を受けた俺たち。リエルのぼやきにサクセスが同意を示す。

「色っぽい吸血鬼だっけ? どんな奴なの?」

 確かに、大まかな説明しか受けていないからな。キャロの疑問も頷ける。

「我の戦力として考えていただけに、まず強い。今のこちらの戦力では心もとないのは否めぬな」

「でも、何とかなりそうな言い方ではあるね?」

 俺もリエルと同意見だ。心もとないと言いつつも、サクセスの戦力分析からすれば、何とかなりそうな言い方だった。

「実力だけならば、マスターランカーが三人もいれば何とかなるだろう」

 いや、それでも高い壁だった。

「あはははは、三人は大変だね!」

「考えても見ろ。ヴィクセンは勇者ラルスのパーティメンバーを一人ずつ倒したのだ。つまり、まとめて相手取る事はできなかったという事だ。当時のパーティメンバーは、勇者以外の三人は全員マスターランクだった。ヴィクセンは、静かに、一人ずつ殺したのだ」

「おい、勇者のパーティ情報までは、さすがに皆知らないぞ」

「む、そうだったか。人間の寿命とは不便なものだな」

 寿命が長ければ、伝えられる伝承ももっと詳細になっていたと言いたいのか。

「だから人間は精一杯生きるんだよ。それにしてもサクセス? ヴィクセンに封印されたってのに、陰で動くヴィクセンの行動、よく知ってたな?」

「ふん、我を封じた時、高らかに語ってくれたわ」

 なるほど、性格が悪いな。

「だが、ヴィクセンには実力以上の知恵がある。智将と称されるだけはある……と、我が言うのだ。ここまで動きが後手に回ってしまうのは仕方ないだろう」

 サクセスが認める程の知恵者。まぁ、そうじゃないと勇者も篭絡されないし、サクセスも封じられないか。

「勇者を操る魔王。強敵だね……!」

 ティミーが強い瞳で呟く。それを拾うようにサクセスが反応する。

「左様。当面の目標は勇者の制圧だ。ヴィクセン以上の大物だぞ。それを努々忘れるな」

「しっかし、レジェンドランクって聞いてもイマイチ実感がわかないのよねっ」

 キャロが目を細め、遠くを見る。まるで不透明な実力を持つ勇者を見据えようとしているようだ。

「リエルよりつよい?」

 クーもリエルの強さは理解しているだろう。一日とはいえ、あの濃いデスマーチを一緒に過ごし、同じ前衛としてすぐ隣でその実力を感じていただろうから。

「レジェンドランクねぇ。今まで会った事がないからわからないよ」

 リエルも肩を竦める。この中であれば、リエルが一番その実力に近いだろう。しかし、リエルはアルム一の強者。それ以上の存在ともなると、やはりわかるのは魔王くらいか。

「この目で見るまでわからないが、ただのレジェンドランクであれば、リエル、そしてディルアがマスターランクになれば、このパーティでも勝てる。しかし、相手はただのレジェンドランクではない。勇者ラルスなのだ。神の寵愛がどれほどの力なのかが、我には想像がつかぬ」

 意外な事に、サクセスの言葉も曖昧だった。だが、一番気になったのはそこじゃない。

 言ってやりたい。「今、お前に目はないぞ」と。

 そう言ったら怒られるだろう。真面目な話してるしな。ティミーとかも怒りそうだ。

 そんな事を考えながら、俺たちはそのまま歩を進めた。

 やがて、遠方にミスリル鉱山を捉えたのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「見えたな」

「長年アルム地方にいるけど、アタシも初めて来た――――あれは煙かい?」

 リエルが目を細め、(ふもと)から立ち上る煙に気付く。遅れてティミー、キャロも気付く。

「走るぞ!」

「あいよ!」

「ヘルメース!」

 皆の速度を上げ、麓に向かって走る。やがて煙が黒煙だとわかり、俺の予感が悪い方へと向かう。

「おいおいおいおい! 最悪じゃないかっ!」

 既に火は少なく、ただただ黒煙が見える。後手も後手。かなり到着が遅れたようだった。

「ギギ……ギーッ!」

「前方! ゴブリン七体! 戦闘準備!」

「「応!」」

 麓の家屋の周りをうろつくゴブリンが七体。その奥に幾匹かのホブゴブリンが見える。

「この統率力……王がいるね!」

「あぁ、各自各個撃破。広がり過ぎず、魔力も控えろ! どれだけいるかわからないぞっ!」

「わかったわ! ふっ!」

 ティミーが魔素のみの魔弾を撃つ。俺も魔力を込めるマルチショットは使えない。外部の魔素だけでやりくりした方が正解だな。

「キャロ! 正面よりも後方に回ろうとするゴブリンに警戒!」

「わかってるわよ!」

「クー! 弓は勿論、魔法にも注意しろ! メイジもいるはずだ!」

「うん!」

「リエル、大物から狙え!」

「任せな!」

 七匹のゴブリンを倒した直後、ホブゴブリンが俺たちの存在に気付き、法螺貝(ほらがい)を吹く。しばらくすると、周囲から魔力の波が押し寄せている事がわかった。この一年で、俺の魔力感知力は向上した。それでもサクセスには遠く及ばないけどな。それだけならば、俺よりティミーの方が上だし。

「ディルア、この数……大変だよ!」

 鬼気迫る様子のティミー。それは俺も同じだった。

 ランクEの魔物、ゴブリン。ひと回り身体の大きいランクDのホブゴブリン。卓越した戦闘技術を備えたランクCのゴブリンファイター。魔法を操るランクCのゴブリンメイジ。統率力に長けたランクBのゴブリンジェネラル。凶暴なランクBのゴブリンロード。そしてそれらを束ねる災厄――ランクAのゴブリンキング。この群れを相手するくらいなら、ランクSの魔物を相手した方がマシなレベルだ。

 おそらく、冒険者ランクでいうところのダイヤモンドランク相当の相手。今回、冒険者ギルドはこの調査依頼をメタルランクのパーティクエストとして貼り出した。こういう事が稀に起こるのも無理はない。あくまで調査だ。別にこいつらを倒さなくてもいいのだ。しかし、冒険者の中には倒してしまおうという無謀な挑戦をする者もいる。冒険と無謀は違う。それだけは理解しなくてはいけない。

 今回俺たちが動いた理由。それは、現在アルムの都に俺たち以上のパーティが存在しないからだ。

「右メイジ二! 左は俺がやる! キャロ! ティミーが正面でいっぱいいっぱいだ! 任せた!」

「はぁあああっ!」

 キャロは指示通り、魔王の靴の力でゴブリンメイジを狙いに行く。

「あらよっと! クー! これ、よろしくっ!」

「てやぁっ!」

 リエルが足蹴(あしげ)にしたホブゴブリンを、真っ二つに斬るクー。

「数が多すぎるっ! 使うぞ!」

『悪くないタイミングだ』

「うるせぇ! ウィンドファイバーラッシュ!」

「エレキレイン!」

「アースクラック!」

「ヘルファイア!」

 俺、キャロ、クー、そしてティミーが放つ四色の魔法。全てサクセスの指導付きだ。

 俺のウィンドファイバーラッシュでゴブリンの総数を削り、キャロのエレキレインで大物たちの足を止める。クーのアースクラックで障害物を増やし、その限定された空間に通ったゴブリンたちに向かい、ティミーがヘルファイアを放つ。

「面白い魔法ばかりだね! それじゃあ、アタシもとっておきだ! ジャミングビート!」

 瞬間、ゴブリンたちに向かって無数の水弾が飛ぶ。まるで真横に向かって振る豪雨のようだ。

 しかし、威力はそこまでない。ゴブリンは吹き飛ぶものの、ホブゴブリンは堪えている。いや、待て。これって――かなり有効的な魔法なんじゃ――、

『なるほど、足止めを前提とした妨害魔法か。予め多対一を想定したもの。長く一人で戦い抜いただけはある。しかもこの魔法。上級水魔法なのにこの威力。つまり魔法の長期発動に重きを置いたのか』

「これならゴブリンの動きに制限がかかる! 全員、気合い入れろ!」

「「応っ!」」

 皆の掛け声が皆の耳を揺らす。

 その直後、遠くに見える家屋の屋根で、俺たちを見下ろすゴブリンを見つける。

『出たな、ゴブリンの王め……』

「ギギギー! ギギ!」

 俺たちを睨んだ途端、ゴブリンキングは俺たちを指差し叫んだ。すると、ゴブリンキングが立っている家屋の陰から、一際大きな身体をしたゴブリン二匹が現れる。

「嘘っ!? ロードとジェネラルにしても大き過ぎるでしょ!?」

 キャロの言った通り、それは、今リエルが弾き飛ばしたゴブリンロードとは、明らかに違う身体だった。

「おいおい、魔王軍にあんなのいるのかっ!?」

『知らんな。ヴィクセンが作ったのであろう。ロードとジェネラルの亜種か。忌々しい』

 亜種のロードとジェネラルは、後方で怯え始めたゴブリンを踏み潰しながら俺たちに近付く。

 やがて間近に迫る圧力は、初めてエンシェントドラゴンのハーディンを前にした時の感覚と似ていた。

「リエル! 気を付けろ!」

 亜種ロードの戦斧が振り下ろされる。リエルは腰を落としてこれを受ける。衝撃によって大地が砕け、一瞬だけリエルは苦しそうな声を出した。

「くっ!」

「いけるか!?」

「一匹だけなら!」

 という事は、一匹だけでランクS相当だろう。なら、クーには荷が重い。

「クー! 後退しろ! そのジェネラルは俺がやる!」

「う、うん!」

「ティミー! そっち頼んだ!」

「わかった! 気を付けてね!」

 周囲のゴブリンも、被害を恐れて亜種ロードとリエルに近付いていない。どうやら、その恐ろしさを知っているようだ。リエルでなく、同族の亜種ロードの実力をな。

 そして、亜種ジェネラルも俺を敵と見定めたのか、俺の正面に立つ。眼前に現れるとやはりデカい。ハーディンに近い体躯ではなかろうか。

『ディルア、アレ(、、)が必要になるやもしれぬ』

「あぁ、言われなくてもわかってらぁ! ふっ!」

 俺は駆けながら神風、神眼、超剛力、超剛体を発動した。これにより、身体能力はマスターランカーのリエルとほぼ同等か、それ以上になるだろう。勿論、リエルが身体能力向上スキルを使えば、更に強くなるけどな。

 亜種ジェネラルの得物(ぶき)は分厚く反りのある巨大な曲刀。斬る事に特化した剣だが、あの曲刀と亜種ジェネラルの大きさから、斬るというより一気に切断できそうだ。そして金属を何枚も重ねたような分厚い盾も持っている。

『ふむ、では一つ課題だ、ディルア』

「あぁ!? 何だよ!」

『攻撃を受ける事は許さぬ。ひとたび身体にあの剣を受ければ、お主の身体は真っ二つに裂かれるだろう』

「くそっ! この土壇場で言うかよ、てめぇ!」

『アドバイスが欲しかったのであろう? くくくく……!』

 昨日のデスマーチの時は何も言ってこなかったのに、亜種ジェネラルが曲刀を振り回してる最中(さなか)には言うんだもんだ。つくづく魔王だよ、この野郎っ!

「ふっ! このっ! っと、おりゃあっ!」

 俺は亜種ジェネラルの周囲を跳び回り、時にはその身体を踏み台とした。スリングショットの魔弾を何度か放つも、盾で防がれる。当たったとしても、その巨躯のせいか、ダメージが通っている感じがしない。魔力を込めようにも、巧みな剣と盾捌きにより、そんな時間をくれない。離れようにも、身体に似合わずとても素早く、ピタリと俺に身体を近付けてくる。サクセスの防御力ありきで考え、懐に飛び込んだのが失敗だったが、これを見越してのサクセスの課題だ。きっと狙いがあるのだろう。そう思ってしまうあたり、俺は魔王によって洗脳されているのかもしれない。

「いや、これは信頼か……」

『何を寝ぼけた事を言っている。それ、逃げ場がなくなるぞ』

 魔王様のありがたいお言葉通り、俺は亜種ジェネラルの圧力で徐々に逃げ場を失い、家屋の壁まで追い詰められてしまった。亜種ジェネラルは非常に頭が良い。壁を壊さず、俺に攻撃を繰り返す。その方が、俺を捉えられる確率が高いと踏んだからだ。

『さぁ、時間もない。どうする、ディルア?』

 サクセスは、身体能力向上スキルの時間切れの事を言っている。これが切れれば、俺は一瞬で曲刀に捕まるだろ。まったく、言いたい事だけ言いやがって。ヴィクセンに負けず劣らず性格が悪いな。

「こう! する! しか! ないだろう! はぁああああああっ!」

『やはり使うか。カオスダイブ(、、、、、、)

 上級闇魔法である《カオスダイブ》。ダークダイブとは違い、複数個所に闇玉を飛ばし、そこに転移する荒業。これと合わせディープルウィンドを使えば……時間が稼げる!

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