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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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 翌朝、フラフラになったクーの全身甲冑(フルアーマー)()が入ったところで、ようやく俺たちは歩を止めた。ミスリルでできた防具に罅が入るんだ。まったく、おかしな話だ。へこむんじゃない、罅だ。こりゃ、明日防具店のオヤジに怒鳴られた後、買い直しだろうな。

 勿論、クーだけじゃない。ティミーはアルムの都に着くなり気絶した。キャロも強がっていたが、身体は疲労によってガタガタと震えていた。最後の方は魔力も使えなくなり、地面で踏ん張ってたしな。

 リエルも顔には出さなかったが、ここまでハードな冒険はこれまでなかったようで、「寝る」とだけ言った後、ティミーを担いで宿に向かった。やはり、今回の冒険は水晶宮に一晩(こも)るよりも厳しかったのだろう。初日から無理をさせてしまっただろうか。いや、けど終始楽しいって言ってたな、あの人。

「マ、マジかよっ?」

「シルバーランクまでのパーティクエストを全て(さら)えたって!?」

 俺は蜂蜜酒(ミード)を飲みながら、椅子の背もたれにどっぷりと身体を預けている。

 背後で俺たちの事を噂する冒険者たちの話を自分の耳で聞いて、ようやく自分たちが何をやったのか理解した。

「浚う」とは冒険者の間で使われる略語だ。つまり、俺たちはシルバー、ゴールド、プラチナの三つのランクの残った依頼を全て消化したのだ。勿論、採取や採掘の依頼は残っている。しかし、討伐とつく依頼が貼り出されると、俺はすぐにそれをとり受付に持って行った。昼、夜と、大体決まった時間に依頼が追加される事もあるが、俺たちの消化力はそれを上回ったのだ。

『どうした。疲れているのではないのか?』

『いや、不思議と全然眠くないぞ。どこかの誰かさんが、全然俺にアドバイスしてくれなかったからな』

『ぬかせ。お主には我がこれまで与えてきた全てがある。これ以上言う事などないわ』

『あり? そんな理由だったのか?』

『無論、他にも理由はある。これまでティミーたちに与えた助言。それは全てお主にも言える事だ。まぁ、既に過去言ったものが多かったが、復習としてはいい機会だったろう』

『……まだありそうだな』

『我への魔力供給よ』

『へ? そんな事してたっけ?』

 俺が素っ頓狂な声を出して聞くと、サクセスは溜め息を吐きながら語気を強めた。

『忘れたのか。我が肉声で喋る時、魔力の波動とマントの動きで誤魔化しているのだ。しかし、長時間それ行わなければならない時、お主の魔力を使っているのだ』

 正確にはそんな事まともに言われた事はない。マントの範囲外を守る時は、俺の魔力を拝借するという内容だったはずだ。だからこそ、かつて火口に飛び込んだ時も助かったのだ。しかし、喋る時もそうなのか。つまり、今日の「サクセス様の肉声付き、飴と鞭大作戦」は、常に俺の魔力を使っていたのか。

『って、勝手に使ってたのか?』

『しかし、それでもお主の魔力は枯渇しなかった。何故かわかるか?』

 上手く丸め込もうとしてるが、俺は話を逸らされた事を忘れはしないだろう。

 と、サクセスがこう言うって事は――あぁ、なるほど。そういう事か。

『これまでも勝手に俺の魔力を使ってたんだな?』

『回るようになったではないか、その頭』

『これまでが回ってなかったみたいに言うなや!』

『まぁその通りだ。ディルアが気付かぬ内に我がその魔力を自由に使い、その底を拡げていたのだ』

『って事は、俺の魔力容量が知らない間に増えてたって事か』

『左様』

 なるほど、確かにそれは効率的だ。俺が一人で抱えきれる事は多くない。そしてパーティの圧勝を防ぐため、つまり、パーティメンバーの成長のため、スリングショットでの攻撃を避け、剣で戦う事が多かった。そうなってはあまり魔力を使わないのだ。そういう時に、サクセスが俺の魔力を空打ちして消費していたのか。

『ホント、お前って暗躍とかそういうの似合ってるよな』

『これまでも闇に生きてきたのだ。闇で舞って何が悪い?』

『口の減らない魔王様だよ、まったく』

『この魔王サクセス。それだけはディルアに一歩劣ると思っている』

『ほら、無限に湧いてきそうだ』

 俺は再び皮肉を被せる。するとサクセスはくすくすと笑いながら言ったのだ。

『ふふふふ。さぁ、明日も長い。眠れぬのはまだお主が緊張しているからだ。今は宿に戻って休め』

 そんなサクセスの魔王らしからぬ言葉に、俺は一瞬目を丸くした。またからかってやろうとも考えたが、俺はすぐに顔を戻して「あぁ、そうだな」と零した。

 未だ俺たちパーティの噂話をしていた冒険者たちは、そんな俺の肉声(、、)に首を傾げていた。


 宿に戻った俺は驚いた。何に驚いたか。それは、部屋のベッドを占領する三人娘――キャロ、クー、ティミー。そして、地面にで豪快に(いびき)をかいているアルムの都にただ一人のマスターランカー――リエル。

 まず、何故俺の部屋で寝ているのかという疑問が頭を過ったが、あれだけ疲れていたら仕方ない。なんたって、かろうじて意識が正常にあったのが、リエルだけなのだ。昨晩、色々話したこの部屋に来るのも頷けるし、部屋が違っていたのをここに着いてから気付いたとしても、その性格から「ここでいいか」となるのもわかる。

 だが、これだけは……これだけは言わせてくれ。

「おい、寝る場所がないぞ?」

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