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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
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049

「いやー、それにしても昨日ティミーが頑張ってたとはな。なんにせよ、プラチナランクおめでとう」

「えへへ~、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「お~よしよしよしよし」

「あはははは、くすぐったいよディルアっ」

 犬をあやすようにティミーの頭をぐりぐりと撫でまわす俺。

 そんなやりとりをじとっとした目で見ているのは、何を隠そうキャロさんだった。

「おかしいっ。私がプラチナランクになった時はソレなかったわよっ!」

 ずいとティミーの頭を指差すキャロ。

「……やればいいのか?」

 俺はティミーの頭から放した手をわきわきさせながらキャロに聞いた。

「そ、そういうのは上がった時にやってもらうものなのよっ!」

 そんな風に反論してきたキャロだったが、俺は行き場の失った手の着地点を、キャロの頭と決めていた。

「おーよしよしよしよし、キャロも頑張ったな~。ははははは!」

「わぁっ!? ちょ、こら、も、もういいってばって、わぁ!?」

 金色(こんじき)に輝く髪の毛をボサボサにしてしまった時、キャロから何か言われるかもと思ったが、不思議と文句はなかった。

 そんな一部始終を見ていたクーが、人差し指を咥えて俺の手を見ている。

 ふむ、何かしら理由がないといけない、か。

「よーしクー。今日は早起きできて偉いなぁ~! よーしよしよしよし!」

「ん、うぅ、ふふふふ……」

 皆反応が違ってとても面白い。しかし、ここにきて思い出すのだ。既にプラチナ(、、、、)ランクの掃除(スイープ)依頼を受け、アルムの都から北上している俺たち。その中にいる新加入のマスターランカーの存在を。

「あっはっはっは! 坊やのパーティはいつもこんな感じなのかいっ? 仲がいいのは結構な事じゃないか」

「あ、あはははは……」

 火照る頬に、自分の魔法でやんわり風を当てる俺。

 因みに、何故今回ダイヤモンドランクのパーティ依頼を受けずに、プラチナランクの依頼になってしまったかと言うと……依頼そのものが存在しなかったからだ。

 リエルがこれまで受けていたダイヤモンドランクのパーティ依頼は、あくまでソロパーティ用。しかも、リエルのソロ主義に合わせて、ギルドが特別に作っていた依頼だ。

 しかし、まともなダイヤモンドランクパーティ……ともなると話が変わってくるのだ。だから、今回はプラチナランクのパーティ依頼に甘んじた訳だ。まぁ、サクセスの話では、今のこのパーティであれば、マスターランクの依頼だろうが、こなせるだろうという事だ。

 確かにそうだよな。リエルはそもそもマスターランカーで、他の四人はアーティファクト持ちで、尚且つ俺には魔王サクセスが付いている。これでも勇者に対抗できないと言われると、勇者ラルスは相当化物なんだと思う。

 まぁ、今日は新しいパーティの試運転のようなものだ。


「え、アタシが前衛でいいのかい?」

「あぁ、クーと一緒に二枚の壁になってくれ。クーはリエルの動きを見て、真似できそうなところは真似してどんどん盗んでいけ」

「うん!」

「キャロはそのまま遊撃な。靴の力で上手く敵をかきまわしてやれ。ただし、魔力の消費量には注意だぞ」

「まっかせなさーい!」

「んで俺が中衛だ。攻守をバランスよく担当する。ティミーは後衛。ここはまぁ安定だな」

「だねっ。さぁ、今日も頑張っちゃうぞー!」

 空に小さな拳を掲げ、意気込むティミー。キャロとクーもそれに続き、リエルも乗っかる。

『実にいいパーティだ』

『確かにそうだけど。具体的にはどこよ?』

『一番はやはりその向上心だな。皆、腐る事もなくひたすら上を見ている。昨日のティミーの件、我も少なからず意外だったのだ。性格の統一こそ至上とも思っていたが、個々の性格が互いの成長を助けている。我はそう感じた』

 へぇ、サクセスですら、少し驚いたんだな。

『それで、今日はともかく、明日からどうするんだよ?』

 俺は昨晩の大魔王の覚醒が怖く、予めこのパーティをどういじめ抜くのか聞いておこうと思った。

 しかし、サクセスは意外な反応を示した。鼻で笑ったように「ふん」と言った後、俺に続けて言ったのだ。

『何を寝ぼけた事を言っている。明日から? 今日からに決まっているだろう!』

 これまで、サクセスの無茶をこなしたのは俺だけだった。しかし、今回はパーティ全員を鍛えるというのだから驚きだ。しかし、これは予想外だ。サクセスは今、このでき上がったばかりのパーティを壊しにかかっているのだ。

 と、思っていたが、今回のサクセスは一味も二味も違った。

「よし、リエル。中々悪くない動きだ」

「あはははは、魔王に褒められちゃったよ」

「だが、まだ重心が高い。お主ならばもっと這うような動きができるはずだ」

 這う前衛ってのもおかしな話だ。

「へぇ、それならいっちょやってみようかねっ」

 ばちんとウィンクしたリエル。

 おかしい。サクセスがまともなアドバイスをしている。これまでのような身体に鞭を打つ恐ろしい魔王様は、一体どこに消えたのだろうか。

「クー」

「は、はい魔王様!」

「内に眠る力をもっと開放しろ。さすれば亡きゴディアスにも並ぶ力となるだろう。ディルアの言った事を意識しろ。リエルはアルム一洗練された人間だ。それを見、模倣し、昇華させろ。潜在的な力は、人狼(ウェアウルフ)であるお主の方が上だ」

「はいっ!」

 誰だ、コイツ? 俺の知ってる魔王サクセスと違う人だ。いや、魔族か。

「キャロ」

「な、何よ?」

「まだその靴の真価を発揮できていないぞ。歩く駆けるは誰でもできる。そうではない。舞うのだ。前衛の二人の動きに合わせ、心を躍らせ、剣を躍らせるのだ」

「わ、わかったわよ。やればいいんでしょやれば!」

『心』という単語を強調する魔王がこの世にいたとは驚きだな。

「ティミー」

「はい!」

「まだ勘だけで動いている。確かに経験則からくる勘は、戦闘において重要なものだ。しかし、もっとできるはずだ。俯瞰で己の姿を見るように、敵の位置を把握しろ。それだけでお主の魔弾はどこにでも届く」

「俯瞰……か。わかりました!」

 額に手を当て、敬礼したティミー。何だこの魔王軍調教の手引きみたいなのは。

「さすが魔王だね。アタシたちの事をよく見てるよ」

 皆、サクセスの言葉を信頼しているようで、すんなりと言う事をきく。

「で、俺は?」

「自分で考えろ」

 おかしい。

 サクセスは女性に尻尾を振るような性格じゃなかったはずだが、何故俺は、こうも扱いが違うのだろう。


掃除(スイープ)依頼をこなした俺たちは、アルムの都に戻り、また依頼を受ける。

「ティミー! 己が腕を信じろ! 何ならディルアの頭を貫いても構わん!」

「は、はい!」

 はいじゃねえよ。そう言いながらティミーは俺の耳を(かす)めそうな魔弾を放つ。ギリギリもいいとこじゃないか、これ。

「クー! お主が気を抜いた分だけリエルの負担となる! 集中力を途切らすな! 研ぎ澄ませ!」

「くっ……はい!」

 このパーティの特性上、前衛にいるゴールドランクのクーが一番辛い役割だろう。なんといっても、パーティランクプラチナの依頼だ。まだクーには厳しいものもあるだろう。

 しかし、潜在能力の高さと、リエルの助力で何とかできてしまっている。押し寄せる魔物のランクが高ければ高い程、その誤魔化し(、、、、)は通用しなくなってくる。集中力が切れるのも当然だ。

「キャロ! 剣だけに頼るな! 四肢の数だけ殺しがある! 魔物の喉元を噛み切る勢いが生への活路と知れ! 靴の特性を忘れるな! しかし、宙だけが支点だと思うな! 大地は勿論、魔物の身体さえもお主の踏み台よ!」

「~~~っ! ほ、本当に無茶ばっかり言ってくるんだからっ!」

 とか言いつつも、キャロは宙から落ちる力を利用して魔物の骨を折ったりしている。器用になったな。

「リエル! 実力に過信せず常に気を張れ!」

「あいよぉ!」

「個人技だけに頼るな! お主の背にはディルアとティミーがいる! 抱えきれない魔物の選別くらいやってのけろ! それはお主の実力を一段階上げる!」

「あっはっはっは! そりゃいいねぇ!」

 なるほど、そういう事か。

 最初はただのアドバイスだと思っていたが、サクセスは徐々に鞭を使い始めたんだ。

 ……恐怖だな。正に魔王的。サクセスの言う事は「できる事」だと強制的に認識させているんだ。

 簡単な事から身体に馴染ませ、徐々にそのアドバイスを難しいものにしている。しかし、どうしても躓いてしまう。その時がこの鞭の怖いところだ。これまでできていたアドバイスができないなんて、身体が認めない。だからいつも以上に奮起し、できるまで頑張ってしまう。

 あぁ恐ろしい。リエルなんて、それを楽しんですらいるからな。

「で、俺は?」

「キャロ! 顔が変だぞ!」

 解せない。

 魔王が構ってくれないぞ。

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