表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第2部
48/76

048

 翌朝、喧噪で溢れかえる冒険者ギルド。

 冒険者たちが集う町、アルムの都、その冒険者ギルドの朝は早い。無論、どんな時でも対応できるように、二十四時間開いているが、朝というだけで冒険者は集う。何故なら、そこに依頼が飛び交うからだ。

 新たに貼り出される依頼を吟味し、自分の、或いは自分たちの実力と照らし合わせる。それも、できるだけ短時間で。冒険者同士が依頼票を同時に触って取り合いになるなんて、割とよく見かけるのだ。

 俺は「またか」と思いながら掲示板の前が()くのを待とうと、近くの椅子に腰掛けようとした。瞬間、冒険者たちの視線が一気に俺に集まった。

「おう、()っちまおうぜ」

「馬鹿、奴はダイヤモンドランクだぜ? 殺るなら夜、背後からだろう」

「ぶっ殺してやる……!」

『ディルア』

『なんだよ』

『何故やつらはこちらに殺気を向けているのだ。ダダ漏れもいいところだぞ』

『もし本気で疑問に思ってるなら魔王の称号なんて返上しちまえ』

『やはり昨夜の事が?』

『そりゃそうだろ。冒険者ギルドには情報が集まるんだ。勿論、それは依頼だけじゃない。贔屓にしている店の値引き交渉結果から、近所の野良猫の模様まで、ありとあらゆる情報だ。俺が独自で集めた情報で、最近のトップ(スリー)を教えてやろうか?』

『第三位が、食堂でその日キャロが座った椅子はどれか、というあのくだらない情報の事か』

『何で知ってるんだよ!?』

『その独自の情報集めの際、我はディルアの(そば)にいないと思ったのか?』

 ……そういえば俺、コイツずっと(まと)ってるんだった。

 そう、キャロは怖くて近付けない。だから、去った後にキャロを感じたいという数少ない変態が、この冒険者ギルドにはいるのだ。しかも、その中には気弱な冒険者が多いとも聞く。ええい、面倒な……。

『じゃ、じゃあ二位もわかるだろう』

『クーの食事量……だったか』

『わかってるじゃないか』

 クーに奢りたいオヤジ冒険者共が情報共有しているという噂だ。ある時、なんでもかんでも奢っていたら、クーが「もういらない」と不機嫌になったのが原因だ。理由は満腹だから。さすが人狼(ウェアウルフ)だよな。食べきれない食料を出されても食わない。そしてちゃんと不満を露わにする。

 だからオヤジ共が結託して、「今日は誰が奢るか」とかの情報も飛びかっているそうだ。まぁ、パーティ(こっち)はこのおかげでクーの食費が浮いて助かっている訳だが。

『そして堂々の第一位っ』

『ティミーの居場所だったな』

 もはや完全にストーカーレベルであるが、ティミーはアルムの都で大人気である。ひとたび歩けば冒険者どころか町中の男の目が動く。興味が好意に変わり、好きな相手の情報を知りたいのはわからんでもない。しかし、「ティミーがいつ、どこで、何をしているか」なんて情報は、本当に必要なのだろうか。

『ふむ、わからんな』

『これだけ言ってわからんか。まったく、鈍感さは魔王級だな』

『何ぃ? 人間のくだらん感性など我にわかってたまるかっ』

『だーかーらー、俺たちは、実力という冒険者の物差し以外でも、注目を浴びてるんだよ。俺以外のパーティメンバーは皆、美人揃いだ。それをお前の提案で、衆人環視の中、全員()の自室に誘ったんだ。それもマスターランカーのリエルもっ。納得できないが、何となくこの殺気に納得できちまう俺もいるんだよ!』

『あれ以外に方法があったと思うのか?』

 日を改められたら一番よかったが、何しろ時間がなかったしな。サクセスの提案に乗るしかなかった。しかし、それによって伴う俺への精神的苦痛は、計り知れないものがある。

 俺は、連日出している溜め息をまた吐き、この視線に耐えている。

 まぁ、その圧も、これ以上になる(、、、、、、、)と思うと、なんかどうでもよくなってくるな。

「あふぁ~……ぁ? やぁ坊や」

 手で口を押さえながら大欠伸(おおあくび)して冒険者ギルドにやってきたリエル。俺に気付き、いつもの挨拶をしてから隣に座る。それだけでまた騒ぎだ。なんたって、昨日俺の部屋に来たリエルが俺の隣に座るんだから。

「やっぱり朝は苦手だよ。まぁ、昨晩は夜遅くまで騒いじまったからねぇ」

「おい、そ、その話はやめよう。な?」

「ぁん? 何でだい? 皆で盛り上がったじゃないか?」

 やばい。冒険者たち(奴ら)の殺意が決壊しそうだ。

「朝までずっとだと!?」

 朝とは言ってねぇよ。

「ディルアの野郎化物か!?」

 お前は何を想像してるんだ。

「お、俺のティミーちゃんをっ!」

 後でティミーに顔見知りか聞いてみるからな、お前。

「「おっはよー」」

 と、その時やって来た我がパーティの三人娘。直後、俺に当てられていた殺気が一気に霧散し、温かい視線が三人に向けられる。いや、ティミーとクー二人に向けてか。キャロは集まる視線に食ってかかるからな。

 しかし、そんな中でも物騒というか危ない声は聞こえてくる。

「おい、マーク(、、、)はあるか? どうぞ」

「いや、ティミーちゃんとキャロの首筋にはそれが観測できない。どうぞ」

「ま、まさか更に下だというのか……っ! どうぞ」

「っ! クーちゃんの頬にマーク発見……!」

「「っ!?」」

 そりゃ蚊に刺された跡だ。

「あぁ、そうだ。これ、渡しとくよ」

「そうだったね、はい」

「よろしくー」

「ディルア、はい」

 四人の冒険者カード。俺はそれを受け取り、ようやく()いてきたギルドの受付に向かう。未だに皆は四人の方にくぎ付けだ。できれば気付かないで欲しいものだが――、

「なっ!? プラチナランクのディルアのパーティに、マスターランカーのリエルが加入だって!?」

 やはり、見ているやつは見ているのだ。俺たちの新しいパーティ申請現場を。一気に騒然となる冒険者たち。眼前ではギルド受付員すら目を丸くしている。昨日俺と臨時パーティを組んだ時も騒がれたが、今回はそれ以上だ。何故なら、それが俺のパーティだからだ。上位ランカーであるはずのリエルが、下位ランカーの俺をリーダーと認めた。たったそれだけで大騒ぎだ。そもそも、リエルはずっとソロパーティで動いていた。他人と組む事も稀なのだ。そんな上位ランカーが俺のパーティに入った。それは即ち臨時パーティではないという証明。これは、最早移籍と言っても過言じゃないだろう。

「こ、これは……っ」

 ん? どうやらギルド受付員が冒険者カードを見て慌てているようだった。奥に入って行ったが、一体どうしたのだろう。俺は渡した冒険者カードが置かれた机を見やる。

 あれ、どうしたんだ? ティミーの冒険者カードだけ持って行ったようだ。

「一体ナニが起こったんだ!?」

「ディルアのナニがそんなに!?」

「ナニでマスターランカーが陥落したのか!?」

 背中から止めどない罵声に近い何かが聞こえる。が、振り返っては煽るだけだ。ここはじっと我慢。そうしよう。というかそれしかない。

少しすると、最初に受付をしていた女のギルド受付員ではなく、髭を生やした中年の男が机の前に腰を下ろした。そして、俺の前に一枚ずつ冒険者カードを並べ、言ったのだ。

「クー様がゴールドランク、キャロ様とティミー様がプラチナランクになっておられますので、規定を超えました。これより、ディルア様のパーティはダイヤモンドランクとさせて頂きます」

「「っ!?」」

 今日は野次馬が驚いてばかりの日だ。

そうか、昨日キャロとクーだけで食事していたのは、おそらくティミーがソロで討伐依頼をこなしていたから。確かに、魔王の弓があればティミーもソロで十分やっていけるだろう。それによってティミーがキャロに追い付き、プラチナランクになったのか。

「まじかよ……」

 そう、これはつまり――、

「これまでダイヤモンドランクパーティはリエルのソロパーティのみ。けどまともなパーティでダイヤモンドになったのは、ここ数百年なかったんじゃねぇか?」

 俺たちのパーティは、アルムの都で唯一のダイヤモンドランクパーティとなったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2018年5月25日にMFブックスより書籍化されました。
Amazonでも好評発売中!
※このリンクは『小説家になろう』運営会社の許諾を得て掲載しています。
壱弐参先生の他の作品はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ