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アルムの都に戻った俺たちは、武具のメンテナンスをするためにアルムの商業区に来ていた。
「まったく、ランクが上がればお金持ちになれると思ってたのに、上を見ればキリがないわよねー」
「そうだね。武具の維持費だけでこんなになくなっちゃうとは思わなかったよー」
メンテナンスに出している最中のキャロとティミーの、愚痴のような嘆き。毎度のように聞いている気がするが、これも仕方のない事だ。
現在、キャロが装備しているのはミスリルの軽鎧、手甲、そして剣である。クーは、ミスリルの大剣とその全身甲冑。ティミーは弓がミスリル製なだけで、衣服は丈夫な魔法繊維でできたものを着用している。俺も剣、手甲、脛当てはミスリル製だが、やはり維持費が高い。
当然、貯金こそしているものの、ミスリル製の武具はメンテナンスで一つ金貨十枚。刃こぼれや損傷が酷ければ、買い直さなくてはいけない。
元が高価なだけに、冒険者たちが悲鳴をあげるのも無理はないだろう。
ゴールドランクパーティだったころの平均報酬は、依頼一件につき金貨約三十枚。二十枚の依頼もあれば、五十枚の依頼もある。勿論、面倒臭さはそれに比例する。俺一人で片付ければ、そりゃ損傷も少なくて済むが、サクセスも、勿論俺も、それはパーティのためにならないと思っている。
先日、プラチナランクパーティになる事ができた。これでようやく水晶宮に行ける事になった訳だ。魔物のランクも当然上がるが、得られる報酬も多くなる。そして、何よりあの水晶宮には、サクセスのおもちゃが置いてあるそうだ。
おもちゃとは即ち、魔王のアーティファクト。俺たちのパーティに使えそうなものらしく、元魔王のサクセスが俺に教えてくれた訳だ。
『おい、今、元魔王とか言わなかったか?』
『滅相もございません。魔王様』
『言ったな』
『言ってねぇよ』
サクセスは俺の目の前でマントに皺をつくり、恐ろしい顔を浮かび上がらせる。
まったく、自室に戻ってからだからいいが、困った魔王様だ。俺は町で配られていた号外新聞を手に、そんな事を考えていた。
『何を見ている、ディルア?』
『ん? 近隣の村にゴブリンの群れが現れたって話だな。えーっと、これは東南のリンダ村だな』
『…………ふむ』
サクセスは意味深な事を呟くも、それ以上の事は言わなかった。ゴブリンが村を襲うなんて珍しい事でもないのだが、何か思い当たる事でもあったのだろうか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
「よし、皆、冒険者カードの更新終わったかー?」
「ふふん、おっけーよっ」
「大丈夫っ」
「うん、できたぞー!」
三人が冒険者カードを持ってわらわらと俺の下に集まる。今では更新したら見せ合うのが、俺のパーティでの決まり事のような行事になっている。まぁ、こんな事するパーティは珍しいんだけどな。
キャロ:十六歳
ランク:ゴールド
スキル:天風/超剛力/剛体/ブレイク
常時スキル:底無し/炎耐性B/金剣
魔法:上級雷魔法
称号:金剣
筋力:71 体力:61 速力:63 器力:56 魔力:50 運力:8
まず、キャロ。
ランクがゴールドになった事で、能力向上スキル以外にブレイクというスキルを得た。これは、硬度の高い魔物に対して有用なスキルで、ダメージが通りやすくなるものだ。常時スキルの底無しは俺も過去習得した事があるが、これは俺に対抗するために必死で頑張っている証拠だ。おそらく三人の中でプラチナランクに一番近いのはキャロだろう。もしかしたら、水晶宮から戻ったらなっているかもしれない。
炎耐性がBなのは、いつぞや黒焦げになって帰ってきた時に付いたものだろう。理由を決して話さないのがキャロらしい。上級雷魔法にはいつも助けてもらっている。イマイチ使いどころをわかっていないのが玉に瑕だけどな。
運力が相変わらずないが、バランスのとれた冒険者である事にかわりはない。独自の解釈だが、運力は、多少なりとも注意力に起因しているのではないかと思う。キャロってかなりドジだし。
そんなキャロでも、金剣なんて呼ばれる程に成長している。これからも色々な意味で目を離せない存在だ。
クー:四百三十三歳
ランク:ゴールド
スキル:威嚇(重)/超剛力/超剛体/ブレイク
常時スキル:タフネス/獣の嗅覚
魔法:上級土魔法
称号:撃墜女王
筋力:87 体力:99 速力:95 器力:40 魔力:55 運力:39
大地を割る事はできないが、砕いて揺らす事くらいならできるようになったクーさん。
パーティの前衛として素晴らしい能力を持っている。偶然出会ってしまったプラチナランクの魔物とも渡り合えてしまう程の力は、パーティの要と言えるだろう。アルム地方では、攻撃が多様な魔物も多く、正に獣の感性で放つ威嚇系のスキルには助けてもらっている。
土魔法がこれ程成長したのは、暇を見つけては魔法で遊んでいるからだろう。魔力こそ低いものの、好きこそ物の上手なれを体現しているとも言えるだろう。長居しているアルムの都の宿には、クー作成のディルア土人形が置いてある。というか、クーが部屋に置いていった。全然似てないけどな。
魔族ならではの身体能力のおかげで、プラチナランクレベルの実力をもっているが、器力と魔力はやはり低いままである。それは父親であり魔王の右腕でもあった、勇将ゴディアスの影響もあるのかもしれないな。
撃墜女王なんて呼ばれているが、クーは涼しい顔をして跳びまわっているだけだ。
土魔法なら足場も作りやすいしな。
ティミー:二十三歳
ランク:ゴールド
スキル:必中/天風/剛力/サーチ
常時スキル:慈愛/タフネス
魔法:上級火魔法/上級回復魔法
称号:蒼弾の射手
筋力:50 体力:53 速力:60 器力:73 魔力:72 運力:43
パーティ内の姉御肌、ティミーさんは俺と一緒で特殊なスキルを覚えた。サーチというスキルは、使えば魔物の弱点がわかるという優れたスキルだ。弓という遠距離武器を使うからこそ得られたスキルだと、サクセスが言っていた。
アルムの都に来る前、ティミーの常時スキルの慈愛について、サクセスすらもわからないと言っていた。
アルムの都に着くと、明言していた通り中央区にある大図書館に行ったティミー。調べてみると、この常時スキルの説明は非常に抽象的だったそうだ。ティミー曰く、「私は皆がそれだけ好きって事だね、うん!」と元気よく言っていた。サクセスと色々話し、パーティメンバーへの好意がパーティに影響を与えるのだろうという結論に至った。あれほど頭を抱えていたサクセスは、本当に珍しく噴き出しそうだった。
火魔法と回復魔法はついに上級に至り、今ティミーは、パーティに欠かせないメンバーだと言えるだろう。弓と繊細な魔法を操るティミーがいれば、戦闘に幅ができて魔物の討伐も楽になる。パーティの人気者である。
蒼弾の射手って二つ名が付いた時、ティミーは恥ずかしがって部屋から出てこなかった。まさか自分に二つ名が付くとは思わなかったのだろう。しかし、ここはアルムの都。ゴールドランカーにもなれば、自然と二つ名で呼ばれる事もある。これには慣れてもらうしかないだろうという事で、キャロとクーに協力してもらってティミーを部屋から連れ出し、慣れさせた。まぁ、未だに呼ばれると顔を真っ赤にするところは、オジサンとてもいいと思っています。キャロなんて喜んで子供のようにぴょんぴょんと跳び回ったのにな。
ディルア:二十七歳
ランク:ダイヤモンド
スキル:神風/神眼/超剛力/超剛体/サーチ/ブレイク
常時スキル:大天使の加護/無心臓/千里脚(裏)/炎耐性S/統率
魔法:上級風魔法/上級闇魔法/中級回復魔法
称号:魔王
筋力:123 体力:100 速力:138 器力:98 魔力:102 運力:88
現在では一人で魔物討伐に赴く事は少なくなった。しかし、ない訳ではない。適度に起こるサクセスの気まぐれなのか、今でも深夜や休みにソロパーティで動く事もある。だからこそ、マスターランクも近いと噂されるようにもなったが、イマイチ成長している実感はない。スキルは更に一段階向上したものもあるが、成長を止めているものもある。そして常時スキルに至っては、統率が増えた程度。これは、パーティの戦力向上というよりも、安定性が向上するそうだ。これもまた抽象的でわかりにくい常時スキルだったが、どうやら指示した時の言葉に力が宿るようだ。戦闘中色々やるようになって「指示が板についてきた」とサクセスに言われたのが原因なのかもしれない。
魔法技術も上がり、風魔法と闇魔法も上級となった。しかし回復魔法は中級で止まっている。これはおそらく魔王の称号が原因なのではないかと疑ってしまう。サクセスは「わらかん」と言うばかりだったが、その可能性は非常に高いだろう。まぁ、パーティには上級回復魔法を使えるティミーもいる。そこまで気にする必要はないかもしれない。
アルムには冒険者が多いからな。闇魔法を使ってたり、エンシェントドラゴンのハーディンに乗ってたりしたら、そりゃ魔王とか言われても仕方ないと思ってしまった俺がいる。
今回の水晶宮というダンジョン攻略で、何が起きるかはわからない。だが、これも現魔王、ヴィクセンを倒すためだ。精一杯頑張らないといけないな。




