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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第1部
37/76

037

「嘘嘘嘘ぉおおおおっ? 何でこんなところにエンシェントドラゴンなんかいるのよ?」

「サクセスさんが言ってた手段ってまさか?」

『あれに乗ってアルム地方へ行くのだ』

「翼を見た時にそう思ったよ! くそ! 全員後方へ退避!」

 俺の掛け声で、ティミーとキャロが後退を始めた。が、しかし!

「クーッ?」

 クーの反応がなかったのだ。

「ぁ……あぁ…………」

くそ! 完全に委縮してしまっている!

『口元に魔力が集中している。ブレスが来るぞ!』

 サクセスのそんな声より早く、俺はクーの正面に立っていた。

 そう、手が勝手にダークダイブを発動していたんだ。

「クー! (かが)め!」

「…………っ!」

 全身甲冑(フルアーマー)の全身から擦れるような金属音を出し、クーは身を小さくした。

「ディルア! 危ない!」

「ディルア!」

 岩陰から聞こえたのはキャロとティミ―の声。どうやら退避が間に合ったようだ。

 だが、クーは……! くそ! くそっ! やるっきゃねぇ!

『サクセス!』

『何だ?』

『クーに何かあったらぶっ飛ばす!』

『ふはははは! その意気やよし! 腕を大きく開き後方への面積をなるべく減らせ!』

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 吐き出された巨大なブレス。それは、今まで見た事もないような炎の勢いだった。まるで、世界の全てを焼き尽くすかのような……。

「「ディルアーッ!!」」

 背後から聞こえる二人の声。次の瞬間、俺は炎に包まれた。

「グルルルルル………………ッ」

生温(なまぬる)い風よ。初手としてブレスを吐くのは後々の魔力を考えれば悪くない手ではある。……が、今回は相手が悪かったようだな。なぁ? ……ディルア』

「へ……へへへ…………さっすが神様お墨付きの炎耐性Sだな。サクセスに守ってもらわなくても……軽い火傷で済んだじゃねぇか……」

「ディ、ディルアー!」

「お、おい! クー? 抱きつくな! 重い重い! あ、鎧の隙間で俺の首挟んでる! 痛い! 痛いってばっ!」

「「ディルア!」」

 どうやらティミーとキャロの二人も戻って来たようだ。

 クーの無事を喜びたいところだが、今はそんな事をしている場合じゃない!

「ランクAの魔物だ! 全員遊撃に回れ! 俺が相手する!」

「「うんっ!」」

「はぁあああああっ!」

 発動した天風、超剛力、超剛体。皆もそれぞれ能力向上スキルを発動したみたいだ。

『逃げられては困る。まずは翼を狙え』

『うぇ? でも翼が駄目になったらアルムへは――――』

『――――従わせた後、回復魔法を使えばいい』

 まったく、どうやって従わせるんだか…………俺にはそれが疑問でならないよ。

「エンシェントドラゴンの視界に入るなよ! 散開!」

 それぞれに散ったパーティメンバー。

 本来、俺たちのパーティが倒せるのはランクBまで。それは、パーティランクが平均でブロンズという結果から導き出されるの冒険者の常識。しかしブロンズのパーティがランクBの魔物を討伐するかといったら、それは安全マージンを無視しなければ出来る事ではない。ブロンズパーティがランクBを倒すという冒険は中々出来る事ではない。だが、今回はランクAだ。ブロンズどころか、メタルパーティでも相手する事は稀有な例といえよう。ゴールドランカーがいるシルバーパーティなら或いは……!

「ガァアアアアアッ!」

「だがやるしかないよなっ! はぁっ!」

 ディープルウィンドで宙を掴み尾撃をかわす。

「嘘ぉっ? 何アレ超かっこいい! 私もやりたい!」

 風魔法をキャロが覚えたら教えてやるか。……覚えたらな。っ! 何っ?

 何と、エンシェントドラゴンは俺の不規則な動きにも付いてきたのだ。くそ、流石ランクAだ。反射神経一つとっても一級品だな!

「うぉっ!?」

 エンシェントドラゴンの手によって弾き落とされる身体。

 大地にめり込む身体が勝手に反応する。

『今だ、と言いたいところだが、既に整っていたか』

「おりゃっ!」

 必中を使って狙ったエンシェントドラゴンの翼。撃った瞬間、魔弾はこれまで以上の魔力を備えていように感じた。よし、行けっ!

「グゥルァアアアアアアアアアッ!!」

 大きく円を描いた翼の穴。これなら……俺の攻撃が通る!

「怯んだぞ! 援護頼む!」

「あーん! とっておきだったのに相手がエンシェントドラゴンじゃ見せ場にならないじゃなーい! エレクトロンフィズッ!」

「ディルアを信じるって……決めてるんだから! ブレイズアローッ!」

「クー! 頑張る! ソルティドッグッ!」

 うぉ、皆凄いな!!

『キャロのエロクトロンフィズ。泡状の雷を放つのか。速度も悪くない……なるほど、これは素晴らしい。直線的に雷を放ち敵を狙うよりも、範囲を拡げている。それにクーのソルティドッグ……まさか土塊(つちくれ)の犬を作るとは本当に下級魔法なのか? いや、あれはデコイか! 魔力を伴ったデコイであれば魔物を騙すにはちょうどいい! 素晴らしい判断だ。そしてこの中で一際異才を見せつけたのが……ティミー。エンシェントドラゴンに火が効かないのは明白。しかしティミーが選択出来る魔法は回復魔法と火魔法のみ。だからこそティミーは撃ち放ったブースターとして火魔法を用いた。面白い……ディルア、このパーティ…………面白いぞ!』

 まるで魔王軍でも作ってるような言い方は気になるが、確かに皆の成長は素晴らしい。

 キャロは俺と同じでエンシェントドラゴンの翼を狙い一時的な麻痺を考えた。クーはデコイを作ってこれからくる攻撃が少しでも分散されるようにした。そしてティミーは……――――、

「ギィァアアアアアアアアアアッ!!」

 ――――エンシェントドラゴンの右目を狙いその死角を増やした!

 エンシェントドラゴンに下級魔法なんて効く訳がないと若い冒険者なら考えるだろう。しかし、その中でも必ず出来る事がある。それを俺のパーティメンバーは全員知っていた。いや、それ程の鍛錬をしたという事か。……なるほど、ティミーに一旦パーティを預けて正解だったかもしれないな。

「ガルァッ!!」

 尻尾を振り回してソルティドッグを壊すエンシェントドラゴン。やはり魔物にこのデコイは通じる!

「クー! じゃんじゃんソレ頼む! キャロ! 反対側の翼にソレ集中! ティミー! あいつの嫌がる攻撃バシバシ頼むわ!」

「うんっ!」

「ソレじゃないし! 私だけ頼まれてないんですけどっ?」

「任せて、ディルア!」

『ディルア、次に狙うのは尾だ。可動の元を痛めつければ、そこは動かなくなるだろう』

『つまり、尻尾の付け根って事か!』

『そういう事だ』

 皆の援護、ディルアの助言と防御力。俺が出来る事なんてたかが知れているが、俺にしか出来ない事だって必ずある!

「ウィンドファイバー! ……くそっ! 切り傷程度か!」

『もっと圧縮するのだ。中級の魔法が使えるならば更なる魔力の供給が可能だ! いけ! ディルア! お主にやって出来ぬ事はない! 唱えろ! ウィンドファイバークロス!』

「ウ……ウィンドファイバークロス!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「よし! 切断までじゃないが結構いい感触!」

『むっ、また来るぞ。ブレスだ!』

「ブレスくるぞー! 退避ッ!」

 皆が再び散開し、再び俺はエンシェントドラゴンの正面に立った。

 よし……背後に誰もいないなら――!

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ??」

「――くらう訳ないだろうがぁあああああああっ!」

『当然だな』

 吹き飛ばされる勢いだけ殺し、俺は防御の全てをサクセスに任せた。

 その間、俺が出来る事は一つ。魔力を限りなくスリングショットに集め、そして放つ事!

「ぬりゃっ!」

「ギィイイイイイッッ?」

 ブレスの直後、肩部に当たった魔弾と怯むエンシェントドラゴン。そして再び皆が出て遊撃に回る。

『歯車がかみ合うようにパーティの動きが練られている。いや、今もその途中……か。我だけの力ではない成長速度。ククククッ! ディルア、褒美をやろう!』

「うぇ? それってまさかっ?」

『左様、極意の伝授の時間だ……!』

 またぶっ倒れたりしないだろうな? いや、今の状況を打開出来るならそれもアリか!

『さぁ、我に続け!』

「おぉ! やってやる!!」

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