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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第1部
33/76

033

「おぉ~! 久しぶりに見えたな! ジョシューの町!」

 やはりというか何というか、一睡もせず走らされてようやく着いたジョシューの町。

『この冒険者ギルドでラウドの町での討伐依頼の報告をしたら休むといい』

「はぇっ?」

 自分でも不思議なくらい気持ちの悪い声だったと思っている。

 思わず出てしまった言葉に、周りからの視線がとても恥ずかしい。

『何だ? まだやり足りないのか?』

『いや、流石にくたくただけど、どうした? 大丈夫か? マントでも破れたか? もしかしてついにヴィクセンに本体が滅ぼされた?』

『……貴様、いくら長い付き合いだからといって、魔王に言っていい事と悪い事があるであろう?』

『言っていい事の中から選んでるつもりだ』

『くっ! ええい! いいから休むのだ! これは命令だ!』

 ふむ? 何だろうこの掌返しは? まぁ折角の厚意だ。ありがたく受け取ろう。

 俺は冒険者ギルドに報告を終えた後、ギルドの宿に部屋をとり部屋に入るや否や…………落ちるようにベッドに吸い込まれ、そして深く眠ってしまった。

『……見事だ。人の身でよくここまで耐えたものだ……』

 そんなサクセスの声は聞き間違いだったのかもしれない。

 そうだ。アイツがそんな事言うはずがない。



「…………ん? ここはどこだ?」

『ここはジョシューの町の冒険者ギルド。その宿だ。そして間もなく五日目の朝だ』

「五日目って事は、ここにはいられて一日じゃないか? やっぱりストロボで――」

『――その一日が貴重なのだ。死にたくなければさっさと依頼を受けに行け』

 噛み付くように言ってきたな。やっぱり昨日のアレは幻聴だったんだな。

 俺は簡単な食事を済ませ、ギルドの受付までやってきた。

『さて? どんな依頼がいいかな?』

『あれを最優先で受けろ。それ以外はあの依頼に近い場所で出来る依頼がいいだろう』

 サクセスは周りの人間に気付かれないように小さく揺れ、俺にその依頼票がある位置を知らせた。

『何々? ジョシュー火山に生息するランクCの魔物討伐十匹? 何だこれ? 明確に魔物の指定がないじゃないか?』

『知れた事。それだけ魔物が巣食っているという事だ。簡単に言えば、《掃除》だな』

 なるほど。高ランクになってくると、こんな依頼もあるのか。なら、えーっとメタルランクの依頼だと……残るはこれと、これかな?

『ほぉ、中々のやる気だな』

『見た感じ一番報酬がいいんだよ、コレ系の討伐依頼』

『なるほど、金は大事……という事か』

 守銭奴と呼ばれようが、それは別に構わない。今以上の装備に新調するならば、今後お金はいくらあっても足りないだろう。ならパーティで一番高ランクの俺が出来るだけ頑張って稼いだ方が効率的だ。

「すみません、この三つの依頼をお願いします」

「かしこまりました。掃除(スイープ)の討伐依頼ですね…………え?」

 掃除(スイープ)……そう呼ぶのか。なるほど、覚えておこう。

 ギルドの受付のお姉さんはまるで「これ全部お前一人でやるつもり?」と言いそうな顔だ。

 あれ? 顔が変わったぞ? 「お前どっかで見た事あるな?」って顔だ。

「あら? アナタは?」

「へ?」

「以前冒険者同士のトラブルを解決してくださった方ですね。お久しぶりです」

 あぁ、この人は確かケンたちの居場所を教えてくれたギルド員か。ジョシュ―に長居はしなかったが、覚えていてくれたようだ。

「…………凄まじい成長ですね。もうメタルランク……いえ、あれだけの行動が出来た方です。今回のこの三件も成功の確証があっての事なのでしょう。かしこまりました。…………はい、どうぞお気を付けて」

「あ、ありがとうございます……」

 何だか気恥ずかしくなったな。ギルド員に顔を覚えられるというのは中々経験がないものだから緊張してしまった。

『今の内に慣れておけ。その内アルムの都にある冒険者ギルドの常連となるのだ』

『わかってるさ』

『ならばよい』

『とりあえずジョシュー火山周辺の掃除(スイープ)の依頼二件を片付けちまうか。その流れで火山に向かえばいいだろう』

 サクセスの同意の声と共に、俺は北にあるジョシュー火山へ向かった。


「あれ? ここら辺って確かスリングショットを見つけた盆地の方だよな?」

『そうだ。その盆地からは少しそれ、更に奥へ行った場所がジョシュー火山だ』

 そうか。そういえばスリングショットを手に入れたところでランクCのゴーレムと戦ったな。やっぱりあそこら辺はランクCの魔物が多いのだろう。

 山道を歩いてると不思議な感覚に囚われた。

 あれ? 全然(つら)くないな? 山道ってこんなに楽だったっけ?

「……ふむ? ん? ん~?」

『何だ先程から? 落ち着きがないぞ、ディルア?』

『いや、身体が軽いのなんのって……うん。うん。っ! おいサクセス、凄いぞ! 冒険者カードの更新してないのに昨日より断然速くなってる!』

『はぁ……愚か者め。昨日までのディルアは一体何日稼働し続けたと思っている? たとえメタルランクになっていたとしても疲労には勝てぬ。それが回復した今、本来の力に戻っているだけだ』

『だからって……こんなに顕著に出るものなのか?』

 俺が跳び跳ねたり走り回ったりしていると、サクセスが再び溜め息を吐いてから俺に説明してきた。

『ディルア。お前はソロといえどもパーティともいえる。ソロパーティという呼び名くらいは知っておろう?』

『たまにそうだったからまぁわかるけど……』

『天使の加護というのがそのパーティ全体の能力を底上げする常時スキルだ。それもあって顕著に感じるのだ。……ふむ。どれ、風魔法とスキルを併用して得意の脚を見せてみよ』

 風魔法ってウィンドファイバーしか習ってないような気がするんだが、気のせいだろうか?

 まぁ、サクセスがそれを忘れている訳がないか。それでもこう言ってるって事は、自分でなんとかしろって意味なんだろうな。

 そういえば、風魔法に関しては中級になったんだった。そろそろ俺のオリジナル魔法があったっていいだろう。どうする? 風で背中を押す? いや、それじゃありきたりだ。ならば前方から風を起こす? いやいやそれだと単純に風の壁が出来るだけだ。速度が遅くなる事はあっても速くなる事はないだろう。

 なら、ならどうする? 前方の風を…………引き寄せる? 近いな。そうか、引き寄せるんじゃない。引き寄せるんじゃなくて……引っ張ればっ!

「どうだっ!」

『ほぉ。正面の風を掴み、引き寄せ、そして置き去りにするように引っ張る事で加速を得たか。なるほど、ただの凡愚には及びもつかないアイディアだ』

「だろ~?」

『深く見えぬ風を引っ張る魔法か。差し詰めディープルウィンドといったところか』

 なっ、勝手に名前付けやがって……! いや、しかし悪くない名前だ。まぁ、こんな魔法もサクセスがいなければ得られなかった魔法だ。名付け親くらいにはしてやろう。

「よっ! ほっ!」

『これ、スキルと併用するのだ』

 あ、そうだった。身体の底から力を込めるように。

「むんっ!」

 身体が一瞬緑光に包まれ、天風の発動を知らせる。

「うおっ? 何だこれ?」

『目を慣らすのだ。ディープルウィンドで風を掴んで方向転換、そして奇襲するように加速! 周りに障害物があれば、それを足場に跳べ! いや、飛ぶのだ!』

「くっ! このっ! それっ! よ! ほい! よっと!」

『今だ! ダークダイブ!』

「いきなり……過ぎだろっ!」

 でも出来た。山道の中央に降り立った俺は、まるで自分の身体じゃないかのような感覚に、その手を見つめる事しか出来なかった。

『くくくく、凄まじい奇襲技だ。並の冒険者では目で追う事も出来ないだろう。その身のこなし。天性のものだとは思っていたが、まさかここまで開花するとは思わなかったぞ……!』

 サクセスが凄く嬉しそうだ。まるで自分の事のように。

 まぁそうだよな。俺が強くなれば、それだけ自分の復活に近付くんだから。

『その速度は攻撃力にも転化出来る優秀な恩恵だ。自信を持つとよい』

「……お前が素直に褒めるのは珍し過ぎる。何か悪いもんでも食べたか?」

『ふん、我に口などないわっ』

 むすっとしたサクセスだったが、本気で怒った訳でもなさそうだ。

 

 俺はその後周辺の魔物を数十体倒し、掃除(スイープ)の討伐依頼を二件こなした。

 簡単だったが故に自分の成長を目の当たりに出来た瞬間でもあった。

 シントの町でくすぶっていた俺が、まさかランクCの魔物をこんなにあっさり倒せるなんてな……。

「よっと! ……ふぅ、これで火山の掃除(スイープ)も終わったな。帰って報告かな~」

『待て』

 帰ろうとする俺の足を止めたのはサクセスの声。

『何だよ? 帰って依頼を受けまくった方が効率的だろう?』

『無論だが、それは後で嫌というほどやってもらう』

 それは既に嫌だな。

『じゃ、じゃあ何だよ?』

『とりあえずこの道を真っ直ぐだ』

 真っ直ぐって言ったって…………この先は……。

火口(かこう)しかないんだけど?』

 おれのじとっとした視線と言葉に、サクセスは何も答えてくれなかった。

 そして、マントの端が、ひょいと少しだけ動いた後、

『ディルア、すまない』

『え?』

 マントが動き、ぐいと引っ張られる俺の身体。

『手が滑った』

『マントに手なんかあるかよ』というのが、俺の最後の言葉。傾く俺の身体が悟ったのは、火口に向かって真っ直ぐに落ちているという事実。ただそれだけ。

「う、嘘だろぉおおおおおおおおおおっ?」

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