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剣よし、スリングショットよし、マントよし! 昼食のパンも持ったし、全て問題ないな!
『うっし! それじゃあ準備はいいかね? サクセス君っ?』
『昨日あれだけの事をされ、その軽薄さは感嘆の言葉しか出ぬわ……』
『そんなに怒るなよ。途中からお前も笑ってたじゃないか?』
『魔族であっても、色々な意味でおかしくなれば笑うという事実を身をもって知る事にはるとはな……』
『何だ、楽しかったんじゃないのか?』
『当たり前であろう!』
「ふはははは! やれるものならもっとやってみろ!」とか人の脳内で叫んでたのはどこのどいつだろう? あぁ、ここのコイツだ。
『ふん、覚えておれとは言ったものの、その復讐は今日させてもらおう。それがわからぬ宿主でもあるまい? ディルア……』
『まぁ、そんな気はしてたからな。今日は頼むぜ、相棒!』
『ぬ! ちょ、調子が狂うような言い方をするでないっ!』
ったく、じゃあ何て言えばいいんだよ。変な魔王もいたもんだな。
ティミーたちは三人で臨時のパーティを結成し、既に魔物討伐へ向かった。
まぁ意気込んだキャロが早起きしたせいなんだけどな。安全マージンをしっかりと考えたリーダーのティミーが頑張ってくれるに違いない。
ティミーたちと約束した合流予定は一週間後、互いの成長を見るのが楽しみではある。
『まず、情報を整理しておくか』
『情報?』
『ディルア、お主の今のランクはブロンズ、相違ないな?』
念のためここに着いた時に更新はしたが、ランクが変わったという事はなかった。
『あぁ』
『我の記憶では、それより上位のランクは全部で七つ。メタル、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、マスター、レジェンドだったはずだ。それは今も変わってないであろうな?』
『流石、よく知ってるな』
『シルバーだ』
『へ?』
『ディルアにはこの一週間でシルバーランクになってもらう』
『シルバー?』
『さぁ、デスマーチの始まりだ……?』
嘘だろ?
「いやぁあああああああああああああああああああああああああっ? 何で! こんなところにゴブリンの集落があるんだよ?」
『ほれ、後ろは我が防ぐ。正面より迫るゴブリンの頭をよく狙って潰せ!』
「答えになってねぇよ! どう見ても百匹はいるだろうっ!」
『我の魔力感知から読み取るに……二百五十二匹いるはずだ!』
「倍以上じゃねぇか?」
『そんな気はしてたのだろう? これくらいやってもらわねばヴィクセンを止めるなど夢のまた夢ぞ!』
「くぉおおおおおっ! やってやる! ヤッてやる! 殺ってやるぞぉおおおっ!」
『ふふふふ、その意気よ。その意気、その熱気、その闘気、その殺気! 全てがディルアの成長の助けとなろう! 移動は全て駆け足だ! 止まる事など許さんぞ! ふははははははっ!』
「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ?? 何で? 何で依頼以上の魔物を討伐しなくちゃいけないんだよ? わざわざ巣穴に入る事ないじゃねぇか? ていうかもう朝なんですけど?」
『成長に朝も夜もあるか! このまま休まず約束の日まで突っ走るに決まっているだろう! 安心しろ! 寝てしまったら我が叩き起こしてくれよう!』
「冗談言ってんじゃねぇよ! それこそ死んじまうだろう! 何だよこれ? ランクDのヘルスネークが大量だよ! 地獄かよ!?」
『地獄なぞもっとぬるいわ! 魔王の魔王たる訓練を、神が作ったぬるま湯なぞと一緒にするでない!』
「既に地獄越えかよ!?」
「神さまぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!! 魔王が! 魔王がいじめるんですぅうううううっ!!!!」
『神なんぞに祈るでない! 我を崇め、我に祈るのだ! この苦痛を…………もっと! となぁ?』
「馬鹿じゃねぇの? どんなドMだよそれ! さっきから戦ってるのランクBの魔物ばかりじゃねぇか? ムシュフシュとあれだけの差を見せつけられて何でこんなコース選んじゃうんだよ? 馬鹿! やっぱりお前魔王じゃないな?」
『ムシュフシュと戦った事でランクが一つ上がっているであろう。従って、あの時よりかは楽に倒せているではないか。それと、我を馬鹿呼ばわりするでない! 至高の存在なのだぞ! そんな我が一介の冒険者に付き合ってやってるのだぞ! もっと我を尊敬しろ』
「ムシュフシュとのあの戦闘はトラウマなのっ! へん! そんな一介の冒険者の助けがないと、ヴィクセンに仕返し出来ないんだから笑っちゃうよなっ?」
『む、ムシュフシュだぞ』
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ???」
――――そんな。そんな……まるで魔王の後継者を育てているかのようなサクセスの訓練は、そのまま三日三晩続いた。少しでも足を止めると、サクセスが激昂し、そしてマントで俺を締め付けた。
そんな訳で、冒険者ギルドから討伐依頼を受ける時、完了報告をする時、排泄の時以外は全て駆け足だった。
そして四日目、俺はフラフラになりながら冒険者カードの更新をしたんだ。
ディルア:二十六歳
ランク:メタル
スキル:天風/必中/超剛力/剛体
常時スキル:天使の加護/底無し/千里脚
魔法:中級風魔法/下級闇魔法/下級回復魔法
筋力:30 体力:35 速力:60 器力:45 魔力:41 運力:27
『ふはははは! 出たな! 新たなユニークスキルが!』
『うぉおお……これは…………っ』
聞いた事のないようなスキルばかりが目に入り、その都度サクセスに確認する。
まず天風。これは疾風の上位スキルだ。これによって疾風以上の素早さを得られ、不死系の魔物や魔族に対しての耐性が付くそうだ。これについてはサクセスというマントがある以上いらないかとも思ったが、何が起こるかはわからないんだ。あって損はないだろう。
次に必中。これはスナイプの上位スキル。これを使った直後の攻撃は神の力によって決して外れる事はないのだと。これによって素早い魔物は……全てスリングショットで圧倒出来るはずだ。最近は普通に射出してもほとんど当たるようになってきてるけどな。慣れという名の経験則からきてる精度だな。
超剛力は、剛力の上位スキル。主に攻撃力を上げる時に必要だ。至近距離に迫った敵には、これと防御能力向上である剛体を使って戦闘をするのが冒険者の基本である。
まぁ俺の場合はサクセスがいるから剛体は必要ないが、剛体は疲労緩和にも効果がある。ここから先、使う頻度は高いかもしれない。
常時スキルも進化している。天使の加護によってパーティの皆の能力がこれまでより底上げされるし、タフネスの上位常時スキル、底無しによって俺の体力は更に増えた事だろう。
『ふふふふふ、狙っていたスキルをいただけたのは素晴らしい……!』
そしてサクセスをしてこう言わせた常時スキルが、千里脚。単純な体力に関わってくるのではなく、移動に消費する体力を消費しない常時スキルなのだ。ソロの時、これは非常に有用なスキルだ。だからサクセスはあれほど止まらず走らせたのだろう。
以前サクセスが言っていたな。身の丈に合わない事をしでかした場合、こういったユニークスキルを得られるって。
要約するならば、冒険者は冒険してナンボだ。そう言いたいのだろう。神様は。
『しっかし、下級回復魔法を得られたのは大きいが………………何で闇魔法なんだよ?』
『以前使った我が極意が起因であろうな』
『深淵の血塊の事か? まぁ魔王の極意なんだから闇に近い要素は十二分にあるだろうけど、あれは魔法でもスキルでもないんだろう?』
『左様。我を触媒とする事で放てる魔王の極意。しかし闇魔法をこれほど早く覚えるとは、もしや神め――――』
『おい、何なんだよ? 意味深過ぎるぞっ』
『くっくっくっく…………気にするでない。我にとっても、ディルアにとっても、悪い事ではないからな……!』
『だったら尚更――――』
『――――常時スキルやスキルを覚えたのだ。ティミーたちとの合流まで扱きに扱いてくれるわ……! くくくく、覚悟しておくのだな、ディルアよ?』
うん、やっぱり魔王だな、コイツ。




