025
キャロの一言によって決まったクーを入れた初のパーティ討伐。
魔族であり人狼であるクーの冒険者登録がうまくいくか不安だったが、意外や意外。すんなりと出来てしまったのである。やはり神様も清い心には勝てないという事だろう。
『神め……魔族を使役しようとは小癪な! しかし、これも考えようだ。この恩恵の力を魔族も使えるとなれば、魔王軍の増強もしやすくなるというもの……ククク。墓穴を掘ったな……!』
とかサクセスが言ってたが、神はそんなに甘くないと思ってる。
多分クーだけだろう。他にいたとしても、それはクーみたいな子に限られるはずだ。
まぁ今回、それ以上に厄介なのはあそこの美少女だろう。
「何でぇ……何でなのぉおおお!」
頭を抱えながら世界に問いかける様子は、ティミーも苦笑する程だ。
キャロが悲痛を叫んでいる理由。それは勿論――――、
「何でディルアのランクがもうブロンズになってるのぉおおおおおおおおっ?」
ギルドでのパーティ更新の際、上手く隠したつもりだったが、すぐにバレてしまった。
まったく、キャロはどうしてそんなに俺の冒険者カードを凝視するのだろうか?
そんなに目の敵にされているのか? ソロでの行動の制限こそされなかったが、ティミーでさえも驚いていたんだ。早いところサクセスの件を……全てじゃなくても掻い摘んで伝えた方がいいよな。
まぁ次のアルムの都に着いたら伝えるつもりだし、これから先はパーティでの行動も多くなるからあんまりソロ活動もしないはずだ。……そう思いたい。
「頑張ってるんだね。男の子、偉い偉いっ」
ティミーの優しさだけで生きていると言っても過言ではない今日この頃。ティミーの瞳の奥には「いつか話してくれるんでしょう?」という色が見てとれる。
はい。そう遠くない内に、必ず……。
「ディルア、この剣、借りていいのか?」
「勿論さ。ないと戦闘にならないしな」
完全に失念していたのが、クーの武器の事。
そうだよな。全身甲冑だけで戦闘に参加させようってのが間違いなんだ。
まぁクーの剣を買うお金がないだけなんだが、俺は遊撃に回れるし、クーの武器を買うお金が貯まるまではこれで何とかなるだろう。
「ここら辺よね? 今回の討伐対象の縄張り……」
いつもの口調ではあるが、ティミーの警戒度はしっかり上がっている。
弓に手を添え、腰も落としている。
今回の討伐対象はランクDのヘルバウンド。シントの町で依頼を受けた対象と同じ魔物だ。
俺たちのランクも上がり、ノービス以上のパーティであればランクDは適正といえる。
だが、今回目撃されたヘルバウンドの数は四匹。ソロであればランクCの依頼にもなり得る危険度ではある。勿論、俺がこの依頼を受けたのはサクセスの助言があったからだ。
『このパーティでこの依頼を消化出来なければ、それはお主のせいだ、ディルア』
それ程、サクセスはこのパーティの実力を信頼しているという事だろうか。
あれから詳しい話をサクセスに聞いてみたら、人狼であるクーの冒険者ランクはビギナーであっても、実際にはレギュラーランクの冒険者並みと言っていた。
なるほど、確かにこれで勝てなければ俺の采配ミスという事に他ならないな。
「……っ! ディルア」
「どうした?」
クーが小声で話しかけてきた。出会った初日ではあるが、クーがこういった行動にでるとは意外だ。
何だ? クーの鼻がひくひくしている。
「……もしかして、臭いで魔物の位置がわかるのか?」
「今まで、そうだった」
「よし、臭いの強い方へ前進。少しずつな」
「うんっ」
……とんでもない能力だな。そうか、人狼の特性か。
これは冒険者パーティにとってかなり有力なのでは?
勿論サクセスが把握する魔力感知の力もあるが、それは直接俺に下りてくる情報だ。当然、サクセスが発信するからにはそのタイムロスもある。周りに情報を共有させるとなると更に時間がかかるだろう。
しかし、前衛であるクーが敵の位置を把握出来るとなると、効果的な戦術パターンは飛躍的に増える。
『どうだディルア? 大した“当て”であったであろう?』
『大変だ。サクセスがキャロみたいだ』
『なっ! 我をあのような娘と一緒にするでないっ!』
『なら黙ってドンと構えててくれよ。魔王なんだろう? それとも俺に褒められたかったのか?』
『一体いつ我がそのような事を言ったというのだっ。ほ、褒められたい訳がなかろう! 我は当然の事をしたまでだっ』
本当にキャロみたいだ。
だが、これ以上言うとキャロ以上に怒りそうだからやめておこう。
「……来る!」
「戦闘準備!」
「待ってました!」
「正面、狙いOKよ!」
キャロとティミーがそう言った瞬間、クーの正面から彼女と似たような瞳を持つヘルバウンドが跳びかかってきた。
「たぁ!」
正に一閃。クーは軽い口調で上段から剣を振り切った。
ヘルバウンドの頭部は真っ二つに裂けた。
「……うっそ」
そんな声が聞こえたのは後方左から。つまりキャロの声だ。
そりゃそうだ。俺だって驚いた。ビギナーでこれ程動ける冒険者はいない。
シントの町で無数のビギナー冒険者を見てきた俺が言うのだから間違いない。
「まだくる……」
クーの言葉に警戒は更に増す。
そう、依頼を受けたヘルバウンドの数は四匹。残り三匹はいる計算だ。
「ガァアアアアアアアッ!」
流石ランクDの魔物だな。今度は這うように向かってきた。
瞬時に襲撃方法を変えるだけの知能はあるか。だが――――、
俺の横を通った風切り音。その音とほぼ時を同じくして、ヘルバウンドの額に深く刺さる一本の矢。
「お見事!」
「負けてられないもんねっ」
後方から聞こえるティミーの嬉しそうな声。相変わらず良い腕してるよな、まったく。
『左前方より二匹くる。注意しろ』
「左から接近! キャロ、バックアップ!」
「まっかせなさいっ!」
二匹の接近であれば俺が倒せるのは一匹まで。一瞬でもキャロが繋いでくれれば……!
「よっと!」
スリングショットの魔弾はヘルバウンドの胴体に当たり、一瞬にして千切れ飛ぶ。
これでキャロが…………ってあれ?
「な、何でぇ……」
今にも泣きそうなキャロの目の前には、剣を振り上げてヘルバウンドの胴体を斬り裂く人狼の美女が一人。
『さすがゴディアスの娘だ。素晴らしい反応速度……!』
サクセスの顔があれば、今頃薄気味悪い顔を浮かべているんだろうな……。
「ナイスだ、クー。よく反応出来たな」
「あれで、よかった?」
「勿論だ」
甲冑から聞こえる声は少し恥ずかしそうだったが、初戦は見事という他なかったな。
寧ろ、物足りないとも言えるレベルだ。まさか全身甲冑を装備してあの動きとは……魔族ってのは本当に侮れないんだな。
「わ、私の活躍はぁ?」
「わかった、わかったから。これならもう少し欲張れるかもしれない。すぐに冒険者ギルドに戻って新しい依頼を受けてみよう」
「活躍ぅ……」
「やらないのか。キャロ?」
「や、やるに決まってるでしょ!」
最初からそう言えばいいのに。まったく……。
その後、俺たちは冒険者ギルドに戻って報酬である金貨三枚を受け取ると、文字通り冒険をしてみる事にした。そう、ランクCのパーティクエストを受けたのだ。
「リザードマン……か」
キャロが珍しく緊張の声を出している。
「それも二体……」
ティミーも同じだ。
だが、この依頼を消化出来れば、俺たちパーティの自信はかなり向上される事だろう。
サクセスが何も言わないんだ。俺はその信頼を信じるだけだ。
「いけそうか、クー?」
「一体だけなら、頑張れそう」
クーをして接戦という予想ならば、もう一体は俺が引き受ける事になりそうだな。
『…………いるな。中々の魔力だ……!』
「戦闘準備!」
やってやる……!




