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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第1部
13/76

013

「うわーい! うわーい! はぁあああ~っ!」

 ピョンピョンと(かえる)のように跳びはねるキャロ。両手で空高く掲げているのはキャロ自身の冒険者カード。

 いつの間にか、ジョシューとストロボの国境まで残り半分というデュナミスの町まで付いた俺たちは、その冒険者ギルドまでやって来た。

 過去最高の遠出に、様々な魔物を倒した俺たちがする事は、やはり冒険者カードの更新だった。

 そこでキャロの冒険者カードに変化が起きたんだ。

 ビギナーだった冒険者ランクはノービスに変わり、ステータスも向上した。勿論それは俺たちも一緒なのだが、ランクは上がらなかった。結構魔物を倒したと思ったんだが、やはり討伐依頼をこなした方がランクは向上しやすいらしい。

「筋力上昇! ほほ~っ! すごいすごいー!」

 どうやらスキルも手に入れたようだな。

「ねぇねぇディルア。何か討伐依頼受けようよー!」

 はしゃぐキャロに、俺とティミーは苦笑する。俺も確かにランクが上がった時は喜んだものだが、キャロとは違った感動だった。しかし、キャロの気持ちがわからない訳でもない。

「仕方ないな。ティミー、何かよさそうな依頼はあるか?」

「ん~、そうねぇ。あっ、これなんかいいんじゃない? 北の森にいるダックアビール討伐」

 ダックアビール。確か鳥型の魔物だ。人間の死骸から装備をくすねて剣や兜を振り回す怪鳥だ。

 魔物としてのランクはD。ヘルバウンドと同じだ。

 ノービスのパーティになれば、ランクEやDの魔物を討伐する事も多くなる。全員がノービスならば受けてもいい依頼かもしれないな。幸い北の森はここに来る間に見えていたから遠くもないだろうしな。

「よし、夕飯は少し遅くなっちゃうかもしれないけど、行ってみるか」

「はーい」

「うんっ!」


 北の森に着くと、いきなり複数の一角ラビットの群れに囲まれてしまった。

 現れる前に三匹まで仕留めたのだが、それ以上に数が多かった。

「残りは六匹か。ティミーは俺の後ろを! キャロ、側面をフォローしてくれ!」

「「わかったわ!」」

 二人の返事を聞き、俺は剣を抜いた。ここまでの至近距離となると、やはりパチンコは使えない。至近距離専用のアーティファクトも欲しいところだが、そこまで我儘を言うとサクセスに怒られるかもしれない。

 最近は至近距離での戦い方もわかってきた。

「ビィイイイッ!」

 俺に向かって跳び込んで来る魔物ランクEの一角ラビットだが、俺はそれを正面から受け止める。いや、それを迎え撃つんだ。

 正面にある一角ラビットの牙を恐れずに向かっていける。ダメージがないというのは非常にありがたい。その恐怖心のコントロールが出来るようになったのか、サクセスのマントありきの戦闘を覚え始めたのか、攻撃に転じた相手に対し簡単にカウンターを打ち込めるのだ。

 一角ラビットに体当たりをかまし、身体を回転させ、他の一角ラビットを仕留める。ヘルバウンドを倒した時同様、吹き飛んだ一角ラビットの下まで反転ジャンプ。着地と同時に二匹目を仕留める。

『ふふふ、上々だな』

「ラビットファイア!」

 ティミーの奇襲魔法ラビットファイア。

 威力こそ低いが、魔物の背後に回り込んでヒットさせる便利な魔法だ。

「ビビビビッ?」

 ランクE程度の魔物であれば有用性は高い。

 そしてキャロは――――

「ふっ! はぁっ! あ、ちょっ、待――――っこの!」

 まだまだ危なっかしいところもあるだろうが、順調に成長している。ノービスランクになったから動きに幅も出ていて今は混乱しているところもあるが、そのうち慣れるだろう。

「やぁっ!」

「ビィ…………」

 ティミーが五匹目を倒したところで最後の一角ラビットが硬直し、反転し、逃げ始めた。

 チャンス! これならばパチンコで……! よっと!

「ビィッ?」

「……ふぅ。よーし。周囲を警戒。この調子でダックアビールも倒してしまおう」

「おー!」

「うふふふふ」

 うん。散々しぶったキャロのパーティ加入だったが、ティミーに対して中々の働きを見せているぞ。

 ふふふふ、キャロめ。たまには役に立つじゃないか。

『…………ふむ?』

『ん? どうした?』

『少し遠いので大丈夫だとは思うが…………』

『何だよ、歯切れの悪い言葉だな。何かあるなら早めに言ってくれよ?』

『…………確信が強くなったら言おう』

 何だよサクセスのヤツ。少し不気味な感じだが、まぁ時期がきたら言うかもしれないな。


「はぁっ?」

「グェエエエエッッ? ……グエェ」

「よーし、ダックアビールも難なく倒せたな。こんなに早く見つかるとは思わなかったけど、ティミーもキャロも頑張ってくれたな。ありがとう」

「なーに言ってるの。ディルアが前衛をしっかりしていてくれたから私もキャロも上手く立ち回れたのよ。こちらこそ感謝してるわ」

「ま、私に比べればまだまだだけど、よくやってる方だと思うわ。それより、まだ戻るには早いわよね? もう少し探検していく?」

 キャロの提案にティミーは俺の指示を待っている。見たところ二人共まだ余力はありそうだし、他の魔物と戦って戦闘経験を積ませるのも――――

『いや、今すぐ町へ戻った方がいい』

『どうした?』

『急げ。今すぐにこの森を出ないとキャロとティミーが死ぬ』

 さっき言ってた確信ってやつが強まったのか。もしかして協力な魔物が接近しているのかもしれない。

 俺だけならばサクセスのマントのおかげで死ぬ事はないだろうが、二人がいるとそれは危険に繋がる。

「いや、キャロには悪いが今日はここまでにしよう。旅の疲れは残さない方がいいからな」

「え~~、ぶーぶー! 今皆テンション高いんだからいけるとこまでいこうよー!」

「だ~め」

 凛とした態度でキャロの不満を流していると、ティミーが俺に耳打ちをしてきた。

「ディルア、キャロちゃんもああ言ってる事だし、少しくらいならいいんじゃない?」

 折角の良いタイミングを壊したくないというティミーの考えもあるのだろう。しかし今の俺はある程度サクセスの進言を信頼している。まぁこれまでの過程がなければそれはなかっただろう。

 そうだな、ティミーになら言っても構わない、か。

「悪いな。少し嫌な予感がするんだ。俺だってこの雰囲気を壊したくないんだけど、何か胸騒ぎがしてな」

「……そう、なの? ならしょうがないわね。キャロちゃんには私から上手く言っておくから」

 キャロの終始不満な声が俺の後ろから聞こえてきたが、ティミーの説得のおかげで無事森を抜ける事が出来た。だが――――

『説得の時間が少し掛かり過ぎたようだな』

『ま、まじ?』

『急ぎ二人を町に帰せ。死んでもよければ話は別だがな?』

 ったく、よろしい訳ないだろうが……!

「あ、二人共悪い。ちょっともよおしちまった。悪いけど先にデュナミスの町に帰っててくれっ」

「はぁ~? いいわよ。待ってるから行ってらっしゃいっ」

「いや、長くなりそうだからさ。ハハ」

「どれくらいよ。パーティなんだから――――ん、ティミー?」

 ティミーは口をへの字に結んでいたキャロの腕を掴む。

「じゃあディルア。私たち先に帰ってるから気を付けて帰って来て。ね?」

「おーうっ」

 そう言って俺は森の中へと戻った。

『あの娘、ティミーか。実力以外の実力を持っているな。貴重な人材だ。大事にするといい』

『ほーんと、毎回助けてもらってるよ。それで、どうすればいい?』

『先程のダックアビールを倒したところまで。急げっ』

 心なしか、いつもよりサクセスの語気が強い気がした。それ程の脅威という事か。

 またあのゴーレムのような…………っ! ぞくりとする記憶を呼び覚ますが、自分に気合いを入れるために頬を数回叩いた。

「……うし、速度上昇っ! ふっ!」

 スキルを使い走り始めた俺は、先程の場所まで最速で向かった。途中、正面から無数の魔物が俺の横を通り抜けて行った。獲物である俺を通り過ぎて反対側へ。

「……どういうこっちゃ」

『今はあやつらが獲物になっているからだ。間も無くだ。覚悟しろ……』

『嫌だがするしかないんだろっ!』

 草木を分け辿り着いた先程の場所。そしてそこには――――なっ?

『なるほど、こやつだったか』

 巨大な蛇の顔。しかし胴体はライオンのようで、鋭い爪を持った脚も生え、土色に見えるその鱗状の体表の最奥(さいおく)、尻尾の部分にはサソリの尾のようは異様な棘が付いている。

『人間の世界で言うところの魔物ランク()。――ムシュフシュだな』

 ランク……B。


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