011
「ねぇディルア―、あの子ずっと付いて来るよー?」
くそ、わざわざ北門から出て西門に出たっていうのに! 何でバレたんだ……!
『流石の我も、あの小娘が怖くなってきたわ』
ティミーに対して大見得切った俺だったが、現状ではジョシューを離れる事は出来ず。ティミーと二人で話し合った結果「少しずつ世界を見る」という残念な方向性に決まった。
『いやーははは、あの時の空気のぶち壊し感は我も噴き出してしまうところだったわ』
というのがサクセスの嫌味。まぁ事実だから反論の余地はなかったけどな。
だからこそ、だからこそキャロの動きには細心の注意を払っていたんだが、十中八九討伐や採取に出かけると見つかってしまうのはなぜだ?
町中で撒いたとしても、町の外に出た時にはそこにいる。冒険者ギルドで引き受けた討伐を確認している事は勿論わかるんだが、何故見当外れの門から出ても見つかるのかが…………わからん。
「私は別にあの子がパーティに入ってもいいんだよ?」
……もうあの時みたいに腹を括るしかない……のか。
『確かに、キャロに振り回されるより飼い慣らしら方が手間がかからないかもしれぬな』
と、いうわけで、討伐は後回しにしてジョシューへ戻った俺たちは、何故ジョシューに戻ったのかわからないキャロが挙動不審になって付いて来たところを待ち伏せした。
「おぉっ? や、やぁ偶然だねぇ~」
「どの口が言うか、お前ぇ!」
呑気に驚いて見せたキャロの頬をつねって伸ばす俺と、それを見てあたふたしているティミー。
「ふーへんはっへ、ふーへん」
「毎度背後を歩かれるのが偶然だったら、奇跡すら霞んで見えるってーの!」
パチンと頬を放す。
「はえっ? 気付いてたのっ?」
「何で気付いてないと思ったのっ?」
「ねぇ、ディルア。それ位にしておきなよ?」
ぬぅ、流石にティミーに迷惑は掛けられない。ただでさえまだ回復し切ってないのに……。
「キャロ、お前うちのパーティに入りたいんだろ?」
「うん! 入り――――い、いえ。は、入ってあげてもいいわよ?」
何故これだけ上から目線で言えるのだろうか?
「こんのぉ……――――」
「――――はいはいはいはい。そっかぁ、キャロちゃんが入ってくれたら良い戦力アップになると思うの。もしよかったらなんだけど……パーティに入ってみる気、ある?」
ティミーはなんて優しいんだ。今までも色んなメンバーとケンの間で挟まりながらも上手くやってたしな。こういう俺が頭に血が上った時なんかは力を発揮してくれるって事か。
「ふふん。そこまで言うのなら仕方ないわね。私があなたたちを助けてあげようじゃないのっ」
鼻高々にそう言い切ったキャロに、ティミーは自然な苦笑いを浮かべた。
ん? いつもより自然体な感じがする。もしかしてキャロがいる事でティミーの気が紛れるのかもしれないな。面倒なやつだが騒がしくはしてくれるからな、キャロは。
そういった意味で、キャロの加入が出来るだけ良い方向に傾いてくれる事を祈ろう。
「リーダーは私だからねっ」
何故パーティに入った? それなら自分でパーティを作れと言ってやりたい。耳元で叫んでやりたい。
「それは……ちょっと難しいかな?」
苦笑したティミーの言葉に、少しだけ不服そうなキャロだったが、
「そう。ならしょうがないわね」
と、すんなり引いてくれた。
コイツの中で随分軽いんだな、パーティリーダー。
「よっし! それならこれから宜しくね。改めて、キャロよ」
「ティミーよ」
「はぁ……ディルアだ」
数日間考えたキャロからの逃亡作戦だったが、水泡に帰すとはこの事だな。
「それで? これからどうするの? まだキラービー討伐してないじゃない?」
何故俺たちが受けた討伐内容を知ってるのか突っ込んだらいけないのだろうか?
是非突っ込ませて頂きたい。いや、言うだけ無駄か。
「……はぁ、前に言っただろう? パーティ組む時は冒険者ギルドへの申請が必要なんだ」
「それは覚えてるけど、別に申請しなくても討伐に支障は出ないんじゃないの?」
「ダメだ、頭痛くなってくる。ティミー、説明してやって」
俺はキャロとの論争とも言えぬ論争に匙を投げ、ティミーに拾ってもらう事にした。こういうのはティミーの得意分野だしな。
「確かに皆バラバラで、パーティを組まないでも討伐は出来るんだけど、そうすると依頼を報告した時にパーティでやったと認められないのよ」
「ふんふん」
「けど、ギルドでパーティ申請をしてから依頼をこなすと、それが認められるの。これがどういう事かわかる?」
「ん~~……はっ! 皆がバランスよく成長出来るっ?」
これ見よがしに正解だろう? とアピールするのはどうかと思う。
「せいか~い。一番大事なのは冒険者カードの更新が偏らないためにする事よっ。よくわかったね、キャロちゃん♪」
「ふっふーん。そういえばそんな説明を受けた事があったわっ」
ただ忘れてただけかよ。やっぱりちゃんと説明は受けているみたいだ。
一時期てっきり変なルートでギルド加入したのかと思っていたが、流石にそんな事はないか。
しかしティミーはキャロの扱いがうまいな。伊達に色んな人間のフォローをしてないな。
『しかしよいのかディルア?』
『何がだ?』
『我は勿論構わぬのだが、お主の負担が増えないとも言えぬぞ?』
『……今度は俺の弱点が出来たって言いたいのか?』
『ほぉ、これは驚いたな。いや正にその通りだ。この短期間でよく周りを見られているという証拠か……』
そうだ。今俺はサクセスのマントに守ってもらっているが、それがパーティメンバーに適用される訳じゃないんだ。ティミーやキャロに危険が迫った時、俺が出来る事は限りなく少ない。
…………だからこそ。だからこそ俺はティミーとパーティを組んだんだ。サクセスだけじゃない、俺の力を育てるために。そしてティミーと共に成長するために。
キャロという新しいパーティメンバーが増えたからといって、それが変わる訳じゃない。
皆で、少しずつ成長すればいいんだ。
「さて、ティミーと俺はノービス。キャロは案の定ビギナーか」
「ふぇ? 何でっ? いつの間にっ?」
俺たちが受けてる依頼を調べてる時点で気付いて頂きたいものだ。
「キャロの剣は現状マイナス要素にはならないと思う。だから今回は引き続きキラービーの討伐を行う。場所はここから西の草原地帯。先頭は俺、間をキャロ。ティミーは最後尾だ」
「「はーい」」
ふむ、息は合っているな。
「戦闘の際は、俺が敵の正面を引き受けるからキャロは遊撃に回ってくれ。ティミーは魔法で後方支援」
「はーい」
「遊撃って、何?」
早速ずれたな。
「臨機応変に動く人間の事だ。やる事が多くて一番大変かもしれないが、それだけやりがいのあるポジションだ。出来るか?」
「そりゃぁ一番大変なポジションなら私がやるしかないわね~。にゅふふふふ」
たまにあの頬はつねりたくなるな。頃合いを見て引っ張ってやろう。
『まったく。しかしパーティの戦力が増えた事は決して悪い事ではない。我も使える駒が増えたという事だ。これならば次はあのアーティファクトを狙えるかもしれんな』
『へぇ、魔王のおもちゃってまだ他にもあるんだな』
『ディルア。お主、わざと言っているのではないか?』
『ソンナコトナイヨ。キノセイダヨ』
『ふん。心話でも饒舌になってきたようだな。我の後継人は……』
『俺が一体いつお前の後継人になったんだよ』
『さて、いつだったろうな。ふふふふふ』
――――無論。最初からだ。