デート?いいえ、食事です。
女神エレナの一件からしばらく。
アイビスとの洞窟生活も大分慣れてきた。
当初は魔王として、また俺の主としての振る舞いか、偉そうな感じだったが。
何分この洞窟にはアイビスからの魔力で魔物はほとんどおらず、
居てもその魔力を餌にする無機物系モンスターのスライムやらである。
たまに、洞窟に巣食う大蝙蝠なんかをアイビスはこぞって捕まえ、丸焼きを提供される訳だが。
もちろんそんなゲテモノお断りな美食家な俺は断固拒否で、そうされるとアイビスは頬を膨らまししばらく口もロクに聞いてくれないのだった。
まぁ俺はこの世界でのバグ探しのデータだから食わなくとも問題は無いが、如何せん会話出来る相手はアイビスだけなので機嫌取りに涙流し、無理くり頬張るのだった。
アイビスの魔城・・・もとい洞窟はただの穴倉である。
とても居心地なぞ考えていないだろう。
魔王の親父と喧嘩しての家出少女?なアイビスが、ただそこに居着いただけの様で、
剥き出しの岩肌からは安らぎ等、皆無である。
「なぁ。アイビスよ。」
ゾンビな姿から普通の社畜サラリーマン形態になって普通に会話出来るようになった俺は尋ねる。
「お前、魔王ならそれらしく洞窟住まいやめね?」
「なんでじゃ?妾はここが気に入っておるぞ?ここはジメジメしてて暗く、年頃の乙女な妾はお肌もプルプルじゃ。」
うるせぇよ。誰が乙女だ。
「妾の実家は山一つの頂上であったからのぅ・・・ここは見晴らしが悪いと言う点は満足しておらんのぅ・・・」
うんワイルドだよね。
魔族ってみんなそうなのかな?
「あのね?アイビス。お家って大事だよ?」
どんなに疲れていても、それが例え寝に帰るだけでも。
自宅の安心感は必要だ。
自分のパーソナルスペースで休むという事は、ストレスからの解放と共に、精神衛生上でも必要である。
「はて?オウチとわなんぞ?」
はい?
「ほら、自宅とか寝床とか住まいとか、そう言った…………」
「なんじゃ?それは?」
魔族と言うのは野生の動物よろしく、野宿が基本なのだろうか?
だとしたら、俺が求める安らぎの為にも。
またこの世界を知るためにも。
一度見ておかねばなるまい。
「アイビス?ちょっと人間見に行かない?」
アイビスは頬に紅差しこう言った。
「人間狩りかの?」
断じて違う。
そう言うと、アイビスはお腹辺りを抑えながら
「妾も蝙蝠程度では満たされんと思っておった所じゃ。ほら、早く行こうぞ。」
と、大変な間違えをされつつ洞窟を後にした。




