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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
8/36

8話

割り込み投稿になります。

以前と内容は変わりません。


 夜が明けた早朝。

 その後一睡も出来るはずもなく朝を迎えた彼らルーテリア王国騎士団だが、その顔に疲労はなかった。疲労に勝る仲間を失った怒りが彼らを奮い立たせていた。


「これより我らは森の中に入る! すでに敵の奇襲を受け、我らの仲間にも尊い犠牲が出た! だが我らはここで立ち止まるわけにはいかん! 如何なる事があろうと、我らが騎士団に敗北は許されん! 恐れるな! 我らは誇り高い、ルーテリア王国騎士団だ!」


 ――――――オオオオォォォォォ!!


 騎士たちの前に立つヴォルドの激に、騎士達は剣や槍を掲げて呼応する。

 森の中はすでに白王の領域であり、道中で被害が出る事は重々承知の上だった。

 一部の騎士は怪我が酷く十人程度の騎士がこの場に残り、簡単な治療と王国へ救助の依頼を出し、残りの騎士25名はそれぞれに班分けされて、白王の討伐に向かう事になった。

 最初に森の中に入ったのは、ヴォルド率いる第一班七名で、その中には第一騎士団副団長の姿もある。白王討伐の主力として向かう事になる。

 

 次に森に入ったのは、エラノア率いる第二班九名で、ヴォルドの班とは別の方向から白王を攻める予定だ。


 そして最後にカイル率いる第三班九名だ。

 

 気合は十分に、白王の討伐を果たす為に森の中に入っていく各班。

 ヴォルドの策では、ヴォルドの班が最初に森の中心にたどり着く予定だ。

 

「………妙だな」


 ヴォルド、カイルの班とは別に動いているエラノア達の班が、最初に妙な違和感に気づいた。

 すでに二班とは大きく離れ、すぐには合流出来ない位置にある。

 森の中は、整地された道と違って悪路が続き、重い鎧を着た彼らの体力を確実に削る中、先頭を歩くエラノアの足が止まる。


「どうされた、エラノア殿」


 立ち止まったエラノアに、その後ろを歩く騎士の一人が首を傾げる。

 エラノアが感じた違和感を、その騎士は感じ取る事は出来なかった様だ。


「先ほどから私の感知内に入ってきては、すぐに出て行っている生物がいる。恐らくは奇襲のタイミングを計っているのだろうが、それにしては時間が経ち過ぎだ」

「では、既に我々は囲まれているという事ですか?」

「かもしれん。用心してくれ」


 エラノアが優れた騎士である事は明白であり、この場にそれを疑う者はおらず、エラノアの指示で警戒度が高まる。

 全員が剣を抜き、盾を構える。

 そのエラノアの用心さが幸いし、それから間もなく猛然と走りくる巨大な獣のような姿を確認した後、一人の騎士がその獣に吹き飛ばされたが、しっかりと盾で防いだのをエラノアは確認出来た。


「二つ首――ヘル・ハウンドドックだ! 奴らは群れで動く! 注意せよ!!」


 その獣には、胴が一つに対し首が二つあった。

 皮膚や毛がなく、巨大な犬のような見た目ながら、非常に気持ちの悪い姿をしている。

 この東の森に生息する魔獣ではない、魔物に分類される生物だ。


「全員、気を抜くな! まだ来るぞ!!」


 エラノアの指示の後、言った通りに四方を囲むように、更に四体のヘル・ハウンドドックが現れる。

 しかしこの魔物は、見た目こそ気持ち悪いがそれほど高い戦闘能力も、特殊な能力を持っている訳ではない。

 心臓を突き刺すか、首を一つでも斬り落とせば簡単に倒す事が出来る。

 そして彼らとて経験こそ少なくとも、ルーテリア王国騎士団の団員であり、ヘル・ハウンドドックに後れを取る程に鍛錬を怠っていなかった。


「私が三体を引き受ける! 残りは頼んだぞ!」

「はいっ!」


 走り出したエラノアの身体に淡く光が灯ったかと思うと、それまでと比べ物にならない速度で移動し、他の団員の目には映らぬ速度で瞬く間に一体の首を落とし、即座に二頭目に移っていた。

 他の騎士も負けじと、その身体が淡く光り始める。


 身体強化の魔法。

 それは魔法と呼ぶ程に高度なものではなく、原理として魔力さえあれば誰でも扱える肉体を魔力で覆い、一時的に強化する術だ。

 当然の様に彼らはそれを扱う事が出来、先ほど吹き飛ばされた盾を持った騎士もその寸前に身体強化を行っていた。


「でぇやっ!」


 騎士の一人が飛び出して振るった剣が、ヘル・ハウンドドックの首を切断する。

 ヘル・ハウンドドックが五体すべて倒されたのは、それから間もなくの事だった。




 *


 ヴォルド率いる第一斑は、森の中心に近づいていた。

 道中に魔獣、魔物の襲撃もなく、彼らの探知には何も引っかからない。

 それが逆に恐ろしく、より一層の警戒を高めていた。


「ロイ、周囲に気配は何もないのか?」


 ヴォルドは横を歩く男――ロイに声を掛ける。

 ロイ・マッカス。

 中年に差し掛かる年齢のこの男は、第一騎士団副団長であり、探知、そして剣技にも長けたヴォルドの片腕であった。

 

「気味が悪いほどになんもねぇよ、団長。こりゃやべぇな」

「ふむ。となると、カイル殿かエラノアの方に向かったか」


 ヴォルド達に攻撃が集中しないのは、つまり他が狙われているからと考える。

 実際に、その通りにエラノア達は襲われていた。


「それで団長、本当にエラノアちゃんに何も言わなくて良かったのか?」

「無論だ。これは王の命であり、エラノアが知るべきではない事だ。良くも悪くも、あの子は素直過ぎる」

「カッ、ほんとアンタは妹に甘ぇな。んま、団長がそれで良いってんなら、オレはもう何も言わねぇよ」


 と、二人して雑談を交わし、和やかに進んでいる最中に叩き付けられる威圧。

 言葉にしなくても、七名全員理解出来た。

 白王は、もう近くにいる……と。

 

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