入口
おかしな点があれば訂正します。
村の調査の為にエラノアと分かれた後に颯斗は、エラノアに一つ頼み事をされた。
それは村人の遺体を焼く事。
いつまでもこのままでは、やがて腐り果てるのを待つだけ。
それに死体は放置すればアンデットと呼ばれる魔物に変異することもある。
そのため、魔法を使えぬエラノアに代わって颯斗が死体の処理をする事になった。
「凄まじい魔法制御の腕だな」
颯斗の魔法を間近に見て、あらかた村を調べ終わったエラノアはそんな感想を口にした。
的確に死体だけを、その肉片も残さず燃やし尽くす青い炎。
燃やし尽くした後は、燃え跡も残っていない。
エラノアの記憶にはない魔法だ。
それにエラノアは、颯斗が魔法陣を描いていない事にも気づいていた。
それがどう意味なのか、魔法使いならば理解出来ただろう。
だがそうではないエラノアは、起きた現象だけを見て賞賛した。
正直なエラノアの気持ちとしては、颯斗にこんな事をさせるのは反対だった。
エラノアは、颯斗ーーーー勇者の事を何も知らない。
出会ったのは数日前、それも数言言葉を交わしただけだ。
エラノアが知っているのは、兄であるヴォルドを倒すだけの力量があるという事だけ。
後は取るに足らない情報ばかりだ。
竜車の中でさえ、エラノアは颯斗の事を知れるほどの会話もなかった。
無残な死体を前にしても眉一つ動かさず、今も淡々と死体とはいえ人を焼いている。
感情が希薄なのではない。
その点でいえば、エラノアは颯斗が感情豊かに見えた。
それだけに、そうさせている自分が思うべきではないのだが、颯斗が不気味に見えた。
「あらかた終わったよ、エラノアさん」
「あ、あぁ。うむ。済まないな、このようなことをさせてしまって」
「全然構わないよ。それよりも、おかしいよね」
「ん? 何がだ?」
「僕達がここに来る前、確かに上がった煙を見ていたよね。なのにこの村は荒らされてるけど、どこからも火は上がってないんだよ」
颯斗に言われた事は、エラノアも気づいていた。
立ち上る黒煙も、しかし火元がなければ上がることはない。
しかしこの村は滅んでから死体の腐敗が進むだけの日にちが進んでいる。
「やはりどこかに、まだこの村を襲った者が潜んでいるのかも知れぬな」
「だとしたら、あの森の中だね」
颯斗が指差したのは、村の隣にある森だった。
確かに、隠れているとすればそこしか考えられない。
それにこの森は、元々この村の者が狩りをするだけの魔物も魔獣もいない小さな森だ。
村の中に手掛かりがなければ、そこを探すしかない。
「変といえば、村民に争った跡がない事だな。どこにも、武器の類が落ちておらん。農具の一つもだ」
「変だね。まるで、村人達は村を襲った誰かを信用してたみたいだね」
信用して村人が集められた所で、襲い掛かる。
だとすれば、エラノアの疑問も解消された。
だがこの辺りは、他に村もなく騎士や兵士が立ち寄らない、辺境だ。
村人が信用するとなると、一体何者なのか。
「それを知る為にもやはり、森の中に入るしかあるまい。早ければ、今日の内に解決するだろう」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
「いや、ハヤト殿は此処で待っていてほしい。この村にはまだ何かある。それを探って欲しいのだ。何、日が落ちるまでには戻るつもりだ」
「それは別に構わないけど、大丈夫?」
「ふふ、グリフォン程度ならば1人でも大丈夫だ。何かあれば、合図を送る。派手な合図だ。すぐに分かるだろう」
そう言って、エラノアは森の中を進んでいった。
残った颯斗は、今度は家屋を調べることにした。
もちろん、森の中に人の気配がしない事は分かっていた。
あの煙はフェイクで、この村から遠ざけるための細工だ。
恐らくは、颯斗達の接近に気づいた何者かが仕掛けたのだろう。
颯斗の知覚は、地下にその存在を感じ取っていた。
その為、エラノアが1人で行動したのは好都合だった。
問題は、どうやって地下に行くかだ。
「どっかに隠し道でもあるのかな?
」
家屋の中を調べるが、そういったものは見つからない。
家の中は荒らされているが、金品や貴重品と思わしき物は残ったままだった。
だが別の家に入った途端、その違和感に気づく。
この家は、不自然なまでに荒らされているのだ。
不必要な家具の破壊は、他の家にはなかった荒らし様で、それゆえに違和感を覚える。
「これだね」
そしてその違和感は、一つの棚から注意を背ける細工だと気づく。
天井に近い高さの食器棚。
その周りだけは、不自然なまでに何も落ちていない。
他は足の置き場もないというのに、だ。
「ってことは、この後ろかな?」
食器棚に近づき、食器棚を片手で動かす。
颯斗からすれば、重さも感じない重量だ。
「ビンゴだね」
そしてその食器棚の後ろには、地下に通じるであろう階段があった。
気配は、この先に続いている。
エラノアを森に残し、颯斗はその階段を降りて行った。