獣人の村
朝が来た。
颯斗とエラノア、そして歩竜は軽い食事の後に出発する事となった。
ソウル草原は広大だが、歩竜の進みならば午後までにはソウル草原を抜けられる予定だ。
「ふむ、それにしてもやはり私達の考えすぎだったようだな。昨晩も何もなくて良かったよ」
「そうだね」
そしてエラノアは、また颯斗に記憶を弄られてしまった。
というのも、エラノアが目を覚ましたのは日が昇った後のことだった。
警戒を強めると言っておきながら寝過ごしてしまった事を悔い、謝罪を繰り返して若干うざったい感じになっていたので、仕方なく夜間の間何も無かった事にしたのだ。
最初から最後まで颯斗が悪いのだが、今回は不可抗力だと思っている。
「所でエラノアさん。この近くに村ってあるかな?」
「ん? あぁ、あるぞ。小さな村だが、一つだけな。ルーテリア王国には珍しい、獣人の多い村だ」
「へぇ、そういえば僕って城から殆ど出してもらえなかったから、村とか初めてなんだよね」
「そうか。ハヤト殿はそうであったな。では、今日はその村で宿を取るとしよう」
エラノアがそう言うが、颯斗は少し難しい顔をする。
「どうしたのだ、ハヤト殿?」
「いや、だったら急いだ方がいいと思うよ。多分その村、このままだと滅びるから」
颯斗は、そう言った。
✳ ✳ ✳
「これは、これはなにがあったのだ?!」
日が落ちようとする時刻。
村に近づいたエラノアが目にしたのは、黒煙が立ち上る村の様子だった。
エラノアは竜車から飛び出し、いち早く村にたどり着く。
無惨に破壊された家屋に、鼻につく死臭、死体は腐敗が進んでおり死後数日が過ぎているようだった。
「これは、人の仕業ではない......魔物か魔獣の仕業だ」
死体の一つには、肩から胸を引き裂く大きな傷痕があった。
他の死体には、胸を穿つ大穴や、潰れた様な死体もある。
女子供も関係なく殺されている為、盗賊の類によるものではなさそうだった。
「だとしたら、結構な大きさっぽいね」
「っ! あ、あぁ、ハヤト殿か。すまない、少々取り乱してしまった」
無残な死体を前に、息を飲むエラノアの後ろから颯斗が声を掛ける。
その後ろには荷を外した歩竜も付いてきていた。
騎士であり、先日も白王に殺された部下や騎士達の姿を目にしているエラノアでも、目を背けたくなるような光景。
だが颯斗は平然とした様子で、周囲を探っていた。
それがエラノアには奇妙に映った。
「足跡は少ないけど、残ってるみたいだよ」
颯斗に呼ばれ、エラノアが近づくと颯斗の足元に巨大な生物の足跡を見つける。
獣のような四足の足跡だ。
だが不思議なことに、足跡が異常に少ないのだ。
「これは……恐らくはグリフォンの足跡だ。空を飛ぶ巨大な4足の獣型の魔物だ。だが、グリフォンはここら辺には生息していない筈だが」
「もしかしたら、何か目的があったのかもしれないね」
言われて、エラノアは気づいた。
悲惨な光景だが、よく見ればおかしいのだ。
犯人が魔物だとすれば、ただの1人も死体が食い荒らされていないのだ。
「それに、村の住民の数が少ない。この村の惨状はグリフォンだろうが、人の手も加わっている......?」
「どうするの?」
「どうする......か。申し訳ない、ハヤト殿。今回の件、急を要する事は理解している。だが私は王国の騎士なのだ。騎士として、このような現状を見逃す訳にはいかんのだ」
エラノアの答えに、颯斗は笑みを浮かべた。
獣人の村を襲ったグリフォン。
その行方を探す為に、颯斗達は村を探索し始めた。