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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第二章
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宰相、アリシタ・ティニア

 

「ハヤト殿! 良かった、ここにいたのだな」


 王城の長い廊下を歩いている最中、珍しく颯斗に声を掛けたのはエラノアだった。

 錬金術師との一件以来、その後始末に追われていたエラノアを颯斗が見たのは久し振りの事だった。


「やぁ、エラノアさん。元気そうで何よりだよ。腕の調子はもういいのかい?」


 颯斗も振り返り、エラノアに声を掛ける。

 エラノアはあの一件で腕の骨を折るなどの重症だったはずだが、見た目にはそんな様子は見られなかった。


「うむ。我が家に秘伝の魔法薬があったおかげでこの通り、折れた骨も元に戻ったよ。今はフィリスマナ......あの錬金術師が残した研究所を調べている所だ。だが、あらかたそれも終わった所に、私の所に宰相殿が来られてな。何でもハヤト殿も連れてきて欲しいとの事なのだ。今から、時間を貰えぬだろうか?」

「勿論だとも。僕がやらなくちゃいけないことも、やることもないからね。本当はその錬金術師さんの研究所とやらの調査に僕も混じりたかったのに、王様に止められてね。暇を潰してた所さ」

「ふむ。しかし、ハヤト殿は錬金術に興味があるのか?」


 フィリスマナの研究所の調査に混じりたいと言った颯斗に、エラノアは疑問を口にする。

 エラノアは代々が騎士の家系に産まれ、勉学よりも鍛錬を優先してきた。

 彼女からすれば錬金術は小難しく、その概要を理解しても内容までに興味を抱けなかった。

 そもそもが、フィリスマナの過去の行いとされているクーデターにより、ルーテリア王国の錬金術師の処遇は良いとは言えない。

 殆どが、魔法使いや薬師としての活動の傍らに片手間に行う者ばかりである。

 その点においては、隣国のムルテニア帝国に大きく遅れているが、なかなか錬金術師の処遇が良くなるのは難しいだろう。

 その為、ルーテリア王国における錬金術はあまり進歩していない。


「興味があるというより、一度目にしておきたかったって感じかな?」

「ふむ。ハヤト殿が見たいと言えば、もしかしたら許可が下るかもしれぬな。私の方から話を通しておこうか?」

「ん、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ。ありがとう、エラノアさん。それよりも、宰相様が僕達の事を呼んでるんでしょう? さぁ、行きましょうか」

「うむ、そうであったな」


 エラノアが踵を返し、颯斗の前を歩き出す。

 その後ろで、颯斗は小さく笑みを浮かべた。


 エラノアは、錬金術師を倒したのが、颯斗である事を知らない。

 いやそもそも、颯斗が東の森に現れた事すら覚えていない。

 それはエラノアに限らず、あの場にいた殆どの騎士達が颯斗の事を覚えていない。

 そういった知識と技術が、フィリスマナにはあった。

 きっかけさえあれば、颯斗の膨大な魔力がそれを実現させる。

 少し誤算があったとすれば、颯斗の事を覚えている誰かがいた事だ。

 その誰かは、颯斗の魔法が通じない相手だという事が分かった。


(一体、誰なんだろうね?)


 その人物に関して、颯斗は調べようとはしていない。

 颯斗の行動は、常に監視下にある。

 今もどこかに、気配を隠した何者かが颯斗を見張ってる事だろう。

 その見張りを撒くのは簡単な事だが、今は必要性を感じていなかった。


「ここが宰相殿の執務室だ」


 エラノアが大きな両扉の部屋の前で立ち止まった。

 そして数回のノックの後、部屋の中に入る。


「第三騎士団団長エラノア・ハースです」

「えっと、僕はハヤト・カガミです」


 ルーテリア王国の騎士の礼をし、名乗るエラノアに続き、颯斗も名乗る。

 ルーテリア王国の宰相には、颯斗は何度か目にしているが直接話した事はなかった。


 壁には大きな書棚に本が丁寧に並べられており、部屋の奥に置かれた机に、その姿はあった。

 初老に差し掛かったであろう、白髪の混じった紺色の髪の細身の男こそが、ルーテリア王国の宰相という座に就くアリシタ・ティニアだ。


「良く来てくれたなエラノアくん、それに、初めましてでは......ないか。久し振りというべきかな? 私はアリシタ・ティニア。この国の宰相だよ」


 落ち着いた物腰で、アリシタは片眼鏡越しに颯斗に笑みを向ける。


「まぁ、積もる話もあるが、早速だが君たちを呼び出した理由を説明しよう。君たち、第三騎士団団長であるエラノアくん、そして勇者であるハヤトくんにお願いがあるんだよ。国王のご息女であられる、ミリシア姫を迎えに帝国の学園に行ってほしい」


 アリシタの言葉に反応したのは、エラノアだった。


「それは、我々二人だけで、という事でしょうか?」

「そうだよ。実は今、帝国は色々ときな臭いことになっていてね。先延ばしになっていた次期皇帝の座を巡って皇太子と皇女の間で小競り合いが起きてるらしくてね。このままだと、帝国が二つに分裂する可能性があるんだよ。その前に、君たちにはミリシア姫をこの国に連れてきてくれないかい?」

「それは分かりましたが、私達なのでしょうか? ミリシア姫を迎えに行くのであれば、少なくとも騎士団一個団体が行くべきでは無いでしょうか」

「何故君たち二人だけなのか。簡単なことだよ。これは極秘に行ってほしいんだ」


 アリシタの説明に、エラノアはまだ別の意図がある事に気づく。

 しかし、アリシタは説明する気は無いことにも気づいた。


「エラノアくんの第三騎士団が大変なのは分かっているけど、今はこっちを優先させて欲しいんだよ。勿論、旅の間の諸々は全部経費で落ちるから気にしないでいいから。なに、ちょっと帝国に行ってお姫様を迎えにいくだけの簡単なお使いだよ。白王の件は聞いてるからね。羽を伸ばすつもりで行くといいよ。さて、返事を聞かせてもらえないかな?」


 アリシタは、お願いと言った。

 だがこれは、実質断る事の出来ない命令だ。

 だから、エラノアの答えは決まっているが、颯斗はエラノアとは違い、王国に仕えている訳ではない。

 断っても、処罰も何も無い。


「ああ。僕かい? 勿論、構わないよ。よその国にも興味があったからね。それに、エラノアさんとの二人旅なんてこっちからお願いしたいくらいだよ」


 颯斗の意思を確認するように送ったエラノアの意思を汲み取ったように、颯斗は飄々とした態度で了承する。


「そうか! いやー、ありがとう。実は断れる可能性も考えてたけど、良かった良かった。国王はハヤトくんが国外に出る事に猛反対したんだけどね、ハヤトくんが了承してくれたって言えば国王も折れざるをえないからね。じゃあ、諸々の書類の手続きは私の方でやっておくから、一週間後に出発出来るようにしておいてね」


 こうして、颯斗とエラノアが帝国に向かう事が決定した。



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