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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
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颯斗とフィリスマナ


 偉大で邪悪な、天才錬金術師は、目の前で起きた現象に思考をフル回転する。 

 だが、卓越した技術と、培った知識を以ってしても答えは出なかった。

 計算上では、呼び出したオリジナルである白王一体で、森に侵入した騎士団を倒すのに十分な戦力だった。

 それでも、白王に命じて鼠を操り、数を減らしたのは確実に騎士団を壊滅に追いやる為だった。

 白王は頭はいいが、考えは獣寄りで人を相手するのに十分ではない。

 その点、フィリスマナの考えた人よりも遥かに小さな、森中に潜む鼠をけしかける作戦は、騎士団を減らす確かな手段となった。

 奴らは獰猛で、そして浅ましい。

 新鮮な肉が手に入るとしれば、命の危険等気にせずに白王の命令に従った。


 そして森に入った騎士達を、複製体白王で確実に数を減らしていく。

 複製体は本体に劣るが、それでも数だけは十分にあった。

 最後は、オリジナルの白王が全ての騎士達を殺しつくす。

 単純だが、失敗はあり得なかった。

 そこに、フィリスマナという駒を足せば、より確実に終わる。


 ――――何が起きた――――あり得ない――――魔力は感じられなかった――――魔法ではない――――あり得ない――――知らない技術――――計算違い――――何者だ――――白王は死んだ――――まだ死んでいない――――私の計算に間違いはない――――問題ない。


 その間、僅か0コンマ2秒。

 刹那の間に思考を終え、フィリスマナは平静さを取り戻した。


「あはは、そんなに怯えなくてもいいよ。今のところ、僕が貴方に何かするつもりはないからさ」


 ――――はずだった。


 見透かされた様に、突然現れた少年の言葉がフィリスマナに届く。

 

「ハヤト殿? 何故、ここに……」

「やぁ、エレノアさん。久しぶり、といっても、それほど時間は過ぎてないんだけどさ」

「あ、あぁ。……ではない! 何をしたかは知らぬが、『アレ』はまだ死んでおらん! こっちに来るな!」


 エレノアの言葉に、フィリスマナはほくそ笑む。

 そう、上半身が吹き飛んだ白王。

 しかし、死んだ訳ではないのだ。

 現に、今も白王の肉体は再生しようと傷口から無数の触手を固め、肉を形作っている。

 

「少々、そう。少々驚いたが、少年くん。そこのお嬢さんのいう通り、白王は死んでいない。何故ならば――」

「何故ならば、体内に埋め込んだ魔法生物がどれだけ傷をつけようと、再生させるから――っていうつもりなんだろうけど、全部吹き飛ばしてしまえば問題なさそうだね」


 フィリスマナが言い終わるよりも早く、フィリスマナの言葉を継ぎ、フィリスマナが言おうとした事を颯斗は言う。

 それにフィリスマナが驚くよりも早く、颯斗は動き出す。

 残った再生の最中にある下半身に向かって、引きずったままの白王を、投げつける。

 ただ、投げるだけではない。

 ボール大の大きさであれば、指から離れた瞬間に衝撃で消滅するような速度で、だ。


 無造作に投げつけるように、だが放たれた大猿は、音も、衝撃も置き去りにして一瞬で再生中だった白王の下半身を消し飛ばす。

 それから大きく遅れて、風船が割れる音を何十倍にしたような破裂音が響く。

 直に聞けば、鼓膜が破れるどころではない音と衝撃。

 だが、誰の鼓膜も破れる事はなく、白王の下半身以外に被害は出なかった。

 すべての衝撃と音を、颯斗は魔法で閉じ込めて封殺する。


「バ、バカな?! あり得ない! 一体何をした!?」

「見ての通りだよ。といっても、貴方では見えそうもなさそうだね。あーあ、折角ここまで来たのに、白王ってのも面白くなかったよ」


 狼狽えるフィリスマナに、颯斗はつまらなそうに首を振る。

 しかし、フィリスマナにとっては、それどころではない。

 白王の体内に仕込んだ触手――魔法生物は、特別だった。

 どれだけ致命傷を与えられようと、白王の前では無意味となる。

 そうなる、はずだった。


「面白くない……だと? ふは、ふはははは! ならば! これを前にして、そのようなセリフを吐けるか!」


 自身の最高傑作を貶されるというのは、フィリスマナにとっては許しがたいことだった。

 だから、彼は奥の手を披露する。

 鳴らされる指、同時に百にも及ぶ黒い闇が現れ、そこから異形の白王と思わしき――魔獣が姿を現した。

 だがどれも、エレネア達が目にした白王とは違う、本当の異形。

 体中から触手が蠢き、ある個体は右腕だけが異常に長く、ある個体は牙が太く発達している。


「これは、私の失敗作だ。命令を聞く知性すら持たぬ、魔法生物に突き動かされ本能のみで動き、私の指示も通らないが……この数に、勝てると思うか?」

「へぇ。つまり、この数で僕に襲い掛かるって事かい?」

「下手をすればこの森の生態系を全て殺しつくすまで止まらないだろうな! 止められるものなら止めてみろ!」


 エレノアを含む、数人の騎士が剣を構える。

 だが次の瞬間、この場にいる白王モドキ、フィリスマナ、颯斗を除く全員が倒れ込んだ。

 宙に捉えられたままだったヴォルドも、拘束から解かれ倒れ込む。


「何だ? 何のつもりだ?」

「貴方がルーテリア王国にどんな恨みがあるのか、それは分かった。そして貴方の知識も全部貰ったから、使わせて貰ったんだ。便利だね、これ」

「……何? 何を言っている?」

「貴方も、エレノアさん達も知る必要のない事だよ。あまり、化け物扱いされるのは気分が良い事じゃないからね。でも貴方には特別に見せてあげるよ。面白い知識を教えてくれたお礼さ。大丈夫。殺しはしない。だけど、死ぬ思いはするかもしれないけどね」


 森の中に吹く、風が止む。

 そして、


「な、何だこれは?! 何だキサマはっ?! うわ、うわあああああああ!!!」

 

 錬金術師の悲鳴だけが、森の中に響いた。

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