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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
11/36

黒獣と狂獣

本日2話目です。

3話目を午後3時に更新します。

 

「増える、増える」


 闇の中、男が呟く。


「増える、増える」


 闇の中、男が唱える。


「増える、増える」


 闇の中、男がいる。


「1匹かと思えば、2匹。2匹かと思えば、4匹。増える、増える。まだまだ、増える。......君たちでは、

 足らないよ」


 闇の中、錬金術師は支配する。



 ✳✳✳


「「「「グオオォォォォ!」」」」


 大地が震えた、ではない。

 震えているのは、自身の身体だった。

 十体にも及ぶ大猿の咆哮に、エラノアと生き残った男性騎士は震えていた。

 それは明らかに恐怖によるものであり、男性騎士はいよいよ剣からも手を離し、膝を地面に付ける。


「諦めるなバカもの! まだだ! 私は最後まで諦めんぞ!」


 戦意を喪失した男性騎士に、エラノアが激を飛ばす。

 だが、縋るような男性騎士の揺らぐ視線を、真正面から受け止められるだけの気力は残っていなかった。


「くそっ、兄上......」

「うむ! よう耐えたな! エラノア!」


 思わず幻聴かと思ってしまうには、あまりにも野太い、心に活力が満ちるような声だった。

 それは間違いなく、エラノアの兄にして、ルーテリア王国第一騎士団団長、ヴォルド・ハースのものだった。


「兄上......、何だ。来ないからもう死んだのかと思ったぞ」

「ガハハ! 抜かせ愚妹め。儂がこんな猿どもにやられるものか! と言いたい所じゃが、些か不味い状況なのは間違いないのう」


 全身に擦り傷や裂傷が見られるが、確かにエラノアの隣に立っているのはヴォルドに違いなかった。

 ヴォルド達は5体の白王と戦闘を行い、被害を出しながらも何とかやって来たのだ。

 見れば、ヴォルドが率いる部下の数も半分以下になり、皆が一様に傷を負っていた。


「兄上、これは何が起きているんだ?」

「......儂にも分からぬ。ロイ、他に白王の気配はあるか?」

「あぁ、あそこにいる白王が全部だよ。今のところはな」


 エラノアとヴォルドが並ぶ中に、ロイが混ざる。

 彼もまた、全身に傷があり、手にした剣は半ばから折れていた。


「ロイ殿、あれは本当に全部白王なのか?」

「間違いない、と言いたい所だがオレにもよく分かんねぇってのが正直な所だ。せいぜい2体だって話なのに、とんでもねぇ数だぜこれは」


 ヴォルドと共に、多くの魔獣、魔物と戦ったロイが身震いする。

 甘いマスクの容姿に、すらりとした体躯。

 ヴォルドと比較され文官タイプだと思われることの多いロイだが、第一騎士団の中で語られる逸話は野蛮の一言に尽きる。

 故に誰も信じないが、ロイ・マッカスという男は、黒獣ヴォルドと並び、狂獣ロイの名で通っている。


「ふむ、来るぞ」

「オレが止める!」


 ヴォルドの言葉通り、複数の白王が動き出す。

 その巨体から想像もつかない速度でヴォルド達に迫るが、飛び出したロイが一瞬で半ばから折れた剣で白王の一体の首を切り落とした。

 折れているとはいえ、魔力で長さを補っているのだ。


「ハハハハっ!どうした?! 鈍いぞクソ猿ども!」


 首を切り落とされた白王の事に嘆く様子もなく、別の個体が後ろからロイに殴りかかる。

 だがロイはまるで後ろに目があるかのように、首を切り落とした事で倒れかかる白王を足場に更に上空に飛び、その拳を避ける。

 そのまま、白王の長く太い腕を足場にし、駆け抜けてその首に深々と折れた剣を突き刺した。


「ぐおォォ!」

「ちっ、団長! やっぱり剣が折れたのじゃこれ以上無理だ! 新しいのをくれ!」

「ガハハ! 済まぬが儂も手一杯じゃ! エラノアに頼め!」


 迫ってきた他の2体の白王と戦いながら、ヴォルドはロイに言葉を返す。

 エラノアは自身の剣を渡そうと考えたが、すぐに剣に罅が入っていることに気づく。

何度も魔力を込めた事により、剣の耐久力が限界にきたのだ。


「済まぬロイ殿! 私の剣も罅が入っている!」

「何?! それは不味いぞ! こいつまだ生きてるんだが!」

「ロイ副団長! 私の剣を使ってください!」


 そう言って、深々と首に剣に突き刺したまま襲ってくる白王を避けながら、ロイは飛んできた剣を掴み取る。

 それは、造りの良い、上質な剣だった。


 投げたのは、エラノアの部隊にいた、先程まで戦意を失っていた男性騎士だ。


「申し訳ありません、エラノア殿。自ら武器を失うなど、騎士として失格でした」

「......ふふ。ロイ殿を救ったのだ。褒められることはあれど、貴殿が責められる謂れはない。兄上の部隊と一緒に下がって置いてくれ。それと、私にも剣を頂けると有難い」


 エラノアに微笑みかけられ、騎士は顔を赤くしながら慌てて亡くなった騎士の剣を拾う。

 その剣はあまり知らぬ者の剣ではあったが、白王に果敢に戦った英雄のものだと、騎士は深く1度だけ頭を下げ、エラノアにその剣を手渡す。


「これは、ハンナの剣だ」


 剣に彫られた、独特の紋様は、エラノアの部下であり、副団長でもあった女性騎士の家系のものだった。

 エラノアは左手で剣を受け取り、しっかりとその柄を握る。


「あのっ!」

「どうした?」


 剣を手に、飛び出そうとするエラノアを、思わず男性騎士は呼び止めた。

 だが、ほとんど無意識によるもので、何と言おうかと迷う。


「あのっ、えっと、その......ご武運を!」

「ふふ。ああ!」


 見事な男性騎士の礼に、エラノアも応える。

 そして、踵を返して走り出した。




 ルーテリア王国騎士。

 消息不明のカイル隊を除き、残り7名。


 白王、同じく残り7体。



白王戦が長くなって申し訳ありません。


11/12一部表現を変更しました。

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